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魔王討伐  作者: 甘党辛好
33/45

銃兄弟 兄戦 中編

カチャッ…

奴は銃を素早く構える。

素早くなんてもんじゃなく、一瞬だ。

瞬きをした瞬間に奴は手に銃を持っていた。


マズイな…。


この距離、どれだけ素早く相手のところまで行ってもその間に打たれてしまう。


鈍い発泡音。


とてつもなく重く、重く、重く。

その音は僕の目玉を貫いた。


「あっ…アァ!」


僕は貫かれた右目を抑える。


「何か考えているんだとしたら…やめといたほうがいいぞ、実力差があればあるほど、弱者は自由に何も考えず動いたほうが遥かに強い」

「お前と俺とでは、実力差が拮抗こそしているが…戦場を、生死をくぐり抜けてきた、実践経験の差がある…だからこそ死ぬことも生きることも…何も考えずに動いてみろ」


「あ…アァ!」


「苦しんでいる振りはやめろ…見苦しい」


「…バレてるかい?」

僕は直ぐに立ち上がり、貫かれた右目を相手に投げた。


「…!?」


僕の突拍子も無い行動に、奴は焦ったような表情をする。


「いや…ただのフェイントだよ」

「shadow!」


先程と同様に後ろにまわり、刀を真上から下へと、やつの頭目掛けて斬り掛かる。


(真向斬り…!)


「…後ろが好きだな」


奴はすぐさま、僕の腹部めがけて蹴りをいれる。

宙にいた僕は、踏ん張りが効かず、そのままその勢いで廊下へと出てしまう。


「グッ…ウッ!」

腹部を押さえ奴の方を見る。


「ミニガンだ…!お花畑は好きかな?」


でかく、様々な銃口が付いているものがやつの腹部から見える。

いや、どちらかというと腹部の空間からぐるぐると回りだす。


(何かがマズい…ッ!)


僕は何かを察知し、部屋と廊下の間の壁を利用しながら移動しようとする。


が…


聞いたことないような、素早い音。

とてつもなく軽い、がどこか重いような音が無数に聞こえる。

あまりの速さに、壁を利用し、攻撃から逃げようとしたが腹部を無数に打たれてしまう。



「2つ目だ」


同様の音と共に素早い音、それと共に僕の足が無数に撃ち抜かれる。


僕の体の穴が開けられた所から大量の血液が流れ出す。


しかし、僕にとってそんなことどうでもよかった。


今は、この状況を切り抜けることが大切だ。

切り抜けられなければ…どのみち死ぬだろうな。


負けたって…願いが叶うのであれば僕は平気で負けるし…だが、死んでしまっては別だ。仲間が殺されるのは別なんだ。

僕が今ここで負けてしまえば、あの子達は殺される可能性がある。

僕自身の夢も叶わなくなる。


だからこそ、この状況を打破できる算段を考えなくてはいけないのだ。


こんな、血液や痛みに構っている暇はない。



しかしどうする?この足や腹部は再生するにしても…してしまえば魔力が足りない。


魔力と体力は共依存関係にある。

体力を使う再生能力を使えば実質的に魔力も減ってしまう。


だからこそ…この状況を…どうする?

何がある?何が出来る?


「あるではないか」


「!?…魔王か?」


僕の心にいる人格…魔王が話しかけてくる。


「あぁ、我だ」

「…今は貴様に死なれるのは、我らとしても困るのだ…貴様は全てにおいて我らの…」


「御託はいいから!何があるんだ!」


「…闇矢」


「!」


「我ら純血なる魔王一族に伝わる技があるであろう?」


「…確かに…!たまにはいいこと言うじゃないか」

「あの時の事は、まだ許せてないが…今だけは感謝しとく」


「…そうか…あとは好きにしろ」



ーーーーーー銃兄弟 兄視点


ここまで打てば…奴はもう立ち上げれないはずだ


いくら再生能力のある化け物だとしても、やつが再生を使えば魔力は使えんはず。


(さて…どう来…!)


壁に大きな切れ込みが入る。



…!?


どこにそんな体力を使う余裕があるんだ!?


驚いていた矢先、大きな亀裂が入った壁を大きく崩壊し…煙が立ち込む。

そして、奴が、ライトが煙から颯爽とこちらに向かって飛び掛かり。

俺に向かって斬り掛かる。


すかさず俺はナイフを構える。


「やっぱよ?この状況どうにかするには半端な気持ちで挑んじゃダメそうだ」


「そりゃそうだろ、ライト」


奴が油断した隙に片方の空いている手で、奴の頬目掛けて殴る。


奴はまたもや吹っ飛ぶ、しかし吹っ飛んだ瞬間に気付いた。

奴が先程いた場所に何かが浮いている。

それは、大きく、ひし形の方をした…”何か“があった。

同じものがズラーッと並んでいる。


嫌な予感がする…


「…!」


あたりを見回して分かった。

その、宙に浮いている物は…俺の周りに沢山あった。

壁側のは煙でわからなかったが…その俺を囲んでいる”物体“は、クリスタルの形をしており、色は鮮やかな“赤”だった。


(なんだこれは…俺を囲んでいる?)


「まぁ、普通じゃ勝てないからな」


(待て…文献で見たことがある、確かに魔王族の血を受け継いだ純血なる者は…血液を固体化し武器にできると)


「ふっ…ハハ!ライトォ!流石だな!流石、純粋なる魔王族の生き残りだ!」



「お褒めいただき光栄だ」


ライトがそう言うと、壁のあったほうに立ち込んでいた煙から…別のなにかが向かってくる。


宙に浮く物体に気を取られていた俺は、油断してしまいその、なにかに…思いっきり


蹴られた。


「何をした?」


一瞬理解が追いつかず、ライトの方を見てしまう。


下半身がない。


先程、俺を蹴った物をもう一度見ると…

ライトの下半身…か?


その瞬間、ライトの下半身と思われる物体はライトの上半身の下まで戻る。


「まさか、引っ掛かってくれるとはな…」

「嬉しい誤算だよ」


「そうかい」


「じゃあ…鬼ごっこだ」


奴が腕を上げる


無数のクリスタルが、こちらを向く。



俺は今、倒れている。

マズイな…


奴が腕をおろした瞬間、こちらにクリスタルが一斉に向かってくる。


ロケットランチャーや、ハンドガンを使いクリスタルをいくつか破壊する。

思ったよりも脆いが、人を殺すのには十分な鋭利さと丈夫さといった殺傷能力を備えている。


数が多すぎるな…!



「…終わりだ」


「二の怪…籠」


ドン!


「へぇ…」


どうやら誘導されていたらしい。


逃げながらクリスタルを破壊していたはずだったのだが、大きな鳥籠が上にあった。


「随分、頑丈そうだな」


「お前を倒すためには…生半可な技じゃ駄目だった…だからこそ僕が使える中で…お前に確実に倒せる技を使った…まぁ…使ったのは血だが」


「の、割には随分脆かったぞ?」


「…どうやらまだ僕には使いこなせないらしい」


「ほう、そりゃ良かった」


「それに、この技は…自分の血液だけしか使えないし、使いこなせるようになっても脆い」

「…ここまで脆くはないが」


「…ほぉ…で、どうするんだ?」


「決まってるだろ?」


(この鳥籠、鉄でできてないな…恐らく…血液か)


「この鳥籠も血液か?」

「…答えないか」


気付くと、俺の周りには大量の小さいクリスタルが出来上がっていた。

丁度、鳥籠に入るぐらいの大きさの形だ。


(そろそろか…)


ーーーーーーーーライト視点


「じゃあな…あんたは、正直僕が戦ってきた中でも一番強かったよ」


「そうかい、ありがとうライト君…所で何だが…」


「…?」


「じ か ん、掛けすぎだ」


「…!」


奴は爆弾を手に持っていた。


気付いた瞬間、大きな爆発音とともに鳥籠が破られる。

同時に周りの結晶も、爆破によって破壊される。


だが、先程のまでの僕ではない。


「…逃がすかよ!」


奴の逃げた先を読み、奴の動きに合わせる。


奴もそれに気づいたのか…こちらにハンドガンを向けてくる。


「…チッ!追うな!うっとしい!」


数発ほど打たれた銃弾を、あえてすべて受ける。

後々、跳弾何かをさせないためだ。



痛みは感じた、だがそんなことよりも、仲間の命、自身の夢、生きたいという欲求の前ではその痛みすらも無意味だった。


奴に斬り掛かる。



奴は持っていたハンドガンで僕の剣を受ける。


が、


鉄と鉄とがぶつかり合う鈍い音が部屋中に響き渡る。

同時に、奴は力負けし、踏ん張りが効かず転がる。



「そうか、それをされちゃ打つ手なしだな…」


奴は諦めたように言う。


しかし、油断はダメだ。

ここまでした相手だ。

ここで油断はしてはいけない。

全てが相手の作戦だと思って動かなくてはならない。


「…近づかんぞ?近づかない状態でお前を倒す」



ーーーー銃兄弟 兄視点

大正解だ、ライト。


俺の足には散弾銃が仕込まれている。


やはり常に成長し続けているのか。


…でもなライト


お前が仲間を大事にするように。

俺も、唯一の血縁である弟が心配だ。


それに俺の方が、お前なんかよりも遥かに…生に執着してる。

少なからずあの子が幸せになるまでは死んでも死にきれん。

だからよぉ、ライト。


生きなくちゃだよなぁ!


「…流星…!」


この散弾銃が近距離だけだと思ったか?

改造してるに決まってるだろ?

俺の散弾銃は…特別製だ。

中距離までだったら、このぐらいの距離だったら!

威力は落ちるが…お前をダウンさせるくらいの威力は出せる!


「やはり…差が出たな!ライト!」


ーーーーーーライト視点


何がおきた?


奴の膝から銃口が見え…そして、そして、俺の腹が撃ち抜かれてる。


同時に背中にも、強いショックが伝わる。


流石に、この痛み…は…


筋肉が先程まで硬直していた、強い目標を再び意識し、生きるという欲求を持ち、アドレナリンも出ていた。

しかし、目標が目の前に近づき…油断してしまった。


生物が最も油断してはいけない、勝つという瞬間、その一歩手前で油断してしまったのだ。


僕は、崩れ落ちる。


「ハァ…ハァ…」

「ちゃんと撃った回数は覚えとかなきゃな…まぁ、何発撃ったかわからないように早撃ちの乱発をしたんだがな…」

「3発跳弾狙いであえてはずしたんだ」


「全部受けきったと思ったろ?」


奴は倒れた僕の上まで歩いて来る。


銃を天井に一発撃ち。

奴は言う。


「これは祝砲だ…ライト」


そして、奴は銃口を僕に向け話す。


「俺の勝ちだ」




(前回、ここの欄が抜けてたみたいですね。あちゃ〜って感じです。自分でも怠慢が過ぎますね。本当に読んでいただける方々には申し訳ないです。さて、次回は12月3日の予定です。いやぁ、もう12月に入りそうなんですね。怖いです。今年も終わりなのか…!やり残したことしかねぇ!)

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