男の事情
「目が覚めたかしら?今の状況を分かる?」
「あぁ 覚えてるあなたが助けてくれたんだよな・・・」
なるほど、そこから覚えていないのね。
「そうよ。ご家族のことはとても残念だったわ。貴方を助けてから1日経っているのだけど、覚えているかしら?」
「そうなのか・・・すまない覚えてないんだ」
男が何処まで覚えているかどうかをシオンが聞くと、男は俯きながら答える。助けてからの事を覚えていないとのことだが、恐らく襲われたショックと家族を失ったショックが重なったため自我を喪失していたのだろう。人はあまりにも衝撃的な事があると記憶が曖昧になることがある。男はその状態に陥ってしまっていたのだろう。シオンは男が尾辺ていないことを確認すると今までの経緯を丁寧に説明し始めた。
覚えていないってことは、グレスを見て錯乱したことも覚えていないと思うからグレスを見せても大丈夫かしら・・
「まずは、自己紹介ね。私はシオン魔女をしているわ。もう一人同行者がいるの紹介させてもらうわね、グレスよ」
シオンは背中に隠していたグレスを男の前に見せると紹介した。
「この子は、事情が有ってあまり話せないの」
「そうなのか・・・俺はラドだ。助けてくれてありがとう」
男はグレスを見て錯乱することは無かったが、懐かしむような悲しみを含めた眼差しでグレスを見ると目を伏せた後にシオンを見ると礼を伝えた。
「当たり前のことをしただけよ」
「それでも、ありがとう」
「どういたしまして。今の状況を教えるわね」
男は心から感謝を伝えるが、シオンは全員を助けることが出来なかったことや、助けるかどうか一瞬迷ってしまったことに後ろめたさを感じているため少し居心地が悪そうに答える。ラドに今までの流れを説明し始めるとラドは混乱しながら状況を飲み込んでいった。
「そんな状態になっていたのか・・・面倒を掛けたすまない」
「いいえ、このままイエリ―の街に行くことになるけど大丈夫かしら?」
「大丈夫だ。俺達もイエリ―の街を目指していたからな」
「そうなのね。ということはフォルトの街から来たのかしら?それとも周辺の村かしら?」
「フォルトの街だ」
「そうなのね」
シオンは男の答えに少し考えこむと、優しい表情で話しかけていたのが一変し真剣な表情を男に向け踏み入った質問を始める。
「この街道は、戦えるものが一緒でないと危険だと知っているはずよね。何故冒険者や乗り合いの馬車に乗らず貴方達だけで通っていたのかしら?」
フォルトの街に住んでいたのならこの街道が危険であることを知っていたはずだ。フォルトの街は国境にあるため冒険者組合が有る何故護衛を頼まなかったのか、何故馬車に乗らなかったのかを知る必要がある。分かっていながらここを通ったのなら判断が甘すぎる。家族を持っているのならしてはならない判断だ。
真剣な表情で尋ねるシオンに、ラトは居心地が悪そうに俯きながら質問に答えた。
「ああ、もちろんこの道が危険だという事は知っていた。だが、危険を承知で通るしかなかったんだ」
俯き歯を食いしばり、苦しそうに答えるラトに何かしらの事情があると感じたシオンは語調を緩め
「その事情を教えて、私にはそれを知る権利がある」
冒険者には依頼者を助ける義務は負うが助けを求める人を、助ける義務を負わない。命が簡単に失われるこの世界では、助けようとした際に返り討ちにあうことや盗賊による罠であることがあるため助けるかどうか冒険者の自己判断に任される。助けた際には冒険者は命をかけるため、助けられた側の事情を聞くことは当然の権利だと考えられている。
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