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91.変わらない日々。◆

◆◆◆

あの村を去った後も同じ様に回復魔法を使いながら

″———”探しをした。


″———”は見つからないものの、回復魔法で人を癒すと感謝した人から食べ物やお金をもらう事があり、飢えには困らないで済んだ。


欲しかったナイフに鍋、それと野営をする時に必要な物が購入する事ができたので外で寝る時にはそれらを使って1人で過ごした。


どうしても町から移動している最中は野営をしなければならないし、宿にいつでも泊まれるお金の余裕があるわけでもない。

出来る限りは森などに身を潜め密かに体を休めた。



だが、魔物に襲われる事もしばしあり、申し訳ないと思いながらも呪術で動きを止めては逃げたり倒したりして、食べられる魔物に関しては食べた。



初めは魔物を仕留めるのも怖くて呪術で苦しませず意識を飛ばしてから仕留めて、その身を削いだ。


何度もしてはいるが生暖かい身を斬るのは一瞬緊張する。

しかし、生きるためには致し方ない。

食べる時はその命に感謝した。



しらみ潰しに一つの村や町に寄っては時間を掛けて

″———”を探す。

1人1人、逃さない様根気よく人を見ていく。


回復魔法の使い手がいない村や町では私の事を捕まえようとする人もいた。


そんな時、呪術は便利で呪いを掛けようとするとすぐに無理矢理捕まえるのを辞めてくれた。


人には使いたくはないので全てかける振りをして最悪呪術の魔法陣を見せるに留まった。


″———”に関する収穫がないまま、時間が過ぎていく。

世界地図にも×が増える。だがまだまだ回っていないところの方が断然多いのだ。


諦めることはない。



寒い日でも暑い日でも止まろうとはしなかった。居なかった村や町から次の村、町を目指してひたすら歩く。


疲れれば自分に回復魔法をかけて道を進んだ。前世と同じで回復魔法ならいくらでも使えるのは有り難い。



来る日も来る日も。

土砂降りの中でも、風が吹き荒れる中でも。

1日足りとも休まずに歩いた。


1年経っても、2年経っても、変わらなかった。変わっていくのは私の身長や服装やバックや靴。


お金を時々貰うたびその大半は貯めながらも服やバックが壊れる寸前に新しいものへと変えた。

最初家から出た時のバックは今じゃ5倍の大きさになった。色々入り重宝した。




ギルドという冒険者の集まりにたまに行き探し物の依頼をすることもあった。

まだ登録が出来ない年齢らしく、正式には受注出来ないがそう言う時には先にギルドに行き、依頼を見てから探しに行き、連れて行けるものや持っていけるものはそのままギルドに連れて行った。


中には無駄足に終わる事もあったが、大体は認めてくれて報酬を貰うことが出来た。



(お金はあっても困らない…。今″———”がどんな状況なのかもわからないし、あるに越したことはない…。)


そう思いながら地道に想いを募らせ必死に気を保った。




酷く孤独ではあった。

誰にも頼らず、なんの手掛かりもなくただ人を見ては違うと嘆く日々。


前世の思い出を思い出しては涙を堪え、前に進んだ。会えるまでは立ち止まれない。


涙は流さなかった。耐えて耐えて耐えて。

会えた時に溜めておく。


会ったら抱きしめて泣いてもきっと″———”は許してくれるだろうから。



◇◆◇



12歳になるとギルドに登録出来るらしい。

本当なら元家族に見つけられる可能性があるため登録は迷ったが、あの家族が探しに来るわけもないかと思い12歳の誕生日に登録した。 


回復役で登録はしたものの、実際は治癒師並だろう。異常状態も病気も治せる私は重宝されるのは目に見える。


だけど私は一箇所に留まる気も、パーティを組む気もない。1人でついでに出来る事や、困っている人がいたら回復魔法を掛けるだけで今はいいのだ。


もし仮に″———”が冒険者で一緒に冒険をしたいとなれば話は別だ。


(私みたいに姿が変わってなかったり名前も一緒だったりしないかなぁ。)


そんな淡い期待を胸に抱く事もあった。





12歳にもなると男性から声を掛けられる事が増えた。

主に冒険者だが、町やギルドの中を歩いていても声を掛けられる。


「ねぇ、君。可愛いね、そこでお茶でもしようよ。」

「結構です!さようなら!」


「うお、美人さんだなあ。ギルドにいるなら冒険者か?

俺のパーティに入りなよ!」

「結構です!さようなら!」



私の答えは一択しかなくいつも同じだった。

あまりにも声を掛けられる事が多いため、私はフード付きのローブとスカーフを購入し、顔を隠す様になった。


そうした事でなんとも人に声を掛けられず快適に歩けた。少し暑いのは致し方ない。




13歳、14歳、15歳


どれも変わりがなく過ぎていく。

この靴で何足目かももうわからないほど歩いている。色々な地形の所を歩くためそんなに長くは持たないのだ。


時には平原、時には山、時には雪道、時には砂漠。


スタート地点が幸いな事に東寄りだったため、そこから周りを潰していくかのように人に会った。

そこから北へ行ったり南へ行ったり。

真ん中の方は大きな国であるため最後のほうにしようと残していた。


旅を始めて9年。


なんの進展もなかった。


進展はないものの、ついでだが私が通った町や村は病気や怪我の人がいれば回復をかけた。それはいつしか噂になっていて、私の耳にも入ってきたのだ。


【家族を探す聖女に祈りを。】

【心優しき聖女、巡礼中、邪魔するべからず。】


嘘八百もいいところ。

これは私の事じゃないなと耳に指を突っ込み聞かないふりをした。


本当の家族なんて探してないし、巡礼だってしてない。

一応私が回復魔法をかけた人には口止めをしたのだが、最初の頃とか忘れた時もあったからか変な噂が立っている様だ。


私だと特定されなければ問題はないだろうと、放置を決め込む事にした。




13歳、14歳、15歳、16歳、17歳、18歳。

一年があっという間に過ぎる。

×印もかなり多くなってきた。後は真ん中の付近の国だけだ。


どう足掻いても見つからない″———”。

まさかまだ転生していないのだろうか。


19歳でメルニア王国の端の村に着いた。

この王国以外にもまだ隣国が3つほどある。


だが、この王国はかなり大きい。その上人が多い事はギルドからの情報で知っていた。

多分この王国で数年かかるだろう。


成人もとうに過ぎた独りの女が歩いていても不思議がられないのは助かったが、村が少なく町が多い為かやはり時間がかかってしまう。


今じゃ視界に映れば″———”か、そうじゃないかわかるのはこの旅の成果ともいえよう。



会いたい気持ちは日々募る。

地図には×印だけが虚しく増えていった。

◆◆◆

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