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75.どう頑張って見ても…。

屋敷の玄関ホールに足が着く。

すると同時にルークに体を引き寄せられる。


「どうしたの?ルーク。」

「今日一日まともにロティと一緒にいなかっただろう?ロティ不足…。」


隣にいなかっただけで空間にはずっと一緒に居た、とは言い難い。

ルークの背中に軽く手を回し、ポンポンと慰めるように軽くたたく。


「ルーク、抱きしめてくれるのは嬉しいんだけど…今日は妙に視線を感じるから部屋に行きたいな…。」


ついでにガチャガチャと音も聞こえる。


くっついていたルークが離れると私達の周りに甲冑達がしゃがみ込みながら此方を見ていた。


「…見せもんじゃない。ロティ、行こうか。」

「甲冑さん達、ただいま。またね?」


ルークに手を引かれ廊下を歩く最中、甲冑達は何やら仲間同士でガチャガチャと話すような素振りを見せていて楽しそうだった。


食事をする部屋に着くとルークは手を離し、私に優しく話しかけてきた。


「ロティ、今日は疲れただろう?昼間鞄を見た時にまだ貯めておいた食事があるのだが、今日はそれにしないか?」

「いいの?私が作ってもいいんだよ?」


「ロティの料理は好きだ、が、この鞄の整理も兼ねて消費していきたい。手は付けていない作り立ての料理しか入れていないから大丈夫だと思うのだが。」

「そういうことなら。基本食べれたら大丈夫だよ。」


カビが生えていたり、匂いがまずいものは食べないが、味や匂いが大丈夫なら基本は食べる。

冒険をしていたときには食事を抜いたり、どんなに不味くても栄養のためなら、と仕方なく色々食べる時もあったため食べれるなら問題はない。


「なら、食事にしてしまって後はゆっくりしようか。どんな料理がいい?」

「食べれるならなんでもいいよ?」


「ロティの好きな食べ物が知りたいのだが、食べたいものでも構わない。何がいい?」

「えーーと。お肉かな?焼いた物なら結構なんでも好き。」


「わかった、じゃあテーブルに出そう。」


これが1番好き、と言うものがパッと思い浮かばないが明日も頑張るなら、と贅沢を言ってお肉を選んだ。


嫌な顔一つせず、ルークはテーブルの上に肉料理を並べていった。

それだけではなくサラダやスープ、パンがあるのも嬉しい限りだ。


しかも冒険者がよく野営で食べそうな火炙りのお肉から綺麗な皿に盛られた凄く高そうなお肉まである。


「…贅沢過ぎる。」

「そうか?好みがまだわからないからな。好きなのが分かれば今度からそれを出すようにする。」


柔かなルークは私の座る椅子を引いて席に座らせてくれた。 




久々に食べる火炙りのお肉も、高そうなお肉も全て美味しく頂いた。

勿論、サラダとスープも。栄養の為もあるが野菜は好きでぺろりと平らげた。

パンはお腹に空きがなく諦めると、ルークがぱくぱくと食べ胃に収めた。


水を飲むルークが私を眉を顰めて見ている。

何かしたのかとドキッとした。


「ロティの食事の量が…小食過ぎて心配になるのだが…間に合っているのか?遠慮してるのか?」

「え!?普通の量だよ!?」


「そうか?サイラスもノニアもリニもその倍は食べていたと思うが…。」

「この倍!?」


今日の私の食べた物は結構多い方だった為、驚きを隠せない。お腹を触ると胃もポコッと出ている。


冒険者は力や魔力を使う為、大食いで食べるのが早い人が多い。そのためルークは私の食事量に見慣れないのだろう。


「ルーク、私の食事は今ので少し多いくらい。もう少し少なくても大丈夫。」

「む…。そうか。覚えておく…。」


今までもきっとルークにとっては少なく感じていたのだろう。

食べ終えた皿をじっと睨むルークが可愛く見えた。



◇◇◇



食事が終わり、シャワーを浴びて寝室に行く。


こういうナイトドレスにも多少慣れてきた。

丈がもう少し長い方が安心感はあるが、それをいったらルークのようにパンツタイプの寝巻きの方が良いのだが残念ながらそれはなかった。

王都のお店に行った事がないので散策も兼ねてお出かけもしてみたいが、グニーが街に魔物を送り込まないか心配どころではある。




まだ屋敷の中を全て把握していないため、未知の部屋があるが、浴室は2階にもあるらしくルークはそっちで入浴をすると言っていた。


もしかしたらもう寝室にいるのかもしれないと思いつつ、部屋の扉を開けた。


案の定ルークはもう部屋にいて本を読んでいた。私に気付くと微笑んで自分が座っていたソファに手招きした。

私が近づくと一度ソファにその本をルークは置いてしまった。


ソファに座る場所が消え、立ったまま私はルークに尋ねた。


「何かの本読んでたの?」

「魔導書だ。転移魔法の事について聞いてきただろう?」


「ああ!転移魔法の魔導書なんだ!」

「一緒に見るからおいで。」


「魔導書どけていい?」

「いや、ここにおいで。」


指でトントンと自分の股の間のスペースのソファを指す。


「狭くない?」

「狭くていい。」


両手を軽く広げて待つルークに引く意思はない。

この間の向かい合わせで座った時よりかはまだ恥ずかしさはないだろうと、大人しくお邪魔する事にした。


大きめのソファとはいえ、背中を完全にルークに預けて座る。

ルークの右手が私のお腹をぐるりと捕まえた。


「ロティ、いい匂い。同じ石鹸を使っているのに違う匂いみたいだ。」

「…そう?同じ石鹸なら同じ匂いだと思うケドナー。」


恥ずかしさから片言になってしまった。

ルークの左手で髪を掬われているが、後ろでどんな顔しているのかもわからないし、何をしてるのかもわからない。


「ルーク、そっち半分向きたい…。」

「うん?」


私は体を左に90度回転させた。

ソファの上で横抱きに近い体勢になるとルークの顔も見る事が出来る。その分近過ぎるのが恥ずかしい所ではあるが。


部屋がオレンジ色のライトで薄ら暗く、その光の中のルークは美しさに拍車がかかる。

銀色の髪も青い瞳も整った顔もこの空間では妖艶に見えてしまう。

ふと顔が緩むルークが左手で私の頬に触れた。


「何を考えてる…?ロティ。」

「…ルークが綺麗だな…って考えてた。」


吹くように笑い出すルーク。

おかしな事を言ったつもりはなく、唇を突き出して顔を顰める。

笑い終えたルークが優しく笑って言う。


「それはこちらの台詞なのだが。

ロティは初めて会った時から美しかったし、俺には届かない存在だと思っていたんだ。

それが今はこうしていられるのが幸せだ。」

「私、姿も名前も変わってないらしいからね…。よくギルドの人に怪しまれなかったね。」


「ああ、ロティの事を伝えたのは50年ほど前だったかな。ギルドに伝えていた情報は名前と髪と瞳の色だけで転生がいつなのか分からないから年齢までは言ってない。


後はギルドでもロティの情報はギルマスとサブマス位しかきちんと話していないからな。

前世のロティを知ってるのはオーレオール位だ。

オーレオールは細かく俺とロティの事を伝えてある。なんせロティの胸のナイフを抜いてくれたのもオーレオールだしな。


他は俺がロティを待っていると言っても中々信じられないみたいで、とりあえず事情はどうにしろロティが来たら報告は絶対、と言う風には伝えていたな。」

「だよね…普通じゃありえないもんね。」


私が難しい顔し、ルークから目線を外すとぐいっとルークの方に顔をすぐさま向き直しさせられる。


「だがロティは約束をちゃんと守ってまた生まれて来てくれた。嬉しいよ…。」


そう言うとルークは私にキスをしてきた。

あまり長くないキスをされて離された為、そっと目を開けると獲物を狙う青い瞳が見えた。


「ルーク…その眼、食べられそうで少し怖い…。」

「このまま食べれたらどんなにいいことか。

さすがにスザンヌの考察を聞いた後に軽々しくは出来ないから…せめてキスだけで我慢する…。」


「んっ…。」


深いキスが体を痺れさせる。

ルークとのキスは熱くて蕩けてしまいそうで怖い。吐息が聞こえると耳に響いて残る。

それがまた気恥ずかしくて堪らない。




息が上がった頃にルークが離れる。

ルークの息が殆ど乱れていないのが不思議でならない。

くすりと笑うルークは満足そうだ。


「ル、ルーク。ま、魔導書読みたいっ。」


空気を取り入れつつ私はなんとかルークに伝える。


「ああ、そうだな。堪能していたら読むのを忘れてしまうな。」


そう言うと私の頬から左手がするりと離れソファに立て掛けた魔導書を手に取った。

私に魔導書を差し出すルーク。

素直に魔導書を取り、中を見た。



「……。これ文字??ミミズでも這ったの?」

「ぶふっ!」


さっきの甘い空気は完全に私の一言で壊れ、ルークは大笑いしてしまった。

どうみてもミミズが這ったようにしか見えない、もしくはミミズが押し付けられたようにしか見えないこれを読めと言われても無理だ。


パラパラと捲るがほぼ全てのページがその文字だったため私は早々に諦め本を閉じた。


「くっくっく…ミミズッ…。」

「これを解読しなきゃいけないから転移魔法は難しいんだね、私には無理!ルークがいるもんね。」


「ああ、俺がいるからロティは覚えなくても大丈夫だ…。あー久々にこんなに笑った…。」

「ルークが大笑いしたの初めて見た。」


眼に涙を溜め笑いを堪えるルーク。

ミミズで笑ってくれるなら安いもんだ。

ルークの笑った顔は安心出来て好きだし、嫌じゃない。


ルークに魔導書を返すと鞄にひょいと投げ入れた。




その夜は寝るまでルークは私を見て思い出し笑いをして眠りに落ちていった。

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