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97.やってしまった…。◆

◆◆◆

「…ん。」


目を開けると知らない天井が見えた。

此処が何処だが全くわからない。


体も重く、なんだか頭も割れる様に痛い。



(此処は何処で、私は寝ていた…?何故…。)


起きようすると吐き気が襲った。

このままでは不味いと体を横にすると誰かの手が伸び、私を支え目の前に紙の袋が出された。


「これに吐いていい。無理に押さえくて大丈夫だよ。」


下を向いているし吐気で今にも出してしまいそうな為その人の顔を見ることも出来なかったが、抑えきれずに言われるがままそこに吐いた。



胃の中のものが出たと思う。

苦くて苦しい。



全て出し切ると僅かに先程よりも体が軽くなった。


「大丈夫かな?吐き切れたなら少し休んだほうが良い。体勢を直しましょう。」


そう声を掛けられて体を直された。


その姿には見覚えがあった。

神父のような格好白髪混じりの黒髪の男性。



「す…みませ…ん。」

「いや、予想していたから対応できて良かったよ。」


私が謝ると男性は薄ら微笑みを見せて紙袋の口を閉じた。

更には私に薄いタオルまで無言で渡してくれ、それを受け取り口元に当てた。


幾分すっきりはしたが何が起こっているのか自分でもわからず呆けてしまう。


男性は私を無表情でじっと見つめてゆっくりと口を開いた。


「覚えているかな?」

「…え?」


「何故貴女がここに寝ているか、何故そうなったのか、覚えているかな?」


男性に問われ、記憶を辿ろうとした。


一気に″———”への感情が湧き出た。

それと同時に涙も次から次へと溢れて止まない。


ボロボロと大粒の涙が布団を濡らしていく。


それを見兼ねたのか男性は私にタオルを手渡してくれた。


タオルを貰い私は顔を埋め声を出して大泣きした。



◇◆◇



暫くそのまま泣いてしまった。

涙が出切ったのか、もうあまり出なくなり少し落ち着きを取り戻した。


男性は私の事を静かに見つめ、黙って様子を見ていた。

その事に今更恥ずかしくなる。


私が男性を見た後、視線を逸らすとふと笑いが漏れた。


「いやはや、印象が変わるね。先程とは別人の様だ。」

「…あ、あの、すみません。答えもせずに泣き通しで…。それに嘔吐まで…ごめんなさい…。」


「いえ、落ち着いた様で良かった。話ができるなら、私も同席するから一度話しをしたほうがいいと思うのだが…?」

「…誰と?」


「ルークとだよ。少し遡るが、何故此処に寝ているか、記憶があるかな?」

「…すみません。ないです…。」


「なら、あちらでお教えよう。立てるかな。」


私はベッドに座り、そこから立ち上がった。

先程まで普通に立てていたはずが、足に力が入るにくくふらついてしまう。


「手を貸そうか?」


男性は私の様子を見て心配そうに声を掛けてくれた。だが、私は首を振り答えた。


「大丈夫…です。なんとか…歩けます…から。」


壁伝いに歩を進めた。


扉を開けて隣の部屋に行くとそこには″———”の姿があった。だが厳密に言うと″———”ではない。


銀髪の青色の瞳の男性だ。

名前はルークと言っていた。


私を見ると慌てて椅子から立ち上がり此方に近寄ってきた。


「辛そうですね…。手を貸しますから。」

「…。ありがとう。」


その手に触れると出し切ったはずの涙がまた溢れてしまった。

ポタポタと床に落ちると、ルークは動揺を見せた。


「ルーク、此方に座ってもらいなさい。」

「わ、わかった。さあ、此方へ。」


ルークに手を引かれ泣いたまま移動した。


前世とは違う感触で、似ても似つかないはずなのに求めていたのはこの人だ。

触れて尚のこと強く感じた。


椅子に座らせて貰うと、ルークは机を挟んで私の前に座った。手が離れてしまったのが寂しかったが、話し合いをするというので仕方がない。


ルークの隣にいる男性は私にまた新しいタオルを渡してくれて、私は受け取ると涙をそれで拭いた。


「さて、まず貴女の名前を教えて頂いても構わないかな?」


数回息を吸っては吐いて呼吸を整えた。


前に座るルークとその横にいる男性を見つめながら話す。


「私は…ロティ・ブラウアーと申します。」

「ロティさんだね、私はゼゴ・ホウルニソンと申します。ルークと組んでいるパーティのリーダーだ。ルークは先程挨拶しましたから、大丈夫かな?


では…貴女が此処にいる経緯を話そうか。

もしかしたら途中思い出すかもしれないが。」

「はい…よろしくお願い致します…。」


「貴女がルークに話し掛けてきて、会いたかった、探していた、約束していたという言葉が私にも聞こえていたよ。


その後ルークが貴女に謝ったら貴女は突然魔力暴走を起こしてしまった。」

「ま…りょく…ぼうそう…?」


「ご存知ないかな。

感情が極度に高まった時、自分自身の中にある魔力を抑えられなくなり放出してしまう現象の事だ。魔力は感情に揺さぶられて抑えが効かなくなってしまう。

さっきの嘔吐は魔力暴走後の反動だ。

それを知っていたから紙袋を用意していたんだ。


それはいいとして魔力暴走を起こしてしまった時、魔力の量で被害が決まるが…、普通の魔力暴走なら自分が使える魔法が周囲を巻き込んで魔力が爆発するように弾けるんだ。


火を使うことのできる魔導士なら一帯を火の海にした人も過去に聞いたことがある。


此処まで聞いて何か思い出さないかな?」


正直あまり思い出せない。

ただ悲しくて辛くて信じたくないと、心の底よりもさらに突き破って地獄にでも落ちた様な絶望だった。


「すみません…。自分の事なのに、思い出せそうに…なくて…。」

「いえ、大丈夫だよ。

なら、ルーク。見せなさい。」

「わかった…。」


そう言うとルークは自分のシャツの前のボタンを外し始めた。

咄嗟の事で頭が混乱してしまい、自分の目を覆う。


「ロティさん、全部は脱がないから…。

これを見て欲しい。」


苦笑した様な声でゼゴが私に言う。

私は恐る恐る目を隠していた手を退けた。



それを見た瞬間凍りついてしまった。



「……ま…さ………か。」


素早く自分に意識を集中させた。自分の中にあるはずのある呪いの術式を探した。

その呪いは決して使ってはいけないものだったのに、いくら探しても私の中に術式のカケラすら残っていない。



ルークの胸にある呪いの跡が逃れられない証拠として私と目が合っていた。


ゼゴは私の愕然とする様子を見て、穏やかに話す。


「ロティさん、落ち着いて。

こればかりは私達も経験した事がないので、説明を頂かないと解決しないんだ。


あの時貴女から禍々しい空気が出た為、我々は警戒したが、魔力暴走をした時にそれはルークだけを特定した暴走状態になった。


見た事も聞いた事もない。

そんな特殊な状態。しかも何の魔法も爆発せずに赤黒い魔法陣がルークだけを取り囲み降り注いだ。その後貴女は倒れ、この跡が残っていたんだよ。


この魔法の跡が何かロティさんは知っているかな?」



冷や汗が流れ、心臓が痛い。

隠す事が出来ない事実を私は顔を伏せながら声を震わせないよう、息を整えて話した。


「本当に…ごめんなさい…。

それは呪いです…。私…呪術が使えるんです…。」


目の前からガタンと音がした、顔を上げるとルークが立っていた。自身の胸を触りながら血の気が引いている。

これはまずいと弁解出来る要素もないまま弁解した。


「あのっ!その呪いは…体を蝕むものとかではないんです!だから…痛いとか苦しいとかはなくて…。」


はっきりしない私にゼゴはまたもや穏やかに話す。


「どんな呪いか、教えてもらえるかな。」


ゼゴを見るとしっかりと私を見つめていた。

表情は僅かに硬いものの、怒ってるわけでも悲しいわけでもなく事実が知りたいがための真面目な顔つきだ。


ルークは顔色を多少悪くし、私を不安そうにじっと見つめていた。

その青い眼を見つめ私は口を開いた。


「…不…老…不死。…不老不死の…呪いです。

老けもせず、心臓を刺されても、体を半分に裂かれても…死ねない呪いなんです…。」


途中耐えられず私はまた顔を伏せてしまった。

今2人がどんな表情をしているか想像も付かない。



私が呪いの事を言ってからどちらも口を開かず黙っている。





その長い沈黙を破ったのはルークだった。


「それって最高じゃないですか!」


勢いよく顔を上げてルークを見ると先程までの不安そうな顔が消え、嬉しそうな笑みと共に眼を輝かせていた。


ゼゴは顎を摩りながらきょとんとしている。


「さ…最高?」

「はい!俺は冒険者ですから。死なないって事はとんでもない祝福じゃないですか!

なぁ、ゼゴ!」

「うーん…確かに私達にとってはかなりのプラスの事かもしれないね。

無理な冒険をしても死ぬ事がないならルークはかなりのお宝を貰ったようなものだ。


それに不老とも言っていたが、魔力が最も向上する歳に老けることがないのならもしかするとルークはもっともっと強くなるかもしれないね。」


2人生粋の冒険者脳なのか。

不老不死の呪いが何故呪いと言われているのかわからないが故にそんな事を言えるのだ。

私は焦りながら2人に言う。


「不老不死が呪いと言われているのはただ老けない、死なないだけじゃないっ!


死ぬほどの傷でも無理に体の再生が始まって激痛どころじゃない痛みを伴うの!」

「それでも死なないなら冒険者向きですよ。もしかしたら勇者にもなれるかもしれない。」


まるで聞き入れる事のないルーク。

私は無断で呪いを解除してしまおうとルークに向けて手を出した。



「…あ、れ…?」


魔法が使えない。解術をしようかと思ったのに、魔力の流れも感じない。

ルークは首を傾げていたが、ゼゴが私に話し掛けた。


「ロティさん、魔力暴走をしたと言っただろう?今ロティさんの魔力はほぼないに等しい。今魔法を使いたかったのでしょうが、無理にやるとそれこそ死んでしまう。


魔力暴走を起こすと体の中の魔力がほんの僅かに残るだけで後は全て出てしまうから今は魔法が使えないよ。」


「そんな…。」


「今なにをしようとしたのだろう。」

「…解術を。」


「え!嫌です!これはこのままでいいです!」

「だ、駄目!この呪いは厄介なの!

本当なら一生誰にも使うはずがなかったのに…。だから呪いは解かなきゃ駄目…。」


「ですがすぐには解けないみたいですね?」

「っ。」


焦り顔から一変、呪いがすぐに解けないとわかってしまったルークはにやりと強気に笑った。

反対に私は弱々しく、懇願する様にルークに言う。


「私の魔力が回復するまで待ってくれれば、私は解術も使えるから呪いを解ける…。


私が…近くにいるのが嫌なら魔力が回復するまで遠くで待つ…。

まだ解術を望まないのなら…私が死ぬまでなら待つから…。

その呪いを受けたままには出来ないの…。

解術しないと後悔することになる…。」


そう言うと私は思い出した。


ルークの最後のやりとりを。

女性にキスをされたルーク。付き合っている事を否定せず、去ろうとしたルークに、

私は絶望して呪ってしまったのだ。


私を忘れてほしくなかった。

私を覚えていて欲しかった。

私を探していて欲しかった。


死が2人を別つのなら死ななくていいとさえ、思ってしまった。


それが不老不死の呪いを発動させた原因だ。


完全に私が悪い。

傲慢で貪欲で我儘な私がルークをそうさせてしまったのだ。




ルークを切実に見つめると私に呪いを解かない様に訴えるような目をしていたが、ふとゼゴの方を見てルークが言った。


「ゼゴ、少しロティさんと2人で話したい。隣の部屋に行ってもいいかな。」

「構わないよ。ロティさんはそれでもいいかな?」

「あ…はい。」



ルークが立ち上がり、また私に手を差し伸べてくれた。


その優しさがまた涙を出すきっかけになってしまい、涙を流しながら席を立ち私が寝ていた部屋へと手を引かれてルークと共に入った。

◆◆◆

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