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92.村がないなら帰りたかった!◆

◆◆◆

20歳も半分以上過ぎた頃。




私はどうして今こうなっていることやら。

なにをどう間違った?



目の前には巨大な白い竜が金色の瞳をぎらつかせて私を見ている。


私の後ろにはその竜を見て気絶した1つのパーティ。


私だって気絶出来るもんならしたいとこだけど、そんな事したらこの竜に食べられてしまうのではないかと、非力な私は気絶している人を守る様に竜の前に立ちはだかっている。





道を歩いていたら何やら村があるのかと山の上まで登っていく途中に1つのパーティがなにやら仲間割れをして剣や魔法を繰り出していた。


仲間割れには関わりたくはないと逸れようとした時に空からそれは降ってきた。



美しく真っ白な鱗に金色の瞳。真っ直ぐ伸びた角、長い尻尾の先には金色のナイフの様な毛がある。鋭い爪に、広げれば体の倍近く大きな翼。



(メルニア王国ってドラゴン居たんだ…?)


そんな事をぽかんと思うしかなかった。


そのドラゴンは私の前のパーティに降り立ち、咆哮を上げた。



「ガァアアアアアアアアアアアアア!!」


私の方にまでびりびりと響く声はまさに最強生物の咆哮だ。 

体の奥底から恐怖が滲む。ほんの僅かに安心出来るのはその生物が私の目の前ではない事だった。


今まで旅をしてきたが、野生のドラゴンには会った事がなかった。

私が肝を冷やしていると、なんと次から次へと前のパーティメンバーが気絶したのだ。


(まずい!!このままじゃ食べられちゃうかも!!)


そう思ったら勝手に体が走って気絶した人の前に両腕を広げ立っていた。


それでドラゴンは私をぎらついた目で見ている、と言うわけだ。


勝算があるわけじゃ、全くない。

寧ろ勝てない見込みしかない。


ドラゴンに呪いが効くとも思えない。

私の体からはどっぷりと冷や汗が流れた。


(どどどどどど、どうか…去ります様に…。)


無言のままドラゴンと見つめ合った。



何十秒、何分と過ぎたかもわからない。

目を逸らせないままでいるとにやりとドラゴンが顔を歪ませた。


「っくっくっく、なんと面白い事だろう。我は気に入った。」


ドラゴンからそう聞こえた気がしたが、口は開いていなかったように思え、私は顔を顰めた。


「よし、少し遊ぼうじゃないか。ここじゃなんだ、我の寝床に行こう。」

「へ!?いや、ちょおおおおおおお!!!」


ドラゴンの口が私の体をがぷりと噛んだ。

痛くはないが、動けば傷つきそうで動けない。

次の瞬間には持ち上げられ、なんとそのまま空を飛んでいた。



「ひぇーーーー!!こわああああいいいい!!!」

「くっくっ。楽しいか!娘!」


「楽しくないーーー!わああああ!!」



初めての空中は命綱なしでドラゴンの歯に触れたまま猛スピードで空を駆け抜けた。

大声を何度も上げて、高い所から見る景色も碌に見れずに落ちたら死ぬという恐怖だけが私の頭をいっぱいにさせた。



◇◆◇



いつぶりだろうか。こんなに叫んだのは。

すっかり喉が痛い。


私が叫ぶ原因となった犯人…いや犯ドラゴンはニコニコと笑顔で私を見ている。


連れてこられたのはこの巨大なドラゴンがすっぽりと入る洞窟の様で、壁一面ピカピカと宝石の様なものがびっしりと隙間なく埋められている。


それに近くには武器、防具、お金やバックなどが積み上げられている。


ドラゴンは口を開かないまま私に話しかけてきた。


「娘、暫く遊んでいくがいい。あやつも中々楽しい事をするもんだ。早く我に教えればいいものを。こんな事になっているとは知らなんだ。」


ドラゴンがどうやって話しているのかも、

なんの事を言っているのかもわからず私は首を傾げて眉を顰めながら言う。


「なんの事だか…さっぱり…。

それに私は娘って名前じゃないんです!

ロティって名前があるの!」

「おお、それはすまなんだ。ロティ。

それよりも我の山に用事があったのか?

あんなとこにいて。」


「いや…ここに村があると思ってきたんですけど…。」

「ロティ堅苦しくなくて良い。

以前はあったがな、もう今はここに村などない。我だけしかおらぬ。


下の方で何やら魔法の気配がしたから降りてきたのだが、そやつらは我を見たらすぐに気絶しおったな。つまらん事だ。」


小馬鹿にしたようにふんっと鼻を鳴らしたドラゴン。

堅苦しくしなくて良いって事は敬語じゃなくていいのだろうかと思いながら私は尋ねた。


「貴方は誰なの?」


ドラゴン以外の何者にも見えない変な質問だが、ドラゴンには通じた様で私の事を寂しそうな目で見ながら答えた。


「…我は原初の竜だ。

人族からは古代竜だとかエンシェントドラゴンだとか言われておるな。残り少ない生粋の竜だ。」

「じゃあ偉い竜さんって事でいいのかな…?

なんて呼べばいいの?」


「指定して良いのか…。


…ではエイミ…と。」

「女の子なの?」


「我に性別と言う概念はない。どちらにもなりうるからな。エイミとは呼んでくれぬか?」

「ううん、それは別にいいよ。エイミ。

でもね、私行かなきゃならないから遊べないよ。」


″———”探しの途中なのだ。道草を食っている暇はない。それがドラゴン相手でも。

遊べないと言ったからかドラゴンは少し焦っている様だ。


「何処に行くのだ?」

「探している人がいるの…。と言っても姿も名前もわからないんだけど…。」


「どういう事か話すがいい。」

「んー…言っても信じてもらえるかわからないけど…。私、前世である男の子と約束したの。来世では一緒になろうね、って。

前世はそれを叶える事が出来なくてね…。


それで私はその男の子を探しているの。

今…前世と同じ姿なのか名前も一緒なのかもわからないし…。だから姿も名前もわからないって言ったんだけど…。

私の言っている意味分かる…?」


「ああ、要は転生した前世の子を探しているのだろう?」

「そ、そういうこと!」


なんとも理解力があるドラゴンなのだろう。

言っている私ですら訳がわからなくなりそうだったのに。


エイミはグルグルと喉を鳴らして目を細めた。


「うむ…中々骨の折れる事をしているな。

楽しいのか?」

「楽しいとか!!楽しくないじゃないの!!

″———”と約束したからっ!私は精一杯探してるの!!」


「おお…そうか、怒るでない。

″———”と言うのはそやつの前世の名前か?」

「うん……そう。」


「見つかる手立てはあるのか?」

「…ないよ。あったら私が歩ける様になった時から探してもないし…。」


「…本当に骨の折れる事をしているな。


……なぁ、ロティ。我と2〜3年遊ばぬか?

遊んでくれたら我が少しばかり手助けしてやるぞ?」

「え!?ど、どうやって…。」


思わぬ提案に私は目を大きくして驚いてしまった。

エイミは得意げに顔を綻ばせ、尻尾をパタつかせながら話す。


「我は世界の始まりからいるのだ。

前世の名前が分かるなら前世の魂位追う事も出来よう。どうだ?遊ぶか?」


凄く有難い提案だ。

本当なら乗りたいところだが、あまりにも時間がかかる。

もしかしたらこの山を降りてすぐに出逢える可能性も無きにあらずなのだ。


私は顔を伏せてエイミの問いに答えた。


「2〜3年は長いよ…。」

「ぐっ!勇者達も我にそれくらい付き合うのだぞ!」


「エイミ…暇なの?」


2〜3年遊べとは人の数年をどう考えているのか世界の始まりからいるエイミには考えられない事なのだろう。


私の言った事が図星だったのか目を逸らして口を微妙に尖らせてエイミは言う。


「…まあ……暇だな。

ここら辺で魔力を感知したら飛んでいって遊ぶくらいか、魔物で遊ぶ位のどちらかだ。後はこの国の安寧を見守っていると約束しているからな。何かあれば我が力を貸すのだ。何もないと暇なのだ……。」

「2〜3ヶ月じゃ駄目?私だって年単位だと困るし…。それなら私自分で探しに行っちゃうもん。」


洞窟の外を指差しすると、エイミはワタワタと慌てて止めにかかる。


「待て待て待て、じゃ、1年ならどうだ?」

「それでも長いよー…。半年……なら…まあ…うーん。」


自分で半年と言いかけてやはりそれでも長いかと訂正しようかと悩んでいるとすかさずエイミが、ピカピカの地面を叩きながら話した。


「分かった!しょうがない!半年でいいから、我の側にいてくれ!」

「居たら手助けしてくれるの?」


「ああ、勿論だとも。半年後のその日に前世″———”という名の子が何処にいるか世界全体を洗い出してやろう。特徴があればもっと絞れるぞ。」

「それは凄い!!ありがとう!エイミ!」


「その代わりちゃんと半年我と遊ぶのだぞ。」


出来る事は神様の様に凄いのに、遊ぶ事を言うエイミは子供の様だ。

最初に会った時の怖い印象はどこへいったのか。ただの大きな犬のようだ。



「遊ぶってどうするの?」

「我と共に狩りをしたりでも良い、我に乗って空を飛ぶのでも良い。

我の鱗を綺麗にしてくれたりでも良いな。」


「世話も入ってるけど…。そういうのでいいなら。」


私が了承すると嬉しそうにエイミは笑った。

大きな顔が近づいてくると私の前に頭を下ろした。


その頭は硬くて冷たい鱗で撫でるとまたグルグルとエイミは喉を鳴らしていた。

◆◆◆

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