93.さすがドラゴン?◆
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エイミの住む場所は山の頂上なのにだだっ広い平地になっていて、一角にボコッと突出した洞窟がある。その洞窟が寝床であり体を休めるところにしているみたいだ。
洞窟の周りと中は鉱物が張り巡らされた様にキラキラしていて初めは宝石の中に寝床を作ったのかと思っていたものの、話を聞くとこのキラキラの鉱物はエイミの魔力の結晶らしい。年月を掛けてエイミから漏れ出す魔力が固まって宝石の様になったらしい。
吐息にも微量の魔力があり、それが土に当たると徐々に固まって宝石の様になっていくと話していた。
「なんだか高そうだね。宝石みたいだもん。」
「高そうとは金貨に変えると、という事か?」
「うん。」
「高いらしいな。気に入った勇者達には取る事を許可しているからか、気に入らないやつまで欲しがる。それにあの下に居た冒険者も我の魔石とそこにある武器等を狙いに来ていたのだろう。弁えればいいものを。」
「そうだったんだ。だから威嚇したんだね。そういえば勇者もここにくるんだっけ?エイミそう言ってたよね?」
「20年から100年に一度、勇者達と遊ぶのだ。2〜3年間な。
気にいるやつならもっと遊ぶのだがイマイチおらん。
ここ何十年かは勇者達もつまらんので20年に一度とかで遊んでいたな。
満足したら100年に一度でも良いのに。
王国は我が消えてしまう事を恐れているから勇者達が我の遊び相手をしとるのだ。」
「エイミが消えたらどうなるの?」
「この王国の均衡が崩れるな。
我としてはそれでも構わぬのだが、約束を交わした以上は命尽きるまで我はここからこの国を守り、世界を見てやるのだ。まあそれは人間には言っていない。精々我の機嫌を取る様に動くがいい。それくらいは許してくれるだろう?」
「ふーん?ん?うん?」
エイミの言う事がたまに分からないことがある。初めに洞窟に連れてこられた時もなんか言っていたし。
よく理解していないまま言葉を濁しつつも同意を見せるとエイミはすぐに嬉しそうな様子を見せた。
◇◆◇
エイミと遊ぶのは意外と楽しかった。
今まで″———”探しの旅や体力をつけようと体を動かすものだけで、遊んだ事がなかったからだ。
一緒に魔物を倒したり、狩りをしたり、食事をしたり、寝たり、空を飛んだり、約束の鱗を拭いてあげたり。ドラゴンだが遊んでいる感覚は人間の友達の様でドラゴンであることをたまに忘れそうになる。
本当なら魔法で私と戦いたかったらしいが、私が回復しか出来ないと伝えると自分にその魔法をかけて欲しいと頼んできた。
「回復魔法だよ?」
「ああ、わかっている。何処も悪くはないが、寝る前の安らぎにもなるだろう?」
「まぁ、そうだね?じゃあかけようか。《回復》」
エイミの体は大きい。30mはある巨大を包むのはいつもの回復の量じゃ足りない為、多めに魔力を出した。
ゆっくりとエイミの体を緑の魔法の光が包んでいく。
包み終わると一瞬体が光り、すぐさま宙に魔法の光が溶け込んでいく。
エイミはとろんと眠そうな目で私を見た。
「形は変われど美しいな…。ありがとう…おやすみ、ロティ…。」
そう言うとエイミは眠ってしまった。
◇◆◇
洞窟の中は気温や湿度が一定なのか、寒くも暑くも無い。
不思議に思って私がエイミに尋ねるとニヤけた顔でエイミは言う。
「我の魔法で快適に過ごせる様にしているのだ。人間は暑さにも寒さにも弱かろう?
勇者達ならあまり気にもしないが、ロティは特殊魔法も使えないだろう?特別に我が魔法をかけているのだ。」
「そうなんだ、ありがとうエイミ。優しいね?」
「誰にでもそうではないがな。
特に無謀にも我に挑む愚か者は優しくする価値もない。
追い返すのは一瞬だが、荷物を置いて行かれると本当に面倒なのだ。定期的に焼いたりするが、中には焼けないものもあって困る。」
「私の前にいた冒険者みたいな人達かな。そこに置いてある荷物がそうなのかな?焼けないものって何?」
私は壁の近くにある無造作に置かれた荷物の山を指を差しながら尋ねるとエイミは頷き応えた。
「ああ、そうだ。一回一回やるのが面倒だから貯まったら一気にやるのだ。
焼けないものは宝石や金貨だな。剣なんかの武器もある。あれらは価値があるだろう?
我は使わないが、王族が来た時には押し付けてやるのだ。近年王族も中々こないが故に貯まっていてな…。
我はそんなものいらん。ロティにやろうか。」
「私もいらないよ?」
「そんなこと言わずに受け取るがいい。人にとっては使えるものだろう。ここに隠してある。」
そう言うとエイミは寝床からひょいと立ち上がりそこの床の魔石を退かした。
平べったい寝床だと思っていた所はどうやら蓋みたいだ。魔石を横に置くとエイミは手招きした。
近づいて見るとそこには直径5m位の穴が空いていて引くほどの金貨と宝石、武器がぞんざいに投げ込まれ、中にむき出しの状態で置かれていた。中には曲がってしまった金貨やヒビが入った宝石なんかも見える。
武器は辛うじて無傷みたいだが、刃がそのまま出ているものもあり怖いし、危ない。
「適当に価値がありそうなものを入れたものだか、本当に価値があるかは分からん。
全て持っていっても構わないのだが。」
「持っていけるわけないよ!多すぎだよ!?」
「うーむ…。やはりか。いらない分は今度空から適当に撒くか。」
「危ないから止めようか…。エイミ。土の中に埋めたらいいんじゃない?」
「それも手間になろう。面倒だが処遇は今度考えるか…。とりあえず持てる分ロティが持てば良い。何かに使うといい。困っている奴にあげても良い。
好きなように使うといい。」
私も荷物になるため、あまり多くを貰っても困る。だがエイミも私にあげたいのかそわそわと体を動かしていた。私はその様子を見て笑いを堪えつつ、悩むふりをして提案する。
「うーん…。じゃあ一袋に入る分だけ、貰ってもいい?」
「ああ、少ないように思えるがあまり持っても重いと言うならそれで我慢しよう。」
「あげる方なのにおかしな言い方だよ。エイミ。」
私が笑っていうとエイミも柔らかく微笑んだ。
穴の中からどうやって取ろうか迷っていたら
エイミが手を伸ばし器用に金貨や宝石だけを爪で摘み私に渡してきた。
金貨は価値がわかるが、宝石の価値が分からなかった。
私の両手に溢れる前にエイミの動かす手を止めると、最後にゴロンと大きな薄い青色の宝石を上に乗っけたエイミは満足そうな顔をしていた。
◇◆◇
「ロティ、1ヶ月は黙っていたがいつまで隠しているのだ。」
「…なんのこと?」
「お主、回復魔法の他にも魔法が使えるだろう。」
「…なぜ知ってるの?」
私はエイミに問い詰められて顔を顰めた。
ここに来てからというもの回復魔法しか使っていないだからバレるはずもなかったのに。
エイミは得意げに、顔をにやけさせて話す。
「我をなんだと心得る?我は古代竜だぞ?
世界の行く末を見守る気高きドラゴンだ。
偶然も必然も我が決められるだけの力がある。そんな奴が1人の人間の事を何も知らぬと思うか?」
「…なるほどね。すけべだね、エイミ。」
「な、な、なん!?すけ!?」
「まあ別に隠していたわけじゃないよ。
呪術は人前じゃもうあまり使ってないんだよ。解術はたまーに使ってたけどね。
昔はよく脅しに使ってて、実際には誰も呪ってないよ。皆怖がるからさ。」
「ごほん。ロティ…お主の中に禁忌とされる呪もあるだろう。そんなものなぜ知っているのだ。」
「不老不死の事…?
この術式は私が解術したからだよ。解術したものは全て術式として私の中に記憶されているの。
こんな呪い…本来なら作られてはなかなかったのにね…。
呪いはね…願い事でもあるんだよ…。
エイミには分からないかもしれないけど、
人間は貪欲なんだよ。それは時として人生を捻じ曲げたい程にね。」
「ふむ…。我がその呪いを貰えればいいのだが、ドラゴンに呪いは効かなんだ。鱗で退けてしまうからな。
ロティ、その呪いは決して使ってはならぬ。
使った時は次に我と会った時、鱗の隙間の掃除をさせるからな。」
「えええ!?エイミの鱗表面はいいけど、横はナイフよりも鋭いから手が切れまくるんだよ!?分かってる?」
「なら使わなければいい。」
「使う気はないよ…。仕方なく知って、持ってるだけの術式だもん。他にも本当は忘れたい術式はいくらでもあるよ?」
「寝ている時に虫が枕元から這い出てくるやつとかか?」
「それもだよ…もう!思い出させないで!」
エイミは私が使える呪いの事までも分かっている様だ。幾分巫山戯ているようだが、真面目に言っているのだろう。
私を見るエイミの目は恐ろしいものを見る目ではなく、なにかを懐かしむ様な優しい目をしていた。
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