兄貴と姉貴
「で、私の弟に何したんですか?」
「いやぁ…漢を教えたっていうか…」
山月達が先程のステージをクリアして、皆で集まってからずっとミールが山月の事を問い詰めている。
まぁ、それもそのはずだ、だって集まった瞬間からモカは…なんというか…興奮している?、というより…うーん、ちょっと説明できないような異様な状態にある。
「へへっ、おっぱい…おっぱい…」
寝転がり、鼻血を垂らしているモカの目から頭の部分を濡れタオルで冷却する。
見た目は明らかに病人そのものだ。
「まぁ、そのなんというか…大人の…いや〜、漢の階段登らせた的な…」
「あ゛?」
「いやぁ、な?」
「ミール…これにはな?」
珍しくウーさんと餓鬼さんも、山月側だ。
「ん゛?」
まるで動物が子を守るような、そんな喉鳴らしをしながらウーさんと餓鬼さんの方を向き睨む。
ミールが餓鬼さんに、睨むのは相当だな…
「…何があったんですか?」
僕はウーさんに聞いた。
「いやぁ、実は…」
まとめると、先程のステージはサキュバスのステージだったらしく、山月とモカのお陰でクリアできたらしい。
クリアは出来たものの、結果的にモカは新たな扉が開かれる事になった…と。
まぁ、今回の件は山月は悪くないな。
今回は助け舟を出すか…。
「ミー…」
「あん゛?」
「うっ…ミ、ミール、今回は山月は悪くないらしくてな…実は…」
ーーーーーーー
「成る程…ならば仕方ないですね」
事情を説明した後、ミールは先程まで放っていた剣幕を戻し、いつもどおりのモールに戻っていた。
「おぉ〜!」
餓鬼さんとウーさんはそれを見て、パチパチと拍手をする。
「…というかウーさんも餓鬼さんも、そんな正当な理由があるなら言ってくださいよ」
「いやぁ、でも物凄い剣幕だったし…」
「若い頃のセリナ見を感じた」
「ねー!」
子供か!!!
「いやぁ、ライトぉ!ありがとうなぁ!嬉しいよぉ!」
「いやぁ、僕は…」
山月は僕の胸元に抱きつき、泣きながら感謝を述べる。
といってもいつもの冗談だろうが…。
「取り敢えず、ウーさんと餓鬼さん、それから山月の分もありますので食べましょう」
現在居るステージは、僕らが居たステージで、目の前に次のステージと思われる扉がある。
「…モカの完全に回復が済むまではここに居よう」
そう皆に伝えると、ウーさんはそれは無理だと言ってくる。
「ライト様、申し訳にくいんですが…恐らく完全な回復は無理だと思います」
「何でですか?」
そう疑問を投げかけると、ウーさんは扉の方を指差す。
「あの、砂時計です」
「砂時計?」
「はい、さっき調べたんですけど、あの砂時計…どうやらこの地形とリンクしているんですよね」
「…?」
僕はウーさんに言われ、砂時計に魔力を当てる。
「…成る程、そのようですね」
確かに、魔力を砂時計に当てると、砂時計の砂一粒一粒が、生命や土といった、このステージ全体にリンクしている。
「スィ、試しに魔力を当ててみてくれ」
ウーさんはスィにも頼む。
「え、なんでスィちゃんなの?ライトが当てたじゃん」
当然の疑問だ、しかし、僕もスィにやったもらったほうが良いと考えてある。
「ミールにも教えたが、人によって魔力の系統から使い方まで何から何まで異なるんだ」
「勿論、似ている奴は居るがな」
餓鬼さんが、話に参加する。
「成る程…」
「ウーの野郎は魔力の応用に長けていて特に戦闘面での魔力の使い方はピカイチだ、ライトはオールマイティ的な部分がある…何でも屋みたいな感じだな。スィは魔力の繊細なコントロールに長けている、戦闘面でも強いが、調査向けの魔力の使い方と言えるな」
「へぇ〜、ミールちゃんは?」
「ミールはまだ発展途上って感じだ、今後に期待だな」
「はい!頑張ります!」
「でも、よく知ってんだな鬼なのに」
「フッ…こんな長く魔法だ、なんだって魔法を使われるような戦場に長く身をおいてりゃ、詳しくもなるさ、魔力の知識がない俺でもな」
「成る程な」
山月と、餓鬼さんが話終えたところで、スィが話始める。
「…成程、やっぱりウーさんの言う通りですね」
「この砂時計と、この地形はリンクしてます」
「となると、どうなる?」
「制限時間があるってことだ」
ウーさんは山月の質問に答える。
「制限時間を過ぎたら?」
「このステージは消えるだろうな」
「えっ…じゃあヤバない?」
「いや、そうでもないな」
ウーさんは砂時計を再度指し、山月に伝える。
「あの砂の減り方と、砂の量からして…30分ほどだな」
「え、長くない?」
「奴もゲームを楽しみたいんだろう」
「いや、楽しみたいって…俺等敵だぜ?」
「まぁ…奴からしてみれば俺等はいつでも簡単に殺せる虫ころ同然ってわけだ」
「だからこそ、自身の作ったゲームを最大限楽しもうしているのだろうな」
「…どうであれだ、30分も猶予をくれてるんだ、ライト達が狩った肉でも食おうや」
「それに、30分もあればモカも多少なりとも回復するだろう」
「…それもそうだな!」
山月はウーさんと餓鬼さんとの会話の後、いつもの山月のテンションを取り戻す。
「で…ライト様?この肉はなんて肉なんですか?」
ウーさんは僕に聞いてくる。
「それがな…どう見てもこの森は山月側の世界ではなく、僕らの世界の森に近しいんだが…いた生物の中でも見たことのないような生物がいてな」
「へぇ、その中の肉ってことですか?」
「あぁ」
「多分だが…昔、あちら側の人間が転生したときに作った図鑑で見た事があってな…恐らく」
「猪!?」
「マジかよ!猪…マジでか!?」
「あぁ、四足歩行で牙が生えてて…それで毛に覆われて足元サイズ…どうだ?猪であっているか?」
「あぁ、話を聞く限り猪だな!マジかぁ!食えんのかよ!」
今まで見たことないような山月のテンション上がり用…恐らく、あちらの世界ではとてつもなく良い肉なのだろう。もしくは山月の思い出に残るような肉、どちらにせよ、山月が喜んでくれるのであれば、獲ったかいもある。
「いやぁ、よぉ?」
「実はな、俺ん家は飲食店やっててよ、そこで出してたんだよ」
「飲…食店?」
「あぁ〜、ここでいうさ、酒場見てぇなもん」
「酒場!へぇ〜スゴイな」
「あぁ!まぁ、こっちの世界と違って、ゴリゴリの酒場じゃなく…なんていうか高級な酒場的な…」
「高級な酒場!…いい酒が飲めそうだ…」
ライトの言葉を聞いて、餓鬼さんは酒の妄想をしたのか、鼻の下が伸びている。
「あぁ、じゃあもうその解釈で良いや」
餓鬼さんの顔を見て、あぁ、もういいかと思ったのか解説を途中で放棄した山月。
「んじゃあまぁ、食べさせてくださいよ!」
山月に催促され、猪?肉を渡す。
「ん!間違いない!猪だ!」
「うめぇ!懐かしい!」
その山月の表情を見て皆微笑む。
ーーーーーーー30分後
「おーい」
「んん?」
「おーーーい、起きろーー」
「んん…」
山月の声でモカが起きる。
「おはようございます」
「起きたか、そいじゃあ行くぞ」
「ん?皆もう準備できてるのか?」
「おう!くじも引いといたぞ、モカはライトと一緒だな」
「え!引いちゃったのか!?引きたかったのに…」
「あぁ…じゃあ、次のくじ引きの時は俺の分も引いてくれ」
「いいのか!?ありがとうなぁ兄貴!」
「兄貴…?」
「シッ!シーーー!」
ミールの視線を感じ、山月は口に指を一本立て 静かに というジェスチャーをする。
「あ、後で話そうミールちゃん…」
詰め寄るミールを山月が宥める。
「はぁ…ミール、今は時間がない後で話そう」
珍しく助け舟を出した餓鬼さん。
「分かりました…でも、絶対後で教えくださいね!」
「は〜い…」
「よし、じゃあ僕はミールとモカ」
「俺達は…山月と餓鬼とスィか!よろしくな!」
「じゃあ!行こう!」
(来週は9月24日中に投稿します。今度からこうすればいいのか!学びました…またまた遅くなってしまいすみません…)




