83.情報過小だよね…。
男性冒険者のせいでピリピリした空気を何とかせねばと思いながらも荷が重く、私は受け取った石に目線を落とした。
欠けてしまった所から中が見えるが少し色が違って赤く見える。触れようとした時、サイラスの手が伸びて私の手を取った。
「ロティさん、それもう一度私に貸してくださいませんか?」
「あ。はい、どうぞ?」
サイラスに再び石を手渡す。
険しい顔でサイラスは石に触れるとその石を前のテーブルに置いた。
「先程までなかった魔法が発動しています。
石が欠けた事によって発動したみたいです。」
「何の魔法だ?」
ルークが問うとサイラスは石を見つめて答える。
「無効化魔法です。鑑定魔法と同様に特殊魔法で使える人は希少な魔法。
しかも石の中に隠してまで魔法をかけるだなんて…。相当な魔術師だと思います。
ロティさんはこれに触ってしまったので、認識阻害魔法が無効化されてしまっています。
だからあの冒険者に気付かれたのでしょうね。」
「え…じゃあ今私認識阻害出来てないんですか…?」
「そうなるな、後でかけ直すから安心してくれ。」
「ありがとう、ルーク。」
ドキッと跳ねた心臓がルークの言葉に安心を貰って落ち着く。
サイラスがいなかったら認識阻害魔法がないまま過ごす事になっていただろう。
認識阻害もなく顔を隠さずに街を歩くのは厄介事になるだけだ。回避できる面倒は回避したい。
「うむ、本当に美しいお嬢さんですね。ルーク殿とお似合いで…。」
「シオドアにも認識阻害かけっぱなしだったの?ロティ。ギルマスだから大丈夫だよ。この人。」
シオドアはまじまじと私を見つめ、顎に手を当てながら感心して話す様子にアレックスは指を差して軽く笑った。
「す、すみません。一言しか話してなかったからつい解除忘れちゃって…。」
シオドアの返事に返答したのみで認識阻害を解除するのをすっかり忘れてしまっていたのだ。故意ではないが申し訳ないと思い謝る。
「あ、そっか。それなら仕方ないよね。いちいち認識阻害解くの大変じゃない?」
アレックスは納得して様で優しい表情を見せ、ルークに話を振る。
ルークは首を振り否定した上で険しい表情をしながらも口を開いた。
「さっきみたいな輩がいるから認識阻害はあったほうがいい。あやつは大体にして戦闘中から攻撃が雑すぎて気になっていたんだ。いつか何かをやらかすぞ。」
「要注意人物に入れておきます。勇者様方に感謝するならまだしも、ああも罵る冒険者がいるのは残念極まりないですね…。」
「僻みでしょうねェ、大体の冒険者は勇者パーティを憧れの対象として見ているでしょうからァ。一部の自分の力量を知ってしまって自分が到底及ばぬ存在だから妬んでいるのでしょゥー?ああイライラするわァ。」
シオドアの言葉にオーレオールが乗っかり苛立ちを見せている。
穏やかな人の険しい顔や苛立つ顔は迫力があって怖い。
「とにかく、その石でゴーレムを作ったやつを探さないとならない事は確かだな。
明日以降他の石も一応探すし、怪しい人物がいるなら俺達が対応する。ギルドからも何か情報があったら教えてくれ。」
アレックスがソファから立ち上がり言うと他のメンバーも立ち上がる。
これで今日の所は終わりなのだろう。
シオドアも同じように立ちながら頷いて返事をした。
「わかりまし」
「あァーー!そうなのよォ!情報で思い出したわァ!ルークとロティにィ。お馬鹿のグニーの事でねェ。」
唐突にオーレオールが大きい声を出した為その場にいたルークとリニ以外はびくりと驚き軽く体が跳ねた。
オーレオールは気にせずそのまま続ける。
「お馬鹿のグニーは看守の1人を連れて行ったと言っていたでしょうゥ?
その看守の情報が少し入ったのよォ。なんだか変人で名前も経歴も詐称していたのよォ。
王国の監獄の看守は囚人を脱獄させないようにA級冒険者以上の高等級冒険者や魔法学校の特待生じゃないと看守にはなれないのだけど、故人の名前を使って看守をしていたみたいなのォ。
そんな事普通出来ないと思うのだけどォ。
勤務態度は真面目だったらしいわァ。
時々囚人達と話をする姿がなんだが怪しかったみたいでねェ。それでもほかに変なことはしないし、脱獄しそうな囚人は片っ端から感知して逃さなかったらしいわァ。
魔導師でェ、使えない属性の魔法もあったみたいだしィ、というよりも魔法自体はあまり強くなかったらしくてェ。
特殊魔法を主に使っていたらしいわァ。
もしかしてゴーレムを作ったのってその看守かしらァ?」
その看守の話を初めて聞く私は目を大きくさせたが、他の皆は知っていたようで取り残しを食らった気分だ。
ルークはグニーの事が嫌いすぎるのか私に教えるグニーの情報が少なすぎる気がする。
5人を殺害した事だってさらっと話の流れで聞いた程度だし、看守を連れて行っている事も初耳だ。
話を折らないために今は聞かないでおこう。後で色々聞いてみようと思う。
オーレオールの考えにアレックスは顔を顰め首を傾げて考えるように言う。
「それにしてはおかしいじゃないか…?
アレグリアが誑かした看守だろ?
ゴーレムをその看守が作ったとしたらアレグリアの砂虫を何故攻撃するんだ?」
誑かしたんだ、と思いつつアレックスの考えに同意する。
確かにそうだ。グニーの手助けをするならわかるがグニーの邪魔をするのはおかしい。
オーレオールもアレックスの意見に唸りながらも同意しているようだ。
「うう〜ん。そうよねェ。違う人かしらねェ。
まあとりあえずそれは覚えておいてェ。
漸くお馬鹿のグニーを擁護していた看守達も自分がした過ちがどれほどのものかわかったみたいでェ、今じゃすっかり大真面目になって皆働いているらしいわァ。
中には自分がお馬鹿のグニーを捕まえると意気込んで休みの日に探している人もいるみたいよォ?まァ賞金も高額だしねェ。」
グニーを捕まえようとする人が増えることは私にとってもルークにとっても喜ばしい。
私は追跡されているため、追いかけても簡単に逃げられてしまうのが目に見えている。
ルークは嘲笑うように呆れ顔で目線を逸らして話す。
「今更感が拭えないが…。俺の前にとっと現れれば即座に首を刎ねてやるのだが。」
「それをされるのを恐れているから現れないのでしょうけどォ。隠れていてもどうしようもない事はお馬鹿のグニーだってわかっているでしょうゥ。何か策を練っているのかしらァ。」
オーレオールの険しい顔つきとは裏腹に、アレックスはルークににやつき顔を向けて言う。
「だけどルークがロティの側にいる限りは絶対安全だろうけどなぁ。
くれぐれも喧嘩なんかしてロティと離れ離れになるんじゃないぞ?」
離れ離れ、と言う言葉に反応したのか。
ルークは私をぐいっと引き寄せて後ろから抱きしめてきた。
「喧嘩をする気も、離す気もさらさらない。」
「ちょ、ちょ、ちょ、物理で今はちょっと!」
さすがにこんな場で抱き寄せなくても私は離れない。
少しばかりもがくが、私を離そうとしないルークと顔を赤くした私に皆の生暖かい視線が刺さり恥ずかしい気持ちで穴があったら入りたい気分になってしまった。