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魔王討伐  作者: 甘党辛好
41/45

勝敗と前兆

「んで?」

「どうすんのよ」


山月が僕に聞いてくる。


「…やはり、奴のスキルは砂を操る能力だ」

「あの手のスキルは、時間を与えれば与えるほど厄介だ」


それに、皆の体力や魔力は、先の戦いでほぼ無いのは明白だ。

それを考慮しても時間をかけ過ぎれば、こちらの不利になる事は間違いない。

だからこそ。


「手数で押そう」


「了解…まぁ全員、満身創痍だしな」

「確かに、それがベストか」


「皆!!」


「はい!」


「行くぞ!」



剣を握り、山月と僕、モカが先陣を切ろうとする。


メルクは少し驚いた表情をするが、すぐにニヤリッと笑い、殺気あふれる表情に戻る。


「そうか、そう来るか…いや、一瞬焦ったよ」


メルクは、そう言うと魔法を打とうとしていたスィとミールの足元に砂が集まり、巨大な物体を形成する。


「いでよ、砂巨兵」


メルクが手を上に掲げると、巨大な物体は手を作り、顔を作り、体も人間らしくなっていく。

正しく巨人…巨兵というのが似つかわしい存在へと、成り代わっていく。

その巨兵の両拳は、上から下にミールめがけて勢いよくぶつかる。


ドシンッと巨大な音がするが、ウーさんと餓鬼さんが間一髪受け止める。


「行ってください!ライト様!」


その言葉を聞き、僕ら三人は再び動き始める。


「チッ、惜しいな」

「では…これならどうだ?」



「いでよ、サンドワーム」



「させるかよ!」


僕と山月がメルクを叩き切る。


「残念だな、もう起動させた」


しかし、メルクの体は砂と化し、攻撃が通らない。



地に落ちた砂がメルクの形を形成し始める。

それをモカが、再度斬り掛かるがそれすらも砂になり回避される。


地面が大きく揺れる。


「キシャァァァァァァァァァーーーーー」


この世の物とは思えないような声がすると同時に、地面から大きな虫が現れる。

ミミズのような見た目で、先端に大きな口が着いている。


その虫は、一直線にスィ達の下に向かう。


「スィ!」


スィは自身の手から、水滴を大量に放出し投げ、魔法を唱える。


「アイスコース!」


その水滴は徐々に先端が尖っていき、巨大な氷柱へと変形する。

その巨大氷柱達は、巨大な虫を串刺しにし動きを止める。


「ナイスだ、スィ!」


ウーさんの声と同時に、ワームが砂に変わっていく。


「ふむ…流石は奴の娘だな、まぁよい」

「では…これをどう避ける?」

「ー砂海」


「させねぇよ!」


山月が斬り掛かるが、またもメルクは砂になりそれを回避する。


「くどいぞ」

「…それに…仲間の心配をしたほうが良いのではないか?」


「は?」


メルクが魔法を唱えると、地面が大きく揺れ、大量の砂が地面から現れ、海のように動き始める。

やがて、その砂の海は大きく荒れ、スィたちの方に向かっていく。


「皆!」


スィの魔力は連戦による影響か、もう底をついていた。


(マズイ…!)


そう思った矢先だった。


ミールが魔法を放つ。


「水晶よ!我らを守護せよ!」

「クリスタルウォール!!」


ミール達の目の前に、無数の水晶が現れ、やがてそれらは水のように滑らかに姿を変えてゆき、それぞれが合体しあい、やがて大きな一枚の箱となった。


砂の海は、大きく波打ち、その箱にぶつかる。

しかし、箱はビクともせず、傷一つ付いていなかった。


「いいぞ!ミール!」


餓鬼さんの褒め言葉に少し嬉しそうにするミール。


「ほぉ…あの獣人のメス…やるなぁ…」


しかし、そんな様子を見ても依然として、余裕綽々といった風な表情のメルク。

その表情は、自身の圧倒的な力に自信があるといったような、強者が弱者を見つめているような…そんな表情のようだった。


「ミールちゃんやるぅ!」

「…さて、反撃といこうか…!」


「あぁ」


山月の言葉に、僕は呼応する。


「…はぁ、反撃だの…チャンスだの…あまりほざくな…今から倒すのが可哀想になるだろう?」


「言ってろ」


僕が、先陣を切り斬り掛かる。


「貴様らは!」


勿論、やつは砂になる。


(何処から来る…)


(左…!)


左側に現れた奴の蹴り技を、受け切る。


「連戦により!もう魔力も!」


すぐに反撃をしようとするが、メルクは攻撃を受けた瞬間にまたも砂と化す。


「ましてや体力も!」


(この対処法は無いのか……!)

(何か弱点でも…!)


「無いに等しい!虫けらなのだよ!」


「ライト様!上!」


「…ッ!」


僕の真上に、メルクが再度出現する。



(マズイ…!)



「ライト様!」


間一髪だった。


油断した瞬間を狙われたが、間一髪…モカがメルクを切り裂く。


「モカ!横だ!」


瞬時に、横からメルクが現れることを確認し、モカに伝える。

モカも素早く感じ取り、メルクの現れる場所に魔法を放つ。


「ストーム!」


モカの風魔法で暴風を起こし、メルクの体は宙に浮く。


「ほぉ…オスの方も見込みがあるな…」


モカの動きをその体で体感したメルクは、関心して完全に油断している。


油断しきっているメルクの横に、大ジャンプをしてきた山月が空中でメルクを叩き斬る。


「砂になるんだろ?」


砂になり避けたメルクの出現場所を予測し、事前に、攻撃を仕掛ける山月。


メルクはそれを、ナイフで捌く。


「何故…分かった…?」


「お前、出現する際にコンマ何秒かのラグがあんだろ?」


「それを見切り、予測したと?」


「そう、まぁ…運が良かったよ」


「そうか…」


山付きの返答を聞くと、メルクはニヤリッと笑い、自らの体を砂へと変える。


(コイツ…!わざと砂に変化して…!)


山月の剣は、メルクの砂の体の中にゆっくりと入っていく。


そして…。


メルクを切り裂いた。




「…ガッ!」


その瞬間。

切り裂いた瞬間だった。


メルクは山月を羽交い締めにしていたのだ。


「…どうしたぁ?」

「そんなに慌てて…」


「コイツ…!」


「先ずは…右腕を一本折ろうか…」


満面の笑みを浮かべながら、話すメルク。


「…ッ!」


“腕を折る”そう宣言したメルクは直ぐに、山月の腕を…。


           折った


「あぁぁぁあアアアあぁぁぁ!」


「どうしんたんだ…?そんなに悲鳴を上げて…ただ腕を一本折っただけじゃないか」

「あぁ!もしかして…高いところが怖いからそんなに喚いているのかな?」

「安心しろ…落ちることはない…現在、我輩の体の体積は空気より軽く設定してある」

「まぁ、スキルの応用して浮き続けるから安心して身を任せて…苦しめという話だ」


「…ウッ…グッ…!」


「アニキ!」



「さぁ…そろそろ死のうか?山月君?」


「…ガ…ッハ!」


山月の口が、メルクの両手で無理矢理こじ開けられる。


「さぁ、吸いなさい?」


メルクは優しく、それでいて狂気的に話し、山月の無理矢理開けた口の中に、メルクの砂を流し込まれる。


抵抗していた山月も、やがて動きが鈍くなってきている。


(あぁ…俺…死ぬのか…)


山月の意識はだんだん朦朧としてくる。


「ハァ!」


モカが、間一髪山月の後ろに張り付いているメルクを、何とか斬り込む。


「チッ…!」


再出現したメルクを、直ぐにモカは追撃する。


「一風迅!」


「目障りな…!」


モカによって再度切り裂かれるメルクだったが、切り裂かれた後に、再度出現する。


場所は…。


モカの後ろだ。


あまりに速すぎた移動に、モカは気付かず、後ろから背中にかけ肘打ちし、モカは気を失う。



解放された山月も、直ぐに一矢報いようと攻撃をするが、それすらも嘲笑うかのようにメルクは砂へと変貌を遂げる。


空中から山月とモカが降ってくる。


直ぐに、ウーさんと餓鬼さんが近寄る。


「大丈夫か!山月!モカ!」


「あぁ…俺は…平気だ…そんなことより、モカを…」


「あぁ!」

空中にいたメルクが、地上へと現れる。


「ー水月」


僕は、それを確認した瞬間、メルクを剣技で叩き斬る。


剣を水の妖術で、纏わりつかせ、メルクを攻撃した。


「…ほぉ…考えたな…」

「確かに水であればを…物体化した我輩を物理的に斬り刻む事も可能だろう…」


その通りだ、メルクは砂のスキルで常時砂のようなもの。

だからこそ、水を使えば物理的にやつを倒すことができると考えた。


「しかし、だ」


「そんな、簡単で誰でもわかるような弱点を我輩がそのままにしとくとでも?」


「あぁ、そうだと思ったよ」


メルクは再度砂になるも、僕自身も山月のように予測し叩き斬る。


再出現したメルクは後ろからナイフを持って、僕を攻撃するが何とか、その攻撃をいなす。


「…ほぉ…受け切るか」


その後も、何とか数の手で押し通そうとするが、それらは全て無駄に終わる。


「いい遊びだったぞ」


あまりに侮辱。

その発言に僕の心の中は、何か黒い物に包まれる。


「…そうだ、ライト」

「一つだけ教えてやろう…後ろを見ると良い」


「は?」


「安心しろ…襲いはせんよ」


嘲笑うかのように僕を鼻で笑い、話すメルク。


しかし、嫌な胸騒ぎがする。


僕は後ろ振り向く。


そこには…。


「うっ…うぅ…」


スィとミールが、何か小さく黒い…無数の物体に囲まれ衰弱していた。


それを見た僕は、いてもたっても居られなくなった。

直ぐに足が動く。


「スィ!ミール!」


「…ねぇ…ちゃん?」


僕の「ミール」という言葉で起きたのか、モカも目を覚ます。


「姉ちゃん…?」

「姉ちゃん!」


モカも僕と同様…カラダが勝手に動いたようだった。



(何か異様な胸騒ぎがする…。ライト様を止めなくては)

「ライト様!」

ウーさんが僕らに声を掛けるが、その声は今の僕らにとって無意味だった。

「ライト様!何かヤバい!それに近付くな!」


「大丈夫か!スィ!ミール!」


「姉ちゃん!姉ちゃん!」

スィとミールは完全に衰弱しきっていた。

衰弱しきっているミールの体を、何度も揺さぶるモカ。

「姉ちゃん…!姉ちゃん…!」


閉じていたミールの目が少しだけ開く。

ミールは口を開き、何か小声で話している。

小声であったが確かに聞き取れた。


「駄…目……逃げ…て……」


と。


一瞬だった。


「ア゛……」



「モカ!」


モカが倒れた。


ーーーー山月視点


「ほぉ…ライトのやつは喰らわんか…運が良いな」

「では…もう一本」


メルクがライト達を狙う。


「メルク!」


「?」

俺は、メルクを突き刺す。

メルクは砂になる。


「おやおや、生きていたのか」


「メルク…お前の相手は俺だろ?」


「はぁ…やれやれ、まだ自分の立場を…理解できていないのか?」


「それはテメェ…ッ!」


全身に激痛が走る。

腕折れたなんてもんじゃないくらいの激痛。


「くる…し…い……」


「今、貴様の肺の中に入った私の砂を、少しだけ大きくしてやった」

「意味がわかるか?」


「ハァ……ハァ……」


何も話せねぇ。

ただ、痛い。

ただ、苦しい。


その感情だけだった。


「肺胞という物を、私の砂で肥大化させ破壊してやっているんだ」

「さて…山月」

「正直、我は貴様に嫉妬するぞ」

「ここまでの技を受けて、失神すらしない貴様にな」


「当たり…前…だろ…なんたって………俺は…」

     「勇者だからな」


「ふっ…“元”だがな」

「ま、だからこそ…そんな貴様は手に余る」



メル指を銃のような物にし、山月に狙いを定める。

すると空中に大きな砂でできた銃弾が現れる。


「それではな…山月」

         「死ね」



「…おい」


山月に狙いを定めたメルクを、ウーさんと餓鬼さんが、背後から殴りかかる。

またも砂になり、メルクに攻撃を避けられる。


「次は俺等だ」


「すまんな、山月」

「後は任せろ」


俺にそう話す二人の背中は、正しく「戦雄」と呼ばれるに相応しい二人だった。


「…戦雄」

「光栄に思うよ、貴様ら二人と戦えるのはな」


「あぁ、俺等も光栄だよ…お前みたいな下衆を排除できるのは…な!」


ドォン!



爆発音かのような大きな音がする。


砂の地面が一部、宙に舞う。


「…馬鹿力め」



「ハッ!言ってくれるぜ」

「こんなの…まだ序の口だろ?」


ーーーーライト視点



「モカ!」


そう叫んだ途端だった。

僕の足に力が入らない。


そして、意識が朧気となる。


(ヤバ…意識が……遠…のく………)


意識が完全に途切れる瞬間だった。


”何か“に殴られた。

僕の体は、黒い無数の物体の中から抜け出す。

その“何か”の正体は…スィだった。


「行って…行ってください!ライト様!」


「スィ…」


「あなたが戦わずして………」

      「誰が戦うというのですか!」


「………」


その通りだ…。

だが……あろうことか…僕は放心状態に陥った。


今まで皆が、助けてくれた命。


だが、“ただ助けられただけ”の命でもある。


そんな僕が。

仲間一人満足に救えない、無力過ぎる僕に…


      何ができるというのだ?



「ライト!」


「……」


「目ぇ覚ませ!」


「…ッ!」


「テメェが戦わずして、誰が戦うんだよ!」


「山月…」


「誰の為に…なんの為に!ここまで皆来たと思う!」


「…」


「魔王を倒す為だ!」

「その目標の為”だけ“に俺等はここまで死ぬ思いで来たんだよ!」

「なぁ!ライト!お前は違うのか?」


「それは…」


「お前は、魔王を倒して仇取るんだろ!?」


「…ッ!」


「何、それを忘れてんだ!」

「どうせ、仲間一人救えないだの、自分は無力だの!思ってたんだろ!」

図星だ。

僕は、そんな自暴自棄になり、放心状態に陥っていた。

「当たり前だろ!お前は魔人だぞ!」

「そんな奴が、何度も出来ると自惚れんじゃねぇ!」


「……」


山月の言う通りだ。


「俺は今から、ウーさんと餓鬼さんの所に加勢する!」

「お前はどうすんだよ、ライト!」


答えは一つしかない。

いつだって僕は、誰かに助けられてきた。

だからこそ、ここで自分の力で勝たなくてはならないんだ。 


それが、助けられた者にできる恩返しのひとつなのだから。


「スィ!ありがとう!行ってくる!」


「…はい…それでこそ貴方様です」




「覚悟決めたな!ライト!」


「あぁ、山月!お前の言葉に救われたよ」


「そう言われると照れんな」


「腕と肺は…」


「あぁ、たかだか」





「あぁ、たかだか腕一本と、肺を壊されただけだ…命掛けてんだ…そんぐらいの犠牲でもないと、この状況を脱却出来るとは到底思ってねぇよ」

「殺し合いは、五体満足で帰れるほど甘い物じゃねぇ……」


「そうか」


「ふっ…誰だと思ってやがる?俺は”元“とはいえ勇者だぜ?」


「そうだな」


「それよりもだ!俺等もウーさんと餓鬼さんに加戦しよう!」


「あぁ!」


2人で気持ちを揃える。

しかし、目の前に広がる光景は全く別の…予想打にしない光景だった。


   ウーさんと餓鬼さんが、負けている。


ーーーーーウーさん、餓鬼さん、メルク視点



三人の戦闘はほぼ互角の戦闘が続いている。

いや、むしろ二人のほうが優勢と見えるだろう。


「どうした?」


「ハッ、流石戦雄様だな…素晴らしい力だよ」


「そりゃどう…も!」


ウーの渾身の一撃は、メルクに当たる。


(再生が追いつかん)


メルクがそう思ったのも束の間。

直ぐに次の攻撃が来る。


「ほぉ…受けるか」


「鬼の方は…牛よりも攻撃力が少ないな」


「あぁ…俺は技術で戦うんだ」


メルクは、餓鬼の技を完璧に受けきったと思っていたが、それは違ったのだ。


(うっ…なんだこの力!)


途端に、メルクは砂と化す。


また、メルクは再生するも、再生した瞬間にウーに頭を握られる。


「おい…そろそろ、限界なんじゃないか?」


「グッ…化け物め…」


「お前の弱点は、戦って分かった」


「そうか…ならば…我を倒してみせよ」


横から自身の金棒で殴るウー。


しかし、メルクは砂となりそれを避ける。


殴っては再生し、斬っては再生を繰り返すメルク。


しかし、それもようやく終わる。


再生したメルクを、ウー、餓鬼の二人で叩き斬る。


「貴様ら…無尽蔵か…!」


「あぁ、生憎…お前のようなスキルだけの雑魚は何人も相手にしてきたから…な!」


二人はメルクを叩き斬る。


メルクは砂になり、二人の背後に回るが…。


二人は同時に反転し先程のメルクを叩き斬って遠心力と、自身の力の最大限を使おうとする。


目を見開くメルク。

(マズイ…!)

メルクの表情は、明らかに死を覚悟していた。


咄嗟にメルクはスィとミール、モカの方に左手を向け、右手をウーと餓鬼に向ける。


「消えろ!メルクーーー!!!」


二人は油断などせずに、メルクを叩き斬ろうとする。


だが…


メルクがニヤリッと笑う。


(勝った……!!)

メルクの表情は、真逆のものへと変化する。


甘かったのだ。

ほんの少し、後数ミリ…二人の刃はメルクには届かなかった。


二人は砂に埋もれた。


「ハッ…ハッハーー!」

「残念だったな!戦雄!!!!!」



ーーーーーライト視点



「嘘…だろ…?」


「あぁ…」


僕と山月は目を疑う。

それもそのハズだ。


あの二人が負けるなんて思いもしないからだ。


しかし、同時に背後に違和感がするのがわかる。


不意に後ろを振り向く。


スィとミール、モカのところにいた黒い無数の物体が無い。


そこで、あることに気付いた。


「…量だ」

「山月!」


唖然としていた山月に、僕は大声で話しかけ目を覚まさせる。


「なんだ?」


「量だ…奴は操れる砂に限度がある」


「…ッ!マジか!」


「あぁ…奴の操れる限度的に…そろそろ、再生はできなくなるはずだ」


「てことは…?」


「最初と変わらん…手数で押すぞ」


「了解!」


勝機が見えてきた。


ここは…絶対に…   勝つ!



「さて…作戦会議は終わったか?」


メルクが、山月にいきなり仕掛けてくる。


(おかしい…こいつパワーがさっきより上がってやがる)


山月の戸惑いの表情を見て、上機嫌に話すメルク。


「…このパワーに戸惑っているのか?」

「いやなに…単純な話だ」

「先程の、スライムや獣人に群がっていた砂…そこの戦雄の砂は…同一の成分でな」

「パワーと魔力を吸収し、自分の物にするのだよ!」

「…だからこそ我は上機嫌なのだ!勝ちを確信したからこそ!」

「あぁ!今こうしている時間も!パワーと魔力が!」


「…うるせぇ!」


僕がメルクの顔を殴る。

奴は、砂となる。


それに合わせ、山月はもう一度再生したメルクを叩き斬る。


「酷いなぁ…人が上機嫌に話している時は邪魔しちゃいけないと…教わらなかったのか?」


「生憎…親は早くに亡くなっててな」


「あぁ、現魔王に殺された、哀れで醜く可哀想で、とても弱い元魔王の一族だったな…忘れていたよ」


「あ?」


それを聞き、僕はもう一度、メルクを叩き斬る。


再生するのを見越し山月に伝える。

「山月!」


「あぁ!」


山月も、メルクを叩き斬る。


すると、メルクはもう一度砂となり、再生する。


再生する場所は僕の背後だ。

メルクは僕に組み付こうとする。

僕は、それを見越して、メルクの顔に肘打ちをする。


「ウッ…!」

(コイツら…動きに隙がない…いつの間にこんなに力を…)


メルクはもう一度、砂になる。


場所は恐らく、僕の前だろう。


…予測した通り、僕の目の前に奴は再生する。


僕は奴の頭を握り、地面へと叩き付ける。


ーどうやら、もう砂の再生は使えないようだ。 


ーーー長い戦いは、一瞬にして終わった。ーーー


「終わりだな」


「何故だ…何故一瞬にしてここまで…」


「スキルに頼ってるからだよ…そんな奴が死に物狂いの僕らに勝てる訳無いだろ?」


「ハハッ…そうか…」


しかし、まだ何か企んでいるメルク。


(だが…これでいい…我は…ライト、貴様を殺せればそれでいいのだ)


メルクの口が開く。


「実はな…後1回分再生が残っているのだよ、ライト」


「あ?」


「では何故しないと思う?」


「強がりはよせ」


「強がり?違うな」



「簡単な話だよ」



ーーーライト、お前を確実に殺すためだ


メルクの口から大きな槍の先端が見える。


その槍はゆっくりと口に構えられ、そして僕の方を狙い。


ーー撃った。












だが、僕は…僕等は油断などしていない。


何故なら…決めるのは。


「僕じゃないからだ」



僕は、奴の拘束をとき、既のところで避ける。



奴は、予測していなかったような表情をし、そして。


僕の後ろから、山月がメルクの頭を突き刺した。



「じゃあな!メルクーーーー!!!」



肉に刃物を突き刺したような鈍い感触。



メルクは死んだ。








「よっしゃ!」


「やったな山月!」


「あぁ!ライト!」


僕らは二人で、勝利を分かち合う。


「流石は、俺等の弟子」


「俺等の…じゃねぇ!俺のだ!」


「んだと?」


「やんのか?牛!」


「よし、ウーさんと餓鬼さん、スィとミール、モカの救助をするぞ」


「あぁ!」


「帰って、セリナさんの美味しい手料理を食おう」


「ハハッ!良いなそれ、ところで…この腕ってセリナさん直せる?」


「あぁ、多分な」


「え!マジ!やっ………」


山月が僕の視界から消える。


吹き飛んだのだ。



そして、奥の方から拍手をする男がこちらを向かってくる。


「ブラボー!」


と一言だけ話しながら。


男は、ゆっくりと近付いてきており、その拍手の正体がわかる。



ーーーメルクだ


ーーーーーーーー???視点


「いやー…お人形遊びは楽しかったか?」



「………え?」


「あぁ…可哀想に…理解が追いついて居なさそうだな」

「…もしかして、山月くんのことが心配なのか?」

「安心したまえ…彼の中に入れた砂を変形させ、吹っ飛ばしただけだよ」


「なんで……」


「なんで?」


「だって、僕らがお前を…」


「ふっ…ハッハッハ!」

「笑わせないでくれ、ライト!」

「あれはただの砂でできた人形だ」


「………………」


「あぁ…その表情!いいね!」

「奴に見せたいくらいだ!」

「………さて、ライト」

「消沈の所悪いが…死んでもらう」


「………」


「ただ…簡単に殺しちゃ面白くない」

「そこでチャンスをやろう」


「……」


「もし、貴様が我の攻撃に耐え、意識のある状態で生き残ったら……」


「我は貴様の手で、死んでやろう!」


ライトの周りに、無数のナイフと、数体の巨大な斧を持った巨人が現れる。


「…」


「まぁ…“生き残れたらの話”だかな」


ライトは完全に負けたのだ。

ライトは思考を、考えることを放棄した。

そして、その表情は正しく。


ーー絶望の表情だった。



「ふっ…本当にいい表情だ…奴に見せたら喜ぶ程にな」


「やめろ!メルク!」


「それ以上やってみろ!お前は死ぬぞ!」


「はぁ…貴様らの脅しなど通用せんよ」

「もし、本当に貴様らがスキルを使えば、我は殺せるかもしれんが…せっかく集めた仲間も死ぬからな」

「さて…」


「やれ」




ーーーーーーーーーー


ライトは、顔は左側がえぐられ、無数の穴が空いた状態のまま、立ち尽くしており、間違いなく魔神の心臓部である、魔結晶は砕け散っているだろう。


「さてと…」

「それでは…獣人とスライム以外は殺してしまうか」

「貴様ら戦雄と、山月といったかな?」

「貴様らは強大だが…この強大な力が手に余る」

「制御しきれん」

「だからこそ…今ここで殺してしまおうぞ」


「落ち着けよ?牛野郎」


「あぁ…分かってる!」


二人の戦雄は、いつ完全な怒りで何も考えられなくなっていた。

しかし、ギリギリの所で意識を保っているそんな状況だった。

「俺等が、ここでキレちまったら…全員死ぬ!」


「分かってる!でも!」


「さて…先ずは山月…貴様からだ」


「先程も言ったが…貴様には嫉妬しているよ」

「あそこまでの勝利、生への執着力…恐れ入る」

「よって…一番最初は私情で選んだ結果、貴様だ」

「じゃあな、山月望」


意識が朦朧としている山月は、最後の敵の顔を見上げる。


「…可哀想にな」


メルクのその一言と同時に、メルクの指は先程と同様銃のように構えられ、天空から巨大な銃弾が姿を

現す。


「死ね」


山月に向かって、その銃弾は発射された。


ーーーー?????視点


キィー……ン


山月の素早く近付いてくる巨大な銃弾は、間一髪、真っ二つに割れる。


「…貴様…なぜ」


メルクは、唖然とする。


それもそのハズだ。


ライト ハ イキ テ イル ノ ダカラ


体が無数に穴が空いている状態で、ライトは意識もない。

しかし、あまりの素早さで、意図的に動いていた。


「…」


ライトはメルクの反応に対して、無反応であり、生気は一切感じない。

あまりに不気味である。


生きる屍…とでも言うべきか。


キィー……ン


ライトはメルクに斬り掛かる。


メルクは戸惑いながらもそれを捌く。


何度も捌き合いを行う。


正しく、互角。

いや、ライトのほうが圧倒的に有利か…。


そう思えるほどの力でメルクを圧倒する。


「どこに…こんな力が…」


唖然や驚愕を超え、恐怖さえしているメルクに対し、ライトは…


ーーーー笑っていた


ライトは不意に声を漏らす。

「楽しい…」と一言だけ。



「は…?」


そう。


ライトにはその感情しかなかった。


ただ、ライトはこう思っていたのだ。



楽しい…


楽しい…


タノシイ…



       ー狂気的愉悦ー







(いや…大変長らくお待たせしました。すみません…。中々モチベが上がらず…。こんなに皆さまを待たせて!俺は!俺は!…本当に申し訳ございません!……ということで、次回は水曜日に投稿します。いやーしかし、ライトの奴はどうなってんでしょうね)


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