85.察するって難しい…。
計何時間だったのだろう。
あの後もごちゃごちゃと飲み続け、今や潰れたアレックスとエドガーはお互いを背に床に直接座ってるし、リニは冷静沈着な様子は消えていて、ぽーとした顔で気持ち良さそうに頬杖を付いている。
ゼラとサイラスも肩を組んで笑い合っていて、ノニアは無言で立ってアレックスの側に行き蹴りを入れていた。
アレックスを蹴った事によりエドガーがアレックスを枕にして寝ている。
ルークはあれからまた起きて、私を抱きしめたまま器用にお酒を飲んでいた。
抱きしめられただけでそれ以上の事はされなかったため、大人しく私も捕まったままだ。
ノニアはアレックスとエドガーのポケットから小さな袋を取り出すと店の奥に消えて行った。
少しして店の主人のザックと共に戻ってきた。
「ロティ、お開きにしましょうか。
ゼラとサイラスが生きている内に転移魔法を使ってこのお馬鹿達を連れて帰らないといけないしね。お金はザックに払ったから安心して、勿論このお馬鹿達持ちよ。」
足でアレックスをぐりぐりと踏みつけながら笑顔のノニア。
アレックスは痛がる様子もなく、寧ろ笑って喜んでいる様に見えた。
「ありがとうございます。楽しい時間でした。またいつか会いたいです…。」
「そうね、私も。ロティとは気が合うからまた一緒に飲みたいわね。今度はザック特製のお酒で!いつまでも勇者パーティにいるわけじゃないし、辞めた時には盛大に祝ってもらうわ!」
「ノニアもやめるんですかぁ!?やめないでくださああぁい…!」
サイラスがノニアに手を伸ばして半泣きで叫ぶ。ノニアは呆れ顔でサイラスとゼラの方に行き2人を立たせた。
「とりあえず動けなくなる前に帰るわ。
ロティはルークと一緒に帰るでしょ?ルーク、転移魔法使えるわよね!」
「んー…?…ああ。」
「ならいいわ、ほら!サイラス、ゼラ!こっちに来てこのお馬鹿2人と手を繋いで!リニもいらっしゃい!2人とも王宮へ転移してよ!間違えないでね!よし、じゃあまたね!ロティ、ルーク!」
「はい!また!ありがとうございました!」
「んー…。」
ノニアは飛び切り可愛い笑顔で手を振るとリニ、サイラス、ゼラも同じく手を振ってくれた。
「「またね!」」
そう言うと瞬時に魔法がかかり6人は消えて行った。
6人がいなくなるとザックがとことこと私達に近づいてきた。
「まだ飲むかい〜?もうやめるかい〜?」
「私達も帰ります。お料理もお酒も美味しかったです。このお酒私も頂いて帰りますね。ありがとうございました。」
「ふふ、綺麗なお嬢さんに褒められて嬉しいもんだよ〜。いいよいいよ〜。またおいでね〜。」
ザックは耳と尻尾をぴょこぴょこと動かして喜んでいる様だ。
「ルーク、私達も帰ろう?転移魔法使ってくれる?」
「んー…うん。」
ルークが返事をすると腕を解かれ、すっと立ち上がる。ザックに貰った酒瓶を忘れないように持ち、すかさずルークの手を握りながらザックに頭を下げた。
「では、また、ありがとうございました!」
ザックは手を振ってくれたが転移魔法の光で直ぐに見えなくなってしまった。
玄関ホールは電気が付いていてほんのりと明るかった。
ルークを見るとぼーとした表情で首を傾げている。
「ルーク、お風呂は危ないから体は出来れば魔法で綺麗にしたほうが、わ!」
私が話している最中にルークは魔法を発動させた。私諸共洗浄の魔法をかけられたようだ。
「私は良かったんだけど…ありがとう。
着替えて寝ようか。寝室に行こうね。」
返事を待ったが帰ってこないルークの手をゆっくりと引き階段を登った。
転ばない様にちゃんと足が動いているのを確認しながら階段を登り切る。
寝室に入ってベッドにルークを座らせてから私はルークの着替えを衣装部屋から持ってきてルークに手渡す。酒瓶は重いので一先ず衣装部屋に置いておいた。
「ルーク、私も着替えてくるからルークも着替えて?このまま寝てもいいけど、きっと寝る時の格好としては居心地が悪いと思うからさ。私は着替えてくるね。」
そう伝えて寝室からまた衣装部屋に戻る。
ナイトドレスに着替えて寝室に戻る時ルークがまだ着替えをしていたら悪いと思い、少しだけ廊下で待った。
音が全然しない為、そろっと中を覗くと着替えてはいるものの中途半端な所で止まってしまっているルークが見えた。
近寄るとどうやら上着のボタンが上手くいかないらしく格闘していた。
いつものルークじゃ考えられない姿に可愛さと笑いが込み上げてくる。
笑いが出ない様顔を引き締めつつルークに声を掛けた。
「ルーク、ボタンしてあげるよ。」
「ん?」
そう言って私はルークのボタンを留めていく。首元だけ緩めに、後は全て閉め終える。
これで良しと思ったその時、ルークが私の手を掴んできた。
「ルーク?何?」
「脱がすの?」
蕩けた顔をしたルークに聞かれ一瞬で顔が赤くなるのを感じた。
「違うよ!逆だよ!着せたの!もう寝るよ!」
「嫌だ。」
「え!?寝るよ?わぁあ!?」
ルークに掴まれた手がベッドの方にぐんっと引っ張られ私はベッドにダイブした。
ベッドだから良いものの危ないのでやめて欲しいと抗議をするためにダイブしたうつ伏せから仰向けに体勢を変えた。
そのまま起きて座ろうかと思ったのにルークが覆い被さってきた。
ルークの長い髪がパラパラと降りかかり私の髪と混ざる。
「ルーク、寝よう…?酔ってるでしょ?」
冷静さを保つ為にルークを誘導した。
内心じゃ心臓がバクバクでルークの妖艶な表情にすくんでしまいそうだ。
「ロティとキスしてない…。」
「朝したよ…?」
「んー…?そうだっけ。」
「そうだよ?忘れたの?」
「んー…でもどっちみち足りない…。」
「え!んっ!」
朝だって充分したと思うのに朝とは違う深いキスでルークは私を攻め立ててきた。
恥ずかしくなるほどの息の荒さと声と水音が混ざり体に熱が篭る。
前回お酒を一緒に飲んだ時にキスをされ、私が気絶すると言った事をルークは覚えているのかみたいだ。
長いキスだがあまり息苦しさは無いもののその分ゆっくりと堪能されていて羞恥心だけが蓄積されていく。
このまま食べられても不思議じゃない雰囲気が私の判断を崩しそうになる。
ルークも少しだけ息を乱して私からそっと離れると、そのまま私に優しく体を落としてきた。少し苦しいが嫌ではない。
「ル、ルーク…。大…丈夫…?」
「…ちょっと…このままで居て。」
肯定の代わりに私は自分の左にあるルークの頭を撫でた。
さらさらのストレート髪が指の間を通り抜ける。
息が整い始めたルークが私の方を見た。
そのまま頬にキスすると私の体の左側の方にドサリと自分の体を避けた。
私を困った顔で見つめるルークと向き合うと溜息を吐きながらぽつりと呟かれた。
「はぁ…。辛い。」
「え…どこが?!なにが辛いの…?!」
私はガバッと起き上がりルークの体を見ようとした。しかし瞬時に腕が伸びてきて捕まえられると今度は私が半身ルークに覆い被さる様になってしまった。
「ロティ…察して…。」
「さすがにわからないよ…。」
「ロティと出来なくて辛いと言っていいのか…。」
「スミマセン、察します…。」
お詫びではないが、私からのキスをルークにすると先程の倍近く長いキスをされるとは全く予想していなかった。
お陰で恥ずかしさが頂点に到達してしまい、布団にぐるぐる巻きになって眠りについた。