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82.強者?愚者?

ゼラとチェドも酒場に誘ったが、魔導師団の副団長がいない状態の今はチェドは抜けられないらしく泣く泣く諦めていた。


ゼラは表情を崩さずに自分も酒場について行くとルークに言っていた。

ゼラが体の後ろで拳を握って喜んでいたのは私しか知らないだろう。


一先ずはアレックス達とルークと私でギルドへ報告しに行くことになり、ゼラは後で落ち合おう形になった。



ルークとサイラスの転移魔法で王都の入り口に転移するとそこから皆でギルドに向かう。

街の人の視線全部がアレックス達を見ている様な気がしながらも街を歩いた。


街を歩く中、先程見た冒険者もちらほらとギルドに向かっているのか先の道を歩いていた。




ギルドに着くと普通の冒険者の受付するカウンターをすっ飛ばし、特別カウンターに進んでいく。


前に受付をしてもらった兎の獣人コアトのカウンターの前にくると、コアトは頭を深々と下げる。


「お疲れ様でございました。勇者様方。先の冒険者より報告は入っております。

ギルドマスターが部屋でお待ちですので、お通り下さい。」


コアトがそう言うとカウンターの更に奥にある扉に皆で案内される。

そのまま扉の奥に入り、以前オーレオールとの話をした部屋の扉を通り過ぎ、他とは違う少し豪華な扉の前に来た。


白の扉に金色の装飾が入った扉をコアトがノックし開けた。中には1人の男性が1人掛けのソファに座っていた。

私達を見るなり立ち上がりお辞儀をする。


頭を上げると微笑みを見せた。


「お疲れ様でした、皆様。ルーク殿、パーティに属しておりませんのに召集に応じて頂き感謝致します。ロティ殿、戦場にて負傷者の救護活動、本当にありがとうございます。

私はギルドマスターのシオドア・ネッツリセと申します。よろしくお願い致しますね。


どうぞ、皆様座って下さい。」


物腰柔らかい初老の緑色の髪の男性が皆をソファに促した。皆言われるがままソファに着席するとアレックスが話始める。



「シオドア、報告は上がっているだろう?

不思議なゴーレムだった。術者を見つけ出した方がいいだろうな。

王都には外壁に結界が張ってあるとはいえあれがここに現れるのは避けたい。


明日から俺達が残りの石を捜索する予定だ。その前にルークが持っている石をサイラスに鑑定してもらう。今ここでやるか?」

「出来ればそうして頂きたいですね。術者が分かればこちらでも冒険者を派遣して捜索致しますので。」


シオドアがそう言うとルークが先程の石を鞄から出して隣に座るサイラスに渡した。

無言でのやり取りが手慣れているのは付き合いが長いからなのだろう。


サイラスが両手でそれを持つと魔力を込めているのか透明な宝石が輝いた。




すっ、と宝石から輝きが消える。

サイラスは浅い溜息を吐くと首を横に振った。


「駄目ですね。痕跡がありません。ここまで綺麗に痕跡を消せるだなんて余程の特殊魔法の使い手なのでしょう…。目的が何なのかも全く分からないのは不安ですね…。」


「そうですか…。困りましたね。

アレグリアの召喚獣も何故ゴーレムが倒したのかもわかりませんし…。

明日以降、残りの魔石を探して鑑定して貰うしかないですね。それでも術者の痕跡があるとも限らないですが…。賭けるしかありませんね。


もう一つ魔石があると報告は上がっているのですが、冒険者が預けるのは嫌だと渋ってまして、今オーレオールが対応しているのです。そちらも鑑定だけでも出来れば良いのですが…。」


シオドアが顔を顰めて困った様に話す。

自分が獲得した価値があるものをギルドに預けるの嫌なのだろう。

サイラスは透明な宝石をルークに返し、シオドアに言う。


「ここに連れてきて頂ければ、私がここで鑑定だけしますよ。」

「それは有り難い!コアト、呼んできてくれ。」

「畏まりました。」


コアトは返事をするとすぐに扉から出て行ってしまった。


シオドアは扉が閉まるのを確認すると、私をじっと優しい表情で見つめた。


「ロティ殿、今回誰1人と傷がない状態で帰還出来たのは本当に素晴らしい事でした。ありがとう。」

「い、いえ!そんな、他の治癒師の方もいらっしゃいましたし!」


「ええ、ですが治癒師や回復役が出来る冒険者は一握りな上に、ギルドにもポーションはあるものの、常時居てくれる治癒師はいないのです。

なので魔導師団にも招集要請を出したのですが、

ロティ殿の回復魔法が素晴らしかったと他の冒険者から絶賛の嵐でしたよ。」

「ロティさんは最近私の特訓で治癒師に格上げされたんですよ。回復魔法なら誰にも負けないでしょうね。」


「なんと!それは心強い事です。ギルド情報も書き換えをしましょう。」


サイラスが得意げに私の事を伝えてくれ、私は無事に回復役から治癒師に格上げ成功したみたいだ。

シオドアも治癒師が増えたからか嬉しそうだ。



コンコンコンと扉が鳴る。

すぐに扉は開かれるとコアトと1人の男性冒険者とオーレオールが来た。


男性の冒険者もオーレオールも顔を顰め苛ついた様子が滲み出ている。


男性冒険者はスキンヘッドで顔が厳つく、ガタイもかなりいい。腕も捲り上げているため大きな筋肉が見えていていかにも強そうだ。

背負っているハンマーは使い込まれているのか少し汚れもある。



「サイラス様、ありがとうございます。心の広い対応に感謝致します。」


オーレオールは男性冒険者を睨んだままサイラスにお礼を言った。

それを聞いた男性冒険者は大きく舌打ちをし、オーレオールを睨み返す。


「とっとと鑑定すれば良いだけの話だったろ!早くしろ!」


怒り散らした男性冒険者は握りしめたピカピカ光る黒い石を前に差し出す。

ルークの持っていた透明な宝石の2倍はありそうだ。


「それをこちらに下さい。」


サイラスが男性冒険者にそう言うとどかどかとサイラスの前まで歩いていきそれをサイラスに放った。


サイラスは何も言わないまま受け取り、石に魔力を流した。

石が光り終えるとサイラスはすぐにそれを男性冒険者に返し、再び首を振る。


「やはり痕跡はありませんね。それはもうお返し致しますので好きになさって大丈夫ですよ。」


サイラスが男性冒険者にそう言うと男性冒険者は一気に機嫌が良くなる。

返してもらった石を上機嫌に見つめ、サイラスに尋ねた。


「なあ、これの名前はなんだよ?売って金にしたいんだ。散々待たせたんだから名前位教えてくれよ。」


待たせたのは自分がギルドに石を預けなかったからだと内心思ってしまう。

ニヤついた男性冒険者にサイラスは無表情のまま返事を返した。


「ドーツ石です。」


それを聞いた途端男性冒険者は顔を歪ませ石を見つめた。


「はあ!?ドーツ石!?宝石や魔石じゃないのか!?鉱山に行けば取れるやつじゃねーか!!」


床に石を叩きつけた。少し欠けてしまった石が僅かに転がる。

サイラスはそれをも冷たい目で見て口を開いた。


「それを私に切れられても困ります。」

「ちっ!!本当無駄な時間だった!こんな石いらねー、ほら、ねーちゃんやるわ。」


男性冒険者は石に興味をすっかり無くし、床に転がっていた石を私にぽいっと投げてきた。

慌ててその石を受け取る。

宝石や魔石じゃないとはいえ価値がないものでもないのに投げるとはもったいない。


私がまじまじとその石を見ていると男性冒険者が声を掛けてきた。


「…よく…見たら、美人なねーちゃんだな。

丁度いい。アンタは勇者パーティの連中じゃないだろ?こんな奴らと一緒にいるよか、俺や仲間と来た方が安全だぜ。こいつらが行くとこなんざ、化けもんの巣窟なんだからよ。

冒険者は冒険者らしく無難に稼いだ方がいいぜ?」


ニヤついた男性冒険者は腰に手を当て私に手招きをしていた。


その様子に私はぞくりと体が震えた。




一瞬にしてこの充満する殺気がわからないのだろうか。

男性冒険者と私以外からただ漏れしているこの殺気に。


特に私の横に座っているルークからは背筋も凍るほどの冷たい視線と共に今にも男性冒険者を凍らせてしまうのではないかと思うほどに溢れてる。


未だに余裕のある顔をする男性冒険者は私の隣にいるルークに気付いたようで更に鼻を鳴らして馬鹿にする様に言う。


「そこにいるのは最強様じゃあねぇですかい。そのねーちゃんは一般冒険者だろうよ。

勇者パーティになんか縛り付けていたらいじめかと思われることでしょうなあ。


ほら、ねーちゃん早く来い。

一般の冒険者が勇者パーティになんかいてもいくつ命があっても足りねーよ。俺んとこは俺がリーダーだからよ。

色々良くしてやるぜ?色んな意味でな。

ほら、早く」

「お前の様な配慮出来ない人間がリーダーとは可哀想なパーティだな。

先程の戦闘でも仲間や周りに岩を降らせていたのは核を早く取りたいが為に躍起になって周りを見ていなかっただろう?


傷ついた者達を治したのはこの人だ。

お前は感謝すべきではないのか?

それに、俺はお前の様に仲間をわざと見ないことも傷つける事もしない。」

「あ?だからなんだ?下にいる方が悪いんだろ?避けれないやつも。鈍間だから怪我するんだろ。

まあ、ねーちゃんが回復魔法を使えるのはかなりいいな!俺の専属回復に」

「お前の汚い妄想に付き合ってられん。失せろ。

妄想は他でやれ。《幻夢》。」


ルークは瞬時に男性冒険者に魔法を放つと避ける暇なく男性冒険者に当たった。

嘲笑うかのような表情は一変し、とろんと力が抜けきり蕩けた笑顔になり、へらへらと笑い出した。


「コアト、お帰り願って。」


オーレオールがコアトに言うと宙を見つめへらへらと笑った男性冒険者を摘みながらコアトは部屋を出て行った。

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