アモネネと罠
「居るかも何も、ここ数ヵ月外に出てないんだ」
「居るのはお前も知っているだろ?」
暗がりの家の奥から男の人の声がする。
「嫌みで言ったんだけど」
そう言いながら山月は暗い家の中に入っていく。
「あ、お前らは少し待っててな、会話は聞いてても良いからさ」
家の外側にいる、僕らに暗い部屋から腕を1本だし、制止させる山月。
「分かってるさ、二度とお前には晩御飯を作らん」
「じゃあ、お前の仕事も手伝わねぇぜ?」
「いや、それならお前を追い出すだけだ」
「....本当に、それだけはお願い、やめて」
「今日も僕の勝ちだな、洗い物は頼んだぞ」
「はいはい」
「中は片してある、入れて良いぞ」
「あぁ、電気をつけといてくれ、コーヒーを淹れてくる」
「ほーい」
「よし、お前ら入ってきても良いぞ」
「....いいのか?」
「あぁ」
「お邪魔しま~す....」
各々が入る度に挨拶をする。
「あぁ、電気付けてなかった」
そう言うと山月は、紐のようなものを引っ張る。
カチャッと言う音と共に灯りが付く。
灯りが付くと、部屋の全貌が明らかになる。
小さめの部屋で一つはリビングになっており、大きめの丸いテーブルやら奥には小さめのキッチン?のようなものがある。
後、箱のようなものもある。
また、箱のようなものの横にはドアがあり「開けるな!危険!」と書かれた紙が貼ってある。
「ようこそ、あいつと俺の家へ」
山月は、何がそんなに誇れるかは知らないがドヤ顔をしながら言う。
少なからず部屋は散らかってないが、恐らく片付けたのは山月ではないだろう。
「すげぇ、紐1本引っ張っただけで電気が付いたぞ」
モカが目を輝かせながら言う。
「なぁ、俺も驚いたよ」
「とりあえずよ、色々と説明したから席に座ってな」
山月は、前にあった大きめのテーブルに備え付けられている椅子に座る。
山月に続き、その備え付けの椅子に各々座る。
「まぁ、何処から説明したもんかな....」
「とりあえず、この灯りは何だ?」
「確かに....私も気になります」
「俺も俺も!」
スィとモカも同じことを思っていたらしい。
「私は、あの箱が気になります」
ミールがそう言うとモカが興奮したように言う。
「俺も!俺も!」
何にでも興味があるようだ。
「箱?あぁ、冷蔵庫ね」
「....まぁ、これから説明するか」
山月は、人指し指を上に向け紐が付きの灯りが点っている物を指差す。
「これはな、俺らの世界にあったペンダントライトってもんだ、所謂....電気だな」
「電気?」
「あぁ、俺らの世界では魔法が使えねぇからな、灯りとかは科学の力を使って代用するんだ」
「へぇ、凄いですね、そちらの世界の方々」
スィが感心したように言う。
「まぁ、こっちの世界の電気って仕組みを作り出したのは、あいつなんだけどな」
小さいキッチンにて珈琲を作るアモネネさんを指差す。
「こっちの世界だとよ?俺の元いた世界の奴らが転生してくるから、色々アイデア自体は大量にあんだ」
「やれ電気があっただの、スマホがあっただの、冷蔵庫がほしいだの」
「だからそう言うあっちにあったものを、あいつが色々作ったんだよ」
そう話していると、珈琲を作り終えたアモネネさんがこちらにきて珈琲を配る。
「あ、自己紹介がまだだったね、僕はアモネネ、まぁ、このアホから聞いてるかもだけど....よろしくライト君」
アモネネさんは僕に手を差しのべ、握手を求める。
僕は出された手を握り、握手をする。
「よろしく願う、アモネネ」
「アモネネさん、ここに招いていただけたってことは....僕らに協力してくれるんですか?」
「あぁ、このアホの言う通りの子達みたいだから....君達に協力させてほしい」
「それに....」
「僕の夢のためにもね」
「夢?」
「あぁ、僕は今あるものを作っていてね、その物の完成が僕の夢てなんだ!その為にも君達に協力させてほしい」
「分かりました!お互い、夢を叶えるため頑張りましょう」
「うん!頑張ろう!」
アモネネさんという科学者の人が仲間になってくれた。
「あ、皆さんのことはあらかた聞いてるから、先程の話に戻ろうか」
握手を終え、自己紹介が済み、アモネネは座る。
「ん゛っん゛!」
咳払いをするアモネネさん。
「....まぁ」
「話に戻ると、そう言う人達は大抵原理の分かってないんだよね....」
「所謂一般人だからか、毎度再現に苦労するんだ」
「この電気だって、ふうりょくはつでん?とかいうので作るらしいけど」
「風で電気を作るって言ってるだけで、なぜ風で電気が作れるのかという原理を知らない人達ばっかりで....今の電気は魔力を貯めて電気エネルギーに変えている」
「まぁ、どのみち原理分かっても今の方が良いんだろ?」
「あぁ、色々と試行錯誤して、ふうりょくはつでん?の原理こそ分かったけど、魔力を活用して電気エネルギーに変えた方が効率よく、大量にその上長く使えることに気付いたんだ」
「凄いな」
凄すぎて、鼻で笑ってしまう。
冗談だろという意味も込めて。
「でもさ、でもさ!なんであんたはそんなことしてんだ?」
「分かるわ~俺も最初聞いた!」
山月はモカに同調する。
「俺と出会った時から電球作り出して、今の王様の城なんか全部電気になってんだ」
「だから出会った時聞驚いちまったよ、なんでこんなもん魔法の世界で作ってんだ?って」
「まぁ、良く聞かれるな、僕がなぜここまで天才なのかをね」
シーン
場が凍る。
「....そう引くなよ」
「ごめんな皆、こいつ....根本的な性格はは俺と同じくらいナルシストだからよ、許してくれ」
「は?」
「....ジョークだから、そんな怖いお顔で見つめないで」
涙目になりながら後ろを向き、アモネネさんの睨んでいる顔を見ないようにする山月。
「....まぁ....はっきりいうと、私には魔力がないんだ」
「だからこそ、私のような魔力がない人達の為にも、その生活をサポートするような機械をあっちの世界に住んでる人達から聞いて、それを再現するんだ」
「こっちの世界で住んでいて、僕や魔力の無い人のサポートになら無いような物なら僕は作らないよ」
「だからこっちの世界にはスマホとかがないんだ」
「スマホ?」
「あぁ、遠くの人と話せたり、通じたりすることができる機械らしいんだけど....この世界、あんなこと起きたから2種族しか居ないし....話すなら手紙とか、お金払って伝達魔法で話した方がいいし」
「まぁ、こっちの世界は、あっちの世界のアニメや漫画なんかと違って、魔法が使えるだけのリアリティのある世界だからな....」
「人もリアリティに溢れてる、この世界の事を知ると、確かに要らんなってなったわ」
やはり魔法が使えるのはでかいね、と言わんばかりの顔をする山月が、思い出したかのようにいう。
「そういや、ライト....お前スキルはどうだったんだ?」
「ギルドカードのことか?」
「あぁ」
「無効らしい、スキルチェッカーの中央部に無と出てた」
「へぇ、まぁ俺も出てたしなぁ」
「確か....スキルが無い場合は無と出て、ある場合は有って出た隣にスキルの名前が表示されるんだったんよな」
「ライト君は確か....スキルの正体が何なのか知りたいから人間の町に来たんだよね?」
「そうですね」
「んで、スキルがあるのに、スキルチェッカーで検査したら無と出た....」
「不思議だな....」
「何がですか?」
「無と出る理由は二つあってね、一つは単純にスキルが無い場合」
「もう一つは、スキルが暴走している場合だね、スキルが発芽し始めたときに、コントロールができず暴走しするということがよくある」
「その場合、魔力も乱れ、エラーという意味で無効の無と出るんだ」
「なる程?じゃあ、ライトは後者なのか?」
「いや、魔力検査は通常通りだったんだよね?」
「はい」
「となると....魔力が乱れてると魔力検査は出来ない筈だ....でも、Aって結果が出てるってことは....後者でもない」
「じゃあなんだ?」
「そこが不思議なんだ、ライト君は暴走もしてなさそうだし....暴走してたら気性が荒くなっててもおかしくないけどね」
「遥か昔からあるスキルのチェッカーがこんな診断結果を出すなんて....不思議だな」
「となると....やはり図書館に行きたいな」
僕がアモネネさんにそう伝えると、アモネネさんは困った表情をする。
「んー、図書館か....図書館はね、Bランクの冒険者からしか行けないんだよ」
「そうなんですか?」
「あぁ、残念ながらね」
「そうですか....」
僕は頭を抱えてしまう。
頼みの綱の人間界の図書館も行けないとなると....どうする?
考え事をしていると、もう一つアモネネさんに用事があったのを思い出す。
「アモネネさん、最近魔力の乱れがここら一帯でありませんでしたか?」
「?」
「いやぁ、無いと思うけど....少なからずそんなことは聞かないね」
「でも、急になんで?」
「いえ実は....」
話そうとした瞬間に、山月に遮られる。
「なぁ、図書館に行ける方法ならあるぜ?」
「お、マジか馬鹿」
「おい、どさくさに紛れて馬鹿とかいうな!」
「まぁ、いいや、これだよ!」
そう言いながら、山月は自分のポケットにあったであろう、折り畳まれた紙をポケットからだし広げる。
「ん?これは?」
「Bランク昇格クエストだ」
「は?」
「まて、これしかも....どのランクも受けれるじゃねぇか」
アモネネさんはあまりに驚いたのか、口調が山月っぽくなる。
「ふふん、すげぇだろ!」
「ただ、パーティー以外は受注できないんだよな」
「だから仲間が増えたこのタイミングでよ?行こうと思ってよ?」
山月が持ってきたクエストを見て、僕は驚く。
「あ!」
「ライト様!これ!」
「あぁ、このクエストの場所....」
「ん?」
「この場所で狭間までの道筋が途切れてたんだ」
「どういうことだ?」
僕はアモネネさんと、山月に情報を共有する。
「・・・・つまり、ライト君だけ辿れる魔王城の入り口である狭間までの道のりが、何者かによって魔力でジャックされて分からなくなってたってことかい?」
「そうなります」
「・・・なぁ望、これどこで手に入れてきた?」
「いやぁ?ギルドのクエスト板に貼ってあったけど?」
「....罠臭くないか?」
「そうか?」
「僕もそう思いますけど....罠だとしても行ってみる価値はあると思います」
「道が断たれてる以上、少しでも切り開けるチャンスがあるなら挑戦すべきだと思うので」
「私も賛成です!」
ミールが真っ先に手を挙げる。
「私もです!」
「僕も!」
「まっ、俺も」
「....まぁ、行くのは良いとは思う....どうせ僕は魔力も筋力もないから戦力になら無いし、行くかどうか決めるのは君達だから....」
「....うん、分かった!」
「もし、手伝えることがあるなら言ってくれ!僕も全力で手伝うよ!」
「よし!このクエストに向けて皆行くぞ!」
「おーーー!」
(次回は5月20日の0時に投稿します!)




