蔵の大掃除と母の学生時代
大掃除の道具を持って祖母と蔵の2階に上がる。古い布みたいなカーテンを開け、窓を開ける。
日差しが差し込み、少し暖かい。箒でゴミを集めて、雑巾で拭いた。少しまだうまく動けないけど自然と夢中で掃除をしていた。
小さな人形や、スピーカーには一応カバーがかけたれてあったがほとんど荷物はなかった。
椅子を磨いていると、スツールになっていることに気がついた。椅子の上部を開けると、ノートと写真が出てきた。好奇心に逆らえず、こそこそとノートから開いてみる。
☆
友
いつもありがとう 助けてくれて 側にいてくれて
暖かいんだよね 心を許した友の隣は
恥ずかしくて言えないけど 喧嘩ももちろんあるけど
長所も短所も 受け止めてくれる そんな君たちへ
いつからだろう ありのままの自分でいられる
いつからだろう 孤独を感じなくなった
ありがとう 私を見てくれて
ありがとう 私と出会ってくれて
これからもよろしくね!
☆
1ページ目の内容だった。
手紙かな?でもストレートなお母さんらしいなぁと思いながら、こう言ったことを書いているのに驚いた。
「それは伊織のノートかねぇ?そんなとこに隠してあったとね。あん子はね、そのノート隠しちょったんよ。
恥ずかしいみたいでさ。なんか昔は歌手とかなんとかになるいよってね、内緒の夢やったらしいけど音楽が大好きな子やったんよ。」
祖母が後ろからいつの間にか覗いていて、心臓が止まるかと思った。
「お母さん、歌手目指してたの?どんな学生だったの?」
「ふふっ。よく友達を連れ込んでここで歌をよく歌ってたねぇ。なんかバンド組むんだーとか、メジャーデビュするんだーとかいいよってさ、半年くらい頑張りよったんよね」
祖母は懐かしいのか、微笑みながら応えてくれる。
「え?半年?」
「そうなんよ。半年くらい蔵でこそこそやりよってね。なんかやり切ったーとか言ってぱたっとやめたんよ。理由は教えてくれんかったんだけどね」
祖母も私も気になるけど、答えはもう聞けないことに気づき目を伏せてしまった。
「伊織はねぇ、裏表がないから喧嘩はよくするし、飽き性なもんやからいろんなもんちょっかいかけてはやめていきよったんよ。」
それから祖母が色んなお母さんのことを教えてくれる。ドジだったこと、色んなものに手を付けてはやめて来たこと。天真爛漫に生きていたこと。
そういえば知らなかったな、お母さんの過去のことなんて。
知らないお母さんがいることが少し不思議で、知ってるお母さんと比べると妙に納得できてしまう。
少し可笑しく思えて、いつの間にか笑みが溢れていた。
祖母からお母さんの話しを聞いていると、いつの間にか片付けも大方終わっていた。
祖母からノートを見たら怒られそうだから、瑠笑ちゃんに預けとくねと言われた。
ゆっくり読みたいのでスツールになおして蔵を出る。
気づけば夕方になっていた。部屋に入る前に祖母に呼び止められ、好きな食べ物を聞かれた。
丁度お腹が空いていて、唐揚げ!明太子!甘い物!と元気に言ってしまった。
祖父母の家に来てからは、こんな風に話したこともなかったから少し恥ずかしかった。
祖母は、教えてくれてありがとうと笑顔で応えてくれた。
こんな時、何も言わないでくれる祖母の優しさが昔から大好きだ。
目が覚めると、まだ薄暗かった。何時か分からずスマフォを見ると5時だった。いつの間にか眠っていたらしい。
昨日は掃除で汚れたので、早めにお風呂に入った。その後いつものようにベッドで休んでいたら........。
トイレに行こうと部屋を出ると、居間のあかりが付いていた。祖父は農家なため、朝が早い。
もちろん祖母も一緒に起きている。いつもなら通りすぎるけれど、私の名前が出て来たのでつい盗み聞きをしてしまう。
「ばあさん、瑠笑の様子はどげぇかい?昨日は蔵を掃除したっちゃろ?体はもう大丈夫なんかい?」
「まだしんどそうだけど、体は元気になりよるっちゃないかぇ?それよりね、昨日ね瑠笑ちゃん笑ったんよ。私はとーっても嬉しかったよ!」
「なんち!?瑠笑、笑ったんかっ!!婆さんようやった。わしも見たいなぁ、やっぱのぉ笑顔がかわいいっちゃん。」
「うんうん。爺さんは不器用やけんねぇ。いつになるやら......]
[しゃあしい!!!あっ、ところであれの計画はどうなっちょんや。大丈夫か?」
「ん。私ん方は大丈夫やけど、爺さんの方が大丈夫かえ?任せとるきん、しっかり頼むよ?」
「お、おう.............]
もう少し聞きたかったけど、ここまで聞いてトイレに行く使命を優先した。
なんだか嬉しかった。今まで、当たり障りなく一緒に過ごして来てた。
けど笑うだけでこんなに喜んでくれるって知って心がほっこりなった。
もうずっと親がいない、一人だと思い込んでいた。でもそうじゃないのかなって少し感じれた気がした。
ありがとうって心の中で呟いた。