策略と作戦
ビクンッ…ビクッ…ビクッ…
ライトの体は痙攣していた。
ーーーーー銃兄弟 兄視点
(…ッ!)
(兆候か…!)
ーーーーー
モカは銃兄弟、弟に上手く飛び掛かり近接戦を繰り広げていた。
銃兄弟の弟の方はナイフを持っていなかったのか、スナイパーライフルでモカの攻撃に応戦している。
弟は銃対剣、というこもあってか途中から力負けして避けに転じている。
「避けてばっかじゃ、攻撃はできないままだぜ!」
「生憎、銃剣術はサボってたもんでね…これが終わったらちゃんと勉強しようと思うよ」
「あぁ、次があれば…な!」
「…土の精霊よ、汝らに敵対する、敵の逃げ道を塞ぎ、我々に勝利の導きを…」
「wall!(壁!)」
「…!壁をかよ!」
「ナイス姉ちゃん!」
なんとか距離を離そうとする弟にモカは、またも飛び掛かる。
「くらええええぇ!」
「………だからあれ程、近接戦は勉強しておけと…」
横から発砲音が聞こえたと同時に、モカの右腕が撃ち抜かれる。
「ウッ…!」
モカの人生の中で一番の激痛がモカを襲う。
倒れ込みそうになるが、咄嗟に左足を前に出し我慢する。
モカの呼吸は荒くなり始める。
その隙に、弟は壁のない左側の方に移動し、スナイパーを構え、モカに焦点を当てる。
「…ッ!モカ!」
すぐさま、ミールは発砲音のした方向を見る。
「…!」
「…モカ!」
「何…だよ、姉ちゃん!」
「ライト様が!」
その言葉に、モカはライトが戦っていた方向を見る。
「…!」
ライトが倒れている。
どうすればよいのか、モカはすぐさま考える。
頭をフル回転させる。
その間、一秒。
「じゃあな…獣人の子よ」
「…!?」
銃兄弟の弟が、モカの頭に焦点を合わせた瞬間、モカは銃で撃たれていない左腕で剣を持ち、銃兄弟、弟の方に猛スピードで接近する。
突拍子もないこの行動に、少し焦ったのか、焦点がずれる銃兄弟、弟。
「モカ!!」
「わかっ…てるよ!姉ちゃん!」
剣に風の魔法を付け、思いっきりモカは剣を振った。
「うわ!」
銃兄弟、弟の後ろからとてつもない突風が吹く。
その突風でモカはライトが倒れているところまで飛ぶ。
その後、ライトを回収する。
「姉ちゃん!」
「…火の精霊よ、我々に大いなる力の加護を…」
「Fire boll!(火球!)」
ミールは、モカのやりたいことを察し、すぐに自身の作り出せる、とてつもない熱を帯びた、最大火力の火球を、天空に打ち上げる。
「逃げるよ!モカ!」
「うん!姉ちゃん!」
ーーーーーーー銃兄弟、視点
「ほぉ〜やるなぁ、あの子達」
銃兄弟、兄が関心しているのを横目に銃兄弟、弟は先程の突風で倒れてしまい、すぐに立ち上がりスナイパーライフルを構える。
「…ッ〜!痛ってぇな!」
「逃がすかよ!」
ミールが打ち上げた火球の魔法が日中の太陽のような働きをし、辺り一面が眩しくなっていた…にも関わらず、銃兄弟、弟のスナイプ力は凄まじく、スコープに反射しているであろう光をものともせずモカの足の元に、正確に銃弾が向かっていく。
「どっちを狙ったんだ?」
「男の子の方」
「まぁ、無理だろうが狙う場所は完璧だ」
「…無理ってなんだよ、無理って」
少し不服そうに言う弟に、双眼鏡を渡し、指でモカの方を見ろと伝える銃兄弟、兄。
「………すり抜けた…?」
そう、銃弾は完璧にモカの足元に当たっているように見えたが、銃弾はそのまますり抜け、奥の方にある森へと消えていった。
「蜃気楼だ」
「は…?蜃気楼?」
「いやいや、兄ちゃん、蜃気楼って温度差の影響で起きるもんだろ?」
「手…挙げてみろ」
兄に言われ、弟は手を挙げる。
「あっつぅ!」
「火傷するかと思ったわ」
「いや、焼けるほどじゃぁ…」
兄自身も、手を挙げる。
「あっつう!」
「火傷するかと思ったわ」
弟と同じ反応をする兄、流石兄弟。
「…まぁ、あの獣人の女の子のほうが打っていた火球が、太陽の役割となって、空中と地上にに温度差が出来て…人や物が浮かんで見えたって感じだな」
「そんな強い火球打ったの?あの子…」
「あぁ、じゃないとこんなことできん」
「どうすんの、この太陽」
「…そろそろ消えると思うぞ」
「なんで?」
「そこの、土壁がもう壊れている」
兄は土壁のあった場所を指差しして言う。
「成る程〜確かに!」
「因みに、人が浮いてるだけだから…当たってないわけでは無い…太ももら辺をカスったってかんじだな」
「おぉ!じゃあ当たってはいたのか!」
「そうだな」
「よぉ〜し!」
「…それに、“ライト”を連れて逃げてくれてよかった」
「……”兆候“のこと?」
「あぁ、忍び達の死は無駄じゃなかったな」
「最後にライトは“楽しい”と言っていた、恐らく感情が高ぶることで例のスキルが発動するのだろう」
「あんな化物出てこられちゃ、俺等も獣人の子達も死んでたろうからね…丁度良かったってことか」
「そうだ」
「…その上獣人の子達も、ライトも、魔力がもうそろそろ無くなるだろう」
「相手が逃げた以上、この戦闘は僕たちの勝ちだしね」
「あぁ一石二鳥ならぬ、一石三鳥だな」
「………そうだね」
「ま、まぁ、魔力もなければ、二人は怪我もしている…そう遠くまで逃げれんだろうし、ゆっくり追いかけようか」
「りょうかーい!」
ーーーーーーーライト視点
「うっ…」
「ライト様!」
僕は…おぶらているのか…?誰に…?
「ライト様!大丈夫ですか!」
そうだ…僕は銃兄弟の兄と戦っている途中で…。
「…!」
「二人共無事か!?」
「えぇ、私達は…」
「良かった…」
恐らく、先程の戦闘場所から相当離れた所であろう場所から僕は目を覚ます。
「ライト様の方は?」
「あぁ怪我はしているが、かすり傷程度だ」
「…?」
「モカ…お前その腕…」
「あぁ、油断しててな…最初は痛かったけど少ししたら慣れたぞ」
「…すまなかった…僕が不甲斐ないばっかりに二人に迷惑をかけてしまった」
「いや、ライト様のせいじゃないぞ」
「そうです!ライト様せいでは…」
二人に迷惑をかけ、不安にさせてしまった。
この事実は変わらない。
だからこそ、僕は決心する。
リーダーとして、そしてミールとモカの先生として。
「作戦がある」
「作戦…ですか?」
「あぁ…しかしその前に倒れてた僕が言うのも何だが、治療しよう」
「でも、あいつ等来ないか?」
「どのみち、その怪我じゃ何処で戦っても一緒だ…あいつ等がゆっくりこっちに向かってくることに掛けて治療したい」
「それに作戦も話したい」
僕は、この会話をしている途中にあることを考えていた。
その“あること”を確認するためにも、作戦を実行しようと考えた。
「分かった…じゃあ降ろすぞ」
「あぁ、頼んだ」
ーーーー
「実はな…戦ってる途中あることに気付いたんだ」
「あることですか?」
ミールが治癒魔法をモカに掛けている間、僕も自分でかすり傷を治療する。
スィのバックを一部貰っておいて良かった。
「その”あること“は後で話す。その“あること”の確証を得るためにも…そして安全に、確実に3人で逃げ出すためにも作戦を実行したい」
「分かりました」
「良いな!どんなのだ?」
「ミール、銃弾が入ったところの治療は?」
「いえ、まだ…」
先程、降ろしている際に、ミールとモカに銃弾の治療は一旦後回しにしてほしいと伝えた。
「よし、じゃあ…僕の方の治療も終わった」
「始めようか」
治癒魔法は、治療する相手の血縁関係がより近いほうが早く終わる。
その為、ミールにモカの治癒魔法を優先するよう先程伝えた。
「よし、ミール…僕が銃弾を抜いたら、すぐに治癒魔法を頼む」
「はい」
「作戦に、モカの血が必要だ…ミール、銃弾を取り出すまでに出てくる血を傷口の下に袋を構えて溜めといてくれ」
「分かりました、任せといて下さい」
「…痛むぞモカ」
「うん…」
モカの腕から銃弾をバッグにあった医療キットを使い取り出す。
「うっ…」
「うぁ…!」
必死に声を抑えながらもモカは痛みに耐えている。
獣人は痛みに強い種族だが、それでも全身の毛は逆立ち、目も血走っている。
ドレだけ痛いか容易に想像できる。
「取れた!ミール!」
「はい!」
ミールは下で構えていた、血の入った袋を地面に置きすぐさま治癒魔法をかける。
「大丈夫そうか?」
「はい…なんとか」
「良かった」
「でも、傷口だけ治せません」
「さっきの治療中の血の量と、怪我したときの出血量を加味すると…また開けたらやばいかもな」
「モカ…また痛むぞ」
「うん…」
僕はモカの傷口に手を当てる。
…………
「治った」
「おぉ!すげえ傷口が無くなってる!」
「あぁ、焼いた」
「焼いたんですか!?」
「昔、僕もよく怪我してな…治癒魔法のあとはよく焼いて治した」
「えっ…」
「あぁ、だから加減も…モカ、痛くなかったか?」
「うん、全然大丈夫だったぞ!」
「良かった」
「…なんか、怖いこと言ってません?」
「ん?」
ーーーーー
「よし、作戦を話すぞ」
「はい!」
「はーーい!」
「まず、ミールとモカはあっち側に行ってくれ…脱出用のドアを見つけるんだ」
「わかったぞ!」
「了解です!」
「見つけたら…ミールは上空に小さくてもいいから、雷雨を発生させてくれ」
「分かりました」
「僕はそこに、雷魔法を使って移動する」
「テレポートできるのか!?」
「この空間内だけだと出来るっぽいんだよな…それにこの魔法は移動魔法だがテレポートとは違う」
「一人しか移動できない…みたいな弱点も多いがな」
「ライト様は?」
「僕は、あそこにある城に向かう、その間にさっきのモカの血を道中に垂らしながら移動する」
「成る程!それであいつ等を釣るんだな!」
「大正解!」
「…分かりました、でも二人共相手するって…」
「安心してくれ、勝とうとは思ってない、あくまでも耐える戦いをするよ」
「…だから、その…早めに見つけてくれると助かる」
「分かりました!」
「分かったぞ!」
「よし!行くぞ!」
ーーーーーー銃兄弟視点
「これは?」
血を見つける。
「仄かに獣臭いね」
「あぁ、あの獣人の男の子の方だろう」
「でも…これ罠だよね」
「等間隔すぎるからな」
「ライトめ、殺す時は一瞬だから分かっていないな」
「逃げてるなら…もうちょっと血はバラバラに付くもんね」
「あぁ、その通りだ」
「大方、ライトを囮にして獣人の子達でドアを見つけ…その後魔法で逃げようって魂胆かな?」
「そうなると?」
「つまり…あいつは…ライトは一対ニをご所望って訳だ」
「どうする?兄ちゃん」
「さっきの戦闘は全体を通して、俺等の勝ちだったが…一対一のライトとの戦闘では引き分けって感じだった」
「…続きがしたい」
「だよね、分かった…じゃあ俺はあの子達追うね」
「あぁ、任せたぞ」
(次回は10月29日投稿の予定です。思ったより内容が長くなってしまいました。)




