81.まだ、もう少し。
ゴーレム討伐となった、事の始まりは冒険者がたまたまゴーレムを見つけ、どうしようかと相談しているとゴーレムが襲いかかってきたらしい。
大暴れをして、平原を破壊するかのように穴を開けたり、冒険者達を踏みつけたりしたようだ。
土のゴーレム1体から次々と増え、終いには7体になったゴーレムを止められなくて討伐要請に至ったみたいだ。
私が回復した重体者が第一発見者だった。
目覚めて報告した内容がそれだ。
私はゴーレムの戦闘で傷付いた人達を回復しながらその話を聞いていたが疑問が湧いてくる。
何故ゴーレムがグニーの召喚獣を倒してくれたのかは全くの謎なのだ。
ゴーレムは作成されたもので、術者が側にいるかもとゼラが言っていたがその人が助けてくれたのだろうか。では何故最初から冒険者を襲ったりしたのか本当にわからない。
その術者も見つからないようで、治癒師と負傷者以外は平原の後処理や術者探しをしている。
半分の冒険者はさっさと街に帰った者もいたみたいだ。
ルークも心配にはなったが、忙しそうに動いていた為声を掛けられなかった。
暫くして負傷者の回復が終わった。
死者が1人も出なかったことは望ましい。
ゼラが私に水筒を差し出しながら声を掛けてきた。
「本当にお疲れ様です。魔導師団だけでは治癒師が足りなかったので助かりました。
本来ならもっと沢山の負傷者が居たはずなのですが、ロティさんのお陰で負傷者0と言う状況になり感謝しています。」
私は水筒を受け取りながら照れ笑いをして答える。
「私は冒険者ですから。同じ冒険者が傷ついていたら放っておけなくて…。
でも良かったです。ゼラさんも守って下さってありがとうございました。」
「約束しましたからね。守りますよ。
それと、私の事はゼラでいいです。私もロティと呼んでもいいですか?」
「は、はい!」
ゼラが私に笑いかけているのを見て嬉しくなってしまった。
嫌われていたのが今は挽回出来たのかと思い、その事が珍しく感動すら覚えてしまう。
1人で冒険者をしている時はパーティを組んでいても孤独が多かったのにルークに会ってからと言うもの孤独知らずだ。
ルークに感謝しないといけないだろうと思っていると後ろから声がした。
「仲良くなったのはいいが、ロティが怪我をしていないか確認したいのだが?」
「ルーク!」
会いたかったルークが後ろにいたのに驚いたのと、討伐前と変わらない姿に安心して笑顔になる。
本当なら飛びつきたい所だが、ゼラもいる為左手の指だけ軽く握り顔を綻ばせた。
ルークは少し顔を顰め頬がほんのりと赤くなった。
「…ずるい。」
「ん、なにが?私はゼラに守ってもらったから怪我ないよ。ルークも怪我はない?」
「ああ、ない。ゼラ助かった。」
「いえ、約束ですから。無事にお守りする事が出来て良かったです。後処理は終わりですか?」
「ああ、皆で済ませたから早いもんだ。
ギルドにも報告が行くだろうが、謎行動が多かった。これで術者が特定できればいいが…。」
ルークの右手を前に出すと透明な宝石の様なものが握られていた。
ゼラがそれを指差して私に言う。
「ロティ、これがゴーレムの核です。
魔石や宝石が核となる事が多い為、冒険者は高く売れる事がある核を取りたくて討伐に躍起になっていた、というわけですね。」
「あーなるほど。」
「まあ…調べるためにもう一つも一時預かりになるがな。他の石は地面深くに埋まったから後日だろうな。これをギルドに届けに行かないとならんのが面倒だな…。」
ルークは疲れた様な顔でため息を吐いた。
さすがにゴーレムとの戦いで疲れたのだろう。心配になり私はルークに言う。
「ルーク…疲れたでしょ?回復魔法掛けてもいい?」
「いや、大丈夫だ。一度アレックス達と合流しよう。」
「そう…。わかった。」
ルークは優しく笑って回復を断った為、無理に押しつけず言葉を飲み込む。合流に了承するとルークと私とゼラはアレックス達の元に移動して行った。
◇◇◇
アレックス達は他の冒険者や魔導師団員と話をしていた。私達が近づくとサイラスが気付きアレックス達から離れ嬉しそうな顔をして此方に寄ってきた。
「ロティさん!お疲れ様です。
負傷者をなくしてしまうとは素晴らしいですね!
認識阻害がなかったら今頃ロティさん、冒険者や魔導師団員に囲まれて動けない所でしたね。」
「ひぇ…それは勘弁ですね…。」
討伐に参加した冒険者は屈強そうな男性の冒険者が7割を占めている。ここにいるのは王都の冒険者なのだ殆どが高等級冒険者だろう。
女性もいるが、どの人も武器や服装が整っていて強そうにしか見えない。
そんな中、私が冒険者達に囲まれたら脱出は容易ではないし、ルークの前で知らない男性に近づこうものならどうなるのかと不安になった。
ルークは不服そうに私の肩を抱きながら言った。
「サイラス…脅すな…。今日はこれ以上特訓をしないだろう?」
「はい、ロティさんが優秀でしたので予定だった魔力制御と感情制御は習得されておりますし、
本当なら能力強化魔法を教えようかと思っていたのですが、明日以降私達はここに埋まった魔石取り出し作業に駆り出されることになりましたので、
申し訳ありませんが特訓自体が出来なくなってしまいそうです…。」
サイラスが眉を下げて悲しそうに言う。
ルークは首を横に少し振ると柔らかい口調でサイラスに伝えた。
「構わない。元々魔力制御と感情制御を覚えられれば良かったのを更に他の回復魔法や治癒魔法を教えてもらったのだから十分だ。
本当にありがとう、サイラス。」
「ありがとうございました!サイラス先生!」
深々とお辞儀をする。
たった2日間で急成長させてくれたサイラスに感謝したい。
頭を上げ、サイラスを見ると目に少しばかり涙を溜めていた。
「王都に後どれくらいいれるかもわかりませんが…また会いたいですね…。」
今にも泣きそうな声色に私もつられそうになる。
勇者パーティと言う位だ、本来なら戦いの最前線にいる人達がこうしていられたのは、古代竜の交渉戦の後の少しの休息だったのかもしれない。
それなのに私のために付き合わせることになってしまって申し訳ない気持ちと、ありがたさに胸がいっぱいになる。
「サイラ」
「そうね!私もロティともう少し話したいわ!」
「自分も。」
ノニアとリニがサイラスの横からひょっこりと顔を出してきて笑って言う。
リニに至っては顔は見えないが、なんとなくそう思えた。
「えー…俺だって話したいな、な?エド?」
「は、はい!私も!」
ノニアとリニに続いてアレックスとエドガーも来た。
ゴーレムとの戦闘後だが、皆普段通りの元気の良さで疲れが見えないのはさすが勇者パーティだと関心する。
アレックスはルークの肩を叩きながら言う。
「この後ギルドに行かなきゃならないだろ?
その後でいいから【ザックの酒楼】に行かないか?
皆話し足りないだろ?それに俺達とも今度いつ会えるかわからないし、ルークとロティの再会を祝ってないじゃないか?
俺とエドが持つから皆でぱっとやろうぜ!」
にっこりと笑ってアレックスを見るとその場にいた人の視線がルークに集まる。
ルークはエドガーを見て、少し申し訳なさそうに尋ねた。
「エドいいのか…?」
「ええ、勿論!」
「ならギルドにさっさと行きましょー!」
エドガーもまた笑顔で快諾するとノニアが嬉しそうに両腕を上げて喜んでいた。
1番幼い見た目のノニアがぴょんと跳ねる様子はなんだかとても和んでしまった。