79.まだ恋人…です…。まだ…。
「団員が数名到着して、転移魔法陣を生成したと言ってるんでそちらで皆一斉に行こうと思うっす。」
チェドが両手を地面に向けて私達に言う。
チェドの耳のピアスが時々光っているのは団員と通信をしているからなのだろう。
チェドの耳に気を取られていると足元に私達全員が入る位大きな魔法陣ができた。
私、ルーク、チェド、ゼラ、アレックス、エドガー、サイラス、ノニア、リニ、それにノニアの使い魔のフェイもすっぽり入っている。
「それじゃ、行くっす!!」
眩い光が目の前を覆い尽くす。
体を少し窄めると、ルークはその分私を抱きしめる腕にも力を入れた。
目を開けると少し先には巨大な石で出来たゴーレムが3体と土で出来たゴーレム2体。
更には水から成るゴーレムも2体見えた。
その周りを冒険者や魔導師団員が宙を飛んだり地面から攻撃を繰り出している。
「俺達はすぐ行く。ルークは一度整えてから来てくれ。」
「ああ、わかった。ロティ、こちらへ。」
アレックスがそう言うと何の躊躇もなく、勇者パーティはゴーレムの元に向かう。
私はルークに引き連れられ、すぐ近く森の木の元に移動した。
平原とは伝えられていたものの、山岳地帯の入り口とも言えるこの場所は川や岩場や森が隣接している。
ゴーレムが居るのは岩肌と土が見えている平らな場所だった。7体もいて倒すのが大変な分、足場が悪い土地ではなくてホッとした。
私はルークに引き連れられ、森の入り口の大きな一本の木の後ろには来た。
そこにはザッと見ても数十人の負傷者が座っていたり地面にそのまま横になっていた。
私は咄嗟に血の気が引く。
報告を貰ってまだ数分なのにこんなにもの負傷者が出ている。
チェドが近くで回復魔法をかけている男性に話し掛けた。
「死者は?」
「死者おりません、ですがこの方が今一番の重体です。
ゴーレムが地面に踏みつけをした時に巻き込まれたのが5人程。他にもまだ骨折者等おりますが、治癒師が足りていません。」
「了解、そのまま続けてっす。
ロティさん、ここで回復魔法を使って欲しいっす。ゼラもロティさんをここで守って。
俺とルーク団長は討伐に加わるっす。
ここなら討伐状況も一応見えるとは思うから治療が終わったらルーク団長を気に掛かけて見てあげて下さいっすね。
行きましょ、ルーク団長。」
「ああ、その前にロティこれを。すまない、急ぐから少しだけ痛いが許してくれ。」
「いたっ。」
ルークが私にそう言うと、私の手を取り指の先を僅かに触られるとちくりと痛みが走った。
魔法で指を切られたようで血がじわりと滲むとそこにルークは兎のぬいぐるみを当てる。
血に当たると兎のぬいぐるみはじわじわと黄色に変色した。
そのぬいぐるみをひょいと取り、ルークは自身の服に忍ばせ、代わりに私には白銀色の兎のぬいぐるみが手渡された。
「ベムの魔導具だ。持っていてくれ。…行ってくる。ゼラ、何かあったら教えてくれ。」
「はい、畏まりました。」
ゼラの返事を聞いた途端にチェドと共に急速に飛び立ってゴーレムの元に向かってしまった。
せめて一言ルークに気をつける様言いたかったと思ったが時すでに遅い。
ゼラは私の肩を叩くと慌てたように言う。
「ロティさん、急いで回復魔法を掛けて頂いてもいいですか?」
そうだ、今は惜しむ時間はない。
やるべき事がある。この負傷者達を死なせる事は絶対に止めなければならない。
私は負傷者達に手を向けると思い切り魔力を込める。
「はい!!
まずは《範囲回復》!
更にもう一回!《範囲回復》!」
以前よりも眩い回復魔法の光に包まれる。
高濃度の魔法の出し方を覚えた為、高濃度の範囲回復魔法を畳み掛けるように2回掛けた。
座っていた人と横になっている16名のうち11名は体を起こしたり、立ち上がったりと動きを見せた。
「うお!治った!」
「す、すげぇ…。こんな回復魔法初めてだ。」
「範囲回復で骨折まで治ったぞ!?」
「ねーちゃんありがとう!早速行くぞ!」
回復魔法を掛ける前の痛がる様子は消え、目に光を灯して再びゴーレムの元に走っていく。
残った負傷者は5人。まだ横になったままだ。
その内の3人は他の治癒師からの治療を受けているが、一向に顔色が悪いままだ。
私はその人達の元に早足で歩み寄り、治療師に声を掛けた。
「そちらの人はまだ回復されませんか?」
「え?ああ!はい、この方達は内臓までやられておりまして…。先程の範囲回復魔法で呼吸は楽になったようですが…。」
「ならまた回復魔法を掛けます!」
私は1番重体の人から順に回復魔法を掛けていった。1人3〜5回程高回復魔法を掛けると顔色も戻り、呼吸も通常状態に戻った。
最後の1人を終えると5人は静かに寝ているだけの様子になりホッとした。
ゼラは私が回復をしている最中、周囲に睨みを効かせてくれていた。おかげて集中して治癒が出来た。
他の治癒師は私の事をあっけらかんとして見つめている。
ゼラが僅かに溜息を吐いてその人達に言う。
「3人とも口が開いてます。」
「え、いや、ゼラ副団…いえ、ゼラさん…。
この方は一体…。こんな回復魔法見た事ないですよ…。聖女様ですか?」
認識阻害魔法がまだ効いているだろうから私の事はぼやかした方がいいのだろうかと迷う。
認識阻害を解除しないまま話を進め、聖女を否定した。
「いえ、普通の冒険者です。C級の。」
「C級!!???何かの間違いでは!?」
「皆さん、落ち着いて下さい。この方はルーク団長の待ち人です。ロティさんですよ。」
「ああああ!貴女が!いや、これは、失敬を…。さすがルーク団長の奥様でいらっしゃる…。」
「あ、あの…奥様じゃないんです…。付き合ってはいるんですケド…。」
「何!!これはまた失礼を。いやはや、目玉が飛び出しそうです…。」
奥様と言われて顔が紅潮してしまう。
どんな話が広がっているのかと気になる。
ルークは魔導師団に私の事をどう言う風に言っているのだろう。
ルークの事を考えながら、ゴーレムの方を見た。
まだ一体も減ってはいないその大きな体がここからでも見える。
ゴーレムの体質を見るとこの付近で発生したものなのだろうか、岩も土も水もここら辺にはある。
ルークはどうなったのだろう。あれから何分時間が経ったのか正確にわからない。
「ゼラさん…せめて、もう少しゴーレムにち近づけませんかね…?」
「ロティさん、意味わかって言ってますか?危ないですよ!?」
「でも今ここには負傷者ももういません。
彼方に行けば負傷者もその場で治癒が出来ます…だから…。」
「まあ…ここの木の陰よりかは彼方の方が人も居ますし、安全度は高くなりますかね…。
じゃあ私がお連れしますので絶対離れないで下さいね!後もう1人治癒師も一緒に!彼方でも治癒出来る様に!」
「はい!私がご一緒します。」
男性の治癒師が返事をした。
一緒にゴーレムの近くへと移動することになり、足早に木の影から日の当たる戦場目指し3人で駆け抜けた。
❇︎ルークはロティの事を自分の大切な人と言って団員に伝えていた。かなり昔から言っている為、団員の一部はロティが妖精族だと思っている人がいる。