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空っぽ少年と色深き者たち ~世界を彩る物語~  作者: 和吉
終わりと出会い
36/87

暗き夜2

「それから、子供が出来て俺は親が居ないから家族が出来るってことに凄い憧れを持ってたんだ。だから、マリナを抱えて喜んじゃって怒られたんだよな。もう、恥ずかしいから下ろして!これからが大変なのよ!って」

「だけど舞い上がっちまって。マリナを抱えたままリビングを歩き回って最後には一緒に笑ってくれたんだ」

「幸せね」

「あぁ、幸せだった。どんどんマリナのお腹が大きくなるにつれて父親になるんだっていう実感が湧いてきて、不安はあったけど早く会いたい気持ちが上回ってたな。毎日マリナのお腹にいる赤ん坊に元気で生まれてこいよって話しかけてたんだ。金はなかったけれど幸せな毎日だった・・・」

「・・・」

「マリナの出産のときは大変だったんだぜ?難産で母子共に危険な状態だったけれど、マリナが生んで見せるから楽しみにしてなさいって、俺は何にもできずマリナの手を握ってるだけだった」

「傍に居てくれるだけで、とても心強かったと思うわよ」

「そうか?そうだと良いな。長い間苦しんでいたが、やっとの思いで生まれたのが俺の大切な娘マナだ」

「マナ・・・いい名前ね」

「ありがとう。マナが生まれてからは大変だったんだ2人とも親は居ないし兄弟も居ないから、子供の世話をしたことなんて無かったから手探り状態だったんだ。夜泣きやぐずった時どう対処すればいいのか分からなかったから、2人とも疲れ切ってたんだ」

「私は子供が居ないから分からないけど、育てることはとっても大変なことだと聞いてるわ」

「あぁ、でも幸せな毎日だった」


ラドは思い出を優しい表情と声で2人に語っていく。マナの事で喧嘩したこと、マナが初めて歩いた時のこと、マナが大きくなって花を2人にプレゼントしたことなど、幸せで何気ない毎日を語っていく。他人が聞いたらそんなことだと思うかもしれないがとても幸せだった日々。話し方や時々溢れる笑顔からその日々がどんなに大切だったのか、どんなに2人を愛していたのかが伝わってくる。色とりどりの思い出、辛いこともあったが家族が居れば幸せな思い出に早変わりした。シオンはラドの話から幸せな日々を想像し、暖かな家族だったということを理解しマリナやマナと話してみたいと思った。けれどシオンもラドも、もう二度と2人には会えない。


「どうして、俺を置いていってしまったんだ。どうして、俺が生き残ったんだ。俺だけが生き残っても何の意味もないのに!!!!」


幸せな日々を思い出し語っていたラドだが、唐突に現実に引き戻される。もう2人に二度と会うことは出来ない。幸せな日々が二度と来ることはない。幸せな日々だったのに突然訪れた悲劇によって愛していた家族を失いラドは未来に希望を抱くことが出来なかった。生き残るくらいなら、共に死ねたら2人じゃなく俺が死んでいたらそう思うことは生者の特権だが、当然のことである。こんなにも辛い思いをするならば、こんなにも悲しいのならばこの世界で生きる意味はあるのか?声を荒げ叫ぶラドに、シオンは気圧されるがグレスはラドの顔を覗き込んむ。


「悲しい?」

「悲しいよ。寂しいよ。どうして2人が居ないんだ、お願いだ俺の命をあげるから2人を生き返らせてくれ。何でもするから・・・」

「苦しい?」

「あぁ苦しい。この世界に生きていることが苦しいよどうして2人が居ないんだ・・・」


グレスに気持ちを指摘されたラドは抱えていた思いを吐き出した。元気そうに見えていたが、それは虚栄でしかなかった。悲しみがラドから離れることはなく常にラドを襲っていた。もし俺が死んでいればもし俺が戦えればずっと自分の事を責め続け、自分の命なんていらなかったただ2人が生きていて欲しかった。もし、2人が生き返るのなら命など簡単に差し出すほどに、けれど死者を蘇生する方法などこの世界には無い。2人が生き返ることはないのだ。感情が溢れ出し、泣き始めてしまったラドにグレスはゆっくりと立ち上がりラドの前に立つと抱きしめた。抱きしめられたラドは抑えていた感情が溢れ出しラドの胸で、静かに涙をこぼす。グレスが抱きしめたのはラドの真似だろう、しかしその行為はラドに寄り添うものとなる。


誰も居ない暗く静かな夜が、2人に寄り添うように包み込んだ。

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#空っぽと色

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