66年目-4 ANTI-MONSTER-WEAPON
本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢
ヴァール(???)
レベッカ・ウェイン(79)
銃やミサイル、戦車といった近代兵器の数々はモンスターには効果が薄い……というのは、実のところ大ダンジョン時代が始まってすぐに判明している事実だ。
マグナム弾を叩き込んでも傷一つ負わなければ、ミサイルであたり一面焼き尽くしてもまるでどこ吹く風の無傷。戦車などに至っては逆に返り討ちにあってしまうなど、とにかく人間の創り出した武器の中でもいわゆる銃火器や兵器の効き目がとにかく悪いのである。
これは実に不思議な現象であった。たとえば非能力者であっても剣を突き立てるなりハンマーで殴りかかるなりすれば、弱いモンスターであればそれなりにダメージを与えられたりもする。
だのにそれが拳銃やライフル、手榴弾などに置き換わった途端何一つ傷も怪我も衝撃さえも負わなくなるのだ。
唯一それらの武器が、モンスターの落とす素材によって創られていた場合のみ通常想定し得る効力を発揮できるというのだから、世界の学者や研究者達はこの問題に大いに頭を悩ませることとなる。
また哲学者やオカルティスト、宗教家などは陰謀論めいた自説をも次々ぶちあげることとなったが、それらはまあ余談めいているエピソードだろう。
人類の科学が通用しない謎の存在、モンスター。しかしそれでも一部の者達は諦めなかった。
モンスターを倒し得る火器を、兵器を科学を求めて研究を続ける企業や研究者がいたのだ……いわゆる軍事産業分野においてである。
"対モンスター用機械兵装"、アンチ・モンスター・ウェポン。通称AMWと呼ばれる超科学兵装の開発が、大ダンジョン時代65年を経過する頃には持ち上がりだしていた。
そしてそのことを知ったWSO統括理事ソフィア・チェーホワは目を丸くして驚き、彼女の裏人格ヴァールに至っては心底から感心を示していたのだった────
よくやるものだ、とヴァールは率直につぶやいた。珍しく無表情を崩して軽く目を見開いた、彼女にしてはあからさまに驚きを示した形でのリアクションだ。
スイスはジュネーヴ、WSO本部統括理事室。朝からソフィアが書類業務をこなして昼以降、ヴァールに交代しての客人対応をこなす、それなりに忙しい一日だ。
今日の来客はWSOの理事の一人、レベッカ・ウェイン。能力者大戦の頃からの知り合いであり、探査者としては引退して久しいものの、79歳になってもなお体格が良く健康そのものな豪快さを誇る烈女である。
そんなレベッカはこの日、一つの資料を持って来ていた。各国の政界、経済界に幅広い人脈を持っているがゆえに飛び込んできた、ビッグニュースを統括理事へと伝えるためだ。
「対モンスター用機械兵装……探査者のスキルを増幅させるっていうエンジンだかなんだかを開発し始めたそうですよ、ドイツの軍事産業大手、ウラノスコーポレーションが」
「あそこか、意外だな。探査業界にはこれまで参入してこなかったはずだ、いきなりわけのわからんものに着手し始めるのか?」
「そこは日本の桐柳探査工業が協力するそうで。こと探査者用の武器防具の開発にかけちゃ日本は最先端ですからねえ」
モンスターとの戦闘に用いるための機械兵器……対モンスター用機械兵装。
その発想もだが何より、探査者のスキルを増幅させるというエンジンの開発というのが意味不明だと、ヴァールは内心にてつぶやいた。
スキルの効果を増幅させる、などというのはこれまで様々実験や研究が進められなくもなかったが、結局異なるスキルや称号効果を組み合わせての応用に過ぎない結果ばかりに終わっていた。
道具を利用するにしても、精々がライフハック程度の便利遣いの用途しか見いだせず。少なくともモンスター相手に試すべきでないような趣味のジャンルでしかなかったのだ。
そんなある意味夢の実現に、軍事産業大手のウラノスコーポレーションは真正面から挑むというのだ。
協力企業だという桐柳探査工業の名もヴァールは聞き覚えがあった。ふむと顎に手を当てる。
「モンスターの素材を加工する技術において世界トップシェアを誇る企業だな。本気で造るつもりか、スキル増幅機構を」
「もし実現したら探査者の実力も大きく飛躍するかもですねえ。増幅の倍率にもよりますが、たとえば元の威力の100倍とかってなったらそりゃすげえことになりますよ、だっはははは!」
「子供じみた話だが、極論すればそうなるな。我々としては歓迎したい話ではあるが、さて」
豪快に笑うレベッカの物言いに生真面目に賛意を示しつつ、やはり考えるヴァール。
大ダンジョン時代も早65年が過ぎた。着々と探査者達は世代交代を重ねつつ全体の実力を向上させ、上澄みともなればもはやヴァールをも超える逸材もちらほら、出現してくれている。
今のところ非常にいい流れだ。そこにこの増幅機構が加われば、さらに飛躍的に探査者達が強くなれるかも知れない。
それはすなわちソフィアとヴァールが人知れず背負う使命、"大いなるモノ"と交わした盟約を果たせる可能性が高まるということだ。
独り言ちる。
「"本体"そのものは叩けずとも……"端末"そして"三つの機構"を相手取れるだけの継承者は、候補が多くいればいるほど良いからな」
「ヴァールさん?」
「……なんでもない。しかしネーミングについては多少、安直だな? アンチ・モンスター・ウェポン、通称AMWか。そのままな気もするが、こういうのはストレートなのが当世風なのか」
「あー、やっぱそう思います? 私なんかは逆に結構好きなんですけどね、このド直球さ」
──"救世技法"を継承し、いずれ来たる決戦に赴く戦士の実力は高ければ高いほど勝率が高まる。負けることの許されない戦いだ、どんな手段であれ強ければ良いのだ。
つまるところそのためにソフィアもヴァールも今、ここにいる。WSOを創り数多のモンスターハザードを乗り越え、時代を牽引しているのだ。
すべてはいつか必ず現れる存在。かつてのソフィアと自分を引き継ぐ者のために。
大きな期待を寄せてヴァールは、AMWとやらへと想いを馳せるのであった。
ブックマーク登録と評価のほうよろしくお願いいたしますー
AMWの使い手も登場する「攻略! 大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─」は下記URLからご覧いただけますー
https://ncode.syosetu.com/n8971hh/
書籍化、コミカライズもしておりますのでそちらもよろしくお願いいたしますー




