眠りへ
「これからグレスの事をどうするつもりなんだ?」
ラドがシオンに向け厳しい目を向ける。子を失った親であるラドはグレスが不当に扱われることは許さない。グレスが可哀想だからではない、少しでも自分の心に寄り添ってくれたグレスを守りたいという気持ちが表情に現れている。もちろん、命の恩人であるシオンを疑っている訳ではない。ただ、グレスがこれからどうなるのかを知りたいのだ。シオンはラドから強い眼差しを感じながらこれからの事を話し始める。
「まずは、冒険者組合に行って冒険者登録をさせるわ」
「冒険者にさせる気か?」
ラドの目がより厳しいものとなる。冒険者、自由の象徴として憧れる者は多いが実態は毎日が命懸けである。不意打ちを喰らい死んでしまうかもしれない、安全だと思っていた依頼が実際に違うこともある。生活をしてく為には毎日命の危険性があるのが冒険者だ。そんな危険な冒険者をグレスにやらせるつもりなのかと、シオンへと怒りを募らせる。シオンは言葉から怒りを感じるが冷静にラドの問いに答えた。
「いいえ、グレスの身分証を作るためよ。イエリ―の街で生活していくのならば身分を証明できるものが有った方が良いわ。職を得るためや、住居を構えるのにも優位に働くわ」
「なるほどな」
「それに、グレスの本当の名前も分からないし魔力も分からない。魔力を調べるなら冒険者組合が一番手っ取り早いわ。グレスの選択肢を増やすためにも冒険者登録をしていた方が良いのよ」
「すまない、先走った」
ラドはシオンがグレスの事をしっかりと考えているのだと分かり表情を和らげ厳しい目を向けたことを謝罪する。シオンはラドの謝罪を受け、気にしていない様子である。
「謝らなくて大丈夫よ。心配するのは当然だもの、中には子供を攫ってあくどい事をしようとする人達もいるもの、疑って正解よ」
「それでも、命の恩人に向ける目ではなかった」
「それだけ、グレスの事を思ってくれているってことよ」
「ありがとう、それで冒険者登録をした後はどうするんだ?」
「とりあえず、グレスの能力を調べるわ。体力があるから武術の才能があるのかもしれないし魔法が使えるのかもしれない少しでもグレスの能力が分かれば今後役に立つわ」
「確かにな・・・すごい体力だった。魔法が使えれば就ける仕事も広がるだろう」
「そうね。後は文字を読み書き出来るのかや計算が出来るのかも知りたいわね」
「文字と計算か・・・グレスが住んでいた村は辺境にあるんだよな?・・・あまり期待は出来ないだろうな」
この世界の識字率や計算が出来るものは多くはない、街であれば生活していくうちに単語が読めるようになったりはするが文字を学ぶものを少ない。村であれば日々の生活で文字を使うことはなく、計算も村で生活する上で必要が無いため、辺境の村に行くほど計算や文字が読めないものは多い。商人の元で働いていれば計算は必要となるが、計算が出来るものから学ぶしか方法はない。街に学び舎はあるが、行くのは立場が高い者や裕福な者たちだけであるため庶民で計算が出来るものは珍しいのだ。
「そうね・・・でも、文字と計算は私が教えられるから、イエリ―の街で生活している間に覚えてくれると嬉しいわね。」
「そうだな。俺も計算は教えられるから、時間があれば教えよう。計算が出来れば就ける職が広がるしな」
「ありがとう。能力を調べたらグレスにどんな選択肢があるのかを教えて自分で選択してもらおうかなと思うの」
「そこまで考えていたのか」
「えぇ・・・イエリ―の街では働くのも良し、孤児院に行くのも良し、他の街に行くのも良し、冒険者になるのも良しどんな選択をしても、グレスの意思を尊重するわ」
「解った。教えてくれてありがとう」
「いいえ、それじゃあ明日も早いしもう寝ましょう」
そう言うとシオンは、焚火の火を消し魔除けの香を焚き土小屋へと歩いて行った。付いてこないないラドに振り返るとラドは消えた焚火の前に座ったまま空を見上げていた。
「どうしたの?」
「いいや、すぐ行く」
「俺はこれからどうすれば良いんだろう・・・」
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