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88.おやすみ…。

前回スザンヌの家で夕食を作って食べた時と同じく、今回もルークの鞄の食材で私とスザンヌが作って食べる事になった。

スザンヌはお婆ちゃん姿の時よりも沢山食べるようになっていたのでなんだか微笑ましい。



「ロティ、あんた腕を上げたね?」


そう言って肉にかぶりつくスザンヌ。

口の周りがソースだらけなのが少し気になる。


「そう?もしかして祖母のおかげかな?

私1人になる前は祖母と一緒に暮らしていてそこで色々教えてもらったの。

料理だったり、魔法だったり、薬学だったり。魔法学校は行かなかったけど、祖母のお陰で生きてこれたから。」

「もういないのかい…?」


口の周りを拭きながら眉を下げたスザンヌ。

亡き祖母を思ってくれたのだろうか。

私は祖母を思い出し懐かしむように言った。


「うん。2年前に亡くなって、とっても優しいお婆ちゃんだったんだ。そのかわり両親は私の事が嫌いだったみたいだけどね。

小さい頃に別れて、どちらも私を育てたくないって事で私は祖母と暮らしたの。


祖母が亡くなってすぐに住むところを母に追い出されてその村を出たの。」

「可哀想な事だ…だが死んで生まれ変わりをしているなら運命だとしか言いようがないんだろうね…。婆が受け入れたのは幸運だったね。」

「どう言うことだ?」


スザンヌの意味深な言葉にルークが眉を顰めた。私も野菜が刺さったままのフォークを口に運ぼうとしたが、その言葉を聞いて止まってしまった。


スザンヌは口に入ったものを咀嚼し、飲み込んだ後にカップ片手に続ける。


「推測を話した時に言ったろう。

ロティの姿形、名前も、魂が覚えていると。


少し考えてみな。

生まれてきた子が自分の考えていた子に付けようとした名前をかき消され、子を見たら違う名前を口走ってしまっている。

それに月日が経つにつれ自分達に似てない事がはっきりわかってくる。


自分の子のはずなのにまるで知らない誰かの子を産んで育てている感覚になるのだろう。


魔女の成り立ちに不幸が多いのはある鳥のように、他人に育てさせるからなのさ。


昔のことだが…ワタシもそうだった。

産まれたてから覚えているがワタシを産んだ母もワタシを拒絶していたよ。

髪の色も目の色も自分や旦那と違う色の子を受け入れられなかったんだ。


勿論、ちゃんと大事にしてくれる親もいる。

だがワタシは違かった。物心付く頃には捨てられたよ。ワタシは他の奴の記憶が見れるから生きていく事が出来たけどね。

辛い時もあったが、そんな時ロティが現れてお節介を焼くもんだからそれこそ本当の母のように慕ったもんだよ…。


今と変わらない、優しくて世話焼きな美しい魔女だった。」


カップの中の飲み物を一気に飲むスザンヌ。

カップを置くと私を優しい眼差しで見つめている。どこか懐かしいものを見るような瞳は僅かに哀愁が漂っていた。


母の事も気にはなったが、私の魔女時代の話を出されて此方が完全に集中が持っていかれた。

辿々しく私はスザンヌに尋ねる。


「わ…私が魅了の魔女だった時の…話…?」

「知りたいのかい?」


知りたいような、知りたくないような。

私自身望んで消した記憶をほじくり返していいものなのかもわからない。


ルークは私の答えを黙って待っていたが、

私よりもルークが気になっているようで珍しくそわそわとしていた。

だが、私は眉を下げ伏せ気味に答えた。


「…。わからない…。」

「全てを思い出したら、もう一度聞いてやるよ。それまで考えておきな。ほれ、早くお食べ。冷めるよ。」


「うん。」

「…。」


少し残念そうなルークを横目に私はフォークに刺さったままの野菜を口の中へと入れた。



◇◇◇



お風呂を済ませ、後は寝るばかりになった。

寝るにはまだ早すぎる時間だが、スザンヌも出かける用事がある事だしいいだろう。


部屋はチェストとベッドと簡素な椅子と机がある程度の質素なものだが、私はこの部屋が好きなのだ。

今は作り直したのか木製の家具の全てが同じ形なのに新しくなっている。



新しくなった1人用のベッドに腰掛け、夜出かけるための支度をしているスザンヌを待つ。


コンコンコンッ


「どうぞ。」


扉がノックされた為返事をした。

入ってきたのはルークだ。

私を見て微笑むと私が座っていた横に腰を下ろす。


「念のため、この周りに結界を張っておいた。もし仮にあの女の魔物が来てもすぐ感知できる。これないとは思うがな。」

「ありがとう。ルーク。暫くの間、私をよろしくお願いね…。」


「言われるまでもない。俺以外、ロティに手を出させない。」

「ルークでも寝てる時は駄目だよ…?」


「ああ。今はな。」

「…ん?今は?」


寝てる時は寝ているのだからいつでも駄目なのではないのだろうか。

どう言う事なのか尋ねようとすると扉がガチャっと開かれた。


スザンヌが幾分顔を険しくさせてルークを見ている。


「…。ん、ギリギリだね。ロティ、横になりな。ルーク、寝れるよう電気消しな。」


そう言われ、私もルークも動いた。

私がベッドに横になると部屋が薄暗くなる。

間接証拠の光だけが優しく部屋を照らした。


ベッドに寝ている私の横にルークとスザンヌが並んで立っている。

スザンヌはふと笑うと優しい声で話す。


「ロティ、魔法を掛けるよ。目を閉じて。

眠るようにおし。」

「うん、その前にルーク…。」


私はルークに手を伸ばした。

ルークが私の手を握ってくれると私は微笑んで言う。


「たまには手を握ってね。………おやすみ。」

「ああ…おやすみ…。ロティ…。」


目を細めて僅かに寂しさが浮かぶ顔のまま微笑むルーク。




私は目を閉じるとそのまま夢の中に沈んでいった。

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