70.気になるのは一緒。
体に違和感があり目が覚めた。
寝返りをしようとしたのにうまく打てない。
体に重みを感じ、見てみると腕が乗っている。
間違いなくルークの腕だ。
いつの間にかルークはベッドに潜り込んでいた様で、しかもぴったりと後ろからくっつかれ腕一本が私を捕まえているときたもんだから寝返りを打てなったのだ。
前方方向にはまだベッドに余裕があるため、移動を試みる。
ゆっくりと体を動かしルークを起こさない様に進もうした時だった。
「どこへ行くんだ?」
「え!?」
顔が見えなかったため、起きているとは知らなかった。起きているならとルークの方に寝返ると、ルークは難しい顔をしていた。
「おはよう、ルーク。起きたんだね。」
「おはよう。ああ、昨日は飲み過ぎてソファに寝た様だが、記憶になくて…。だがすっきり目覚めているのが不思議でたまらないのだが…。」
「あまりにも止まらなかったから私が回復魔法を掛けたからね。」
そう伝えるとルークは難しい顔から一変し、驚いた表情になる。
「止まらない…って、どういう…。」
明らかな動揺に私はじとっと見ながら返事をした。
まずは確認しなければならない。
「何処から覚えてるの…?」
「…夕食をあらかた食べ終わって、ロティと一緒に飲み始めて、飲み比べをしたのは覚えている。
その後次々とロティが飲むものだからそれにつられて飲んでいたら…。」
「肩を抱きしめて飲んだのは…?」
「ん…、ん?いや、そ、うだな。」
「飲まされたお酒がわかって味が好きじゃない、甘い方が好きって言ったらルークからキスしてきたのは…?」
「……。」
「じゃあ私に眠らされてもしょうがないね。思い出したかったら思い出すか、スザンヌに教えてもらってね。」
「…スザンヌは嫌だ。ロティから教えて欲しいのだが…。」
「恥ずかしいから嫌…。せめてこれは見せるよ、勘違いされても困るから。」
そう言ってルークから少し離れる。
2.30cm離れ、首を見やすい様に上を少し向いた。
「なっ!?」
「言っておくけど、ルークだからね。他の誰でもないよ。」
「ロティもう一回同じ所に上書きを…。」
「朝から心臓爆発する!起きようね!」
素早くベッドから脱出する。
捕まりもせず脱出成功にルークから見えない様に得意げな表情になる。
顔を戻しルークを見ると、私が降りた方から降りて悔しげな表情をしていた。
自分が付けたキスマークに嫉妬しているようだ。
「私、着替えてくるね?」
とルークに言うと一言ああ、とだけ返事を貰ったため部屋を出た。
ルークがその時に何か言っていた様な気もしたが、気に留めていなかった。
「……恥を忍んでスザンヌに頼むべきか。」
◇◇◇
遅めの朝食を2人で食べた。
あれだけ飲んだのに私は全く酔いもしないのは少しつまらない。
ルークは酔っていたが、私が回復魔法を使ったからか二日酔いにはならなかったようだ。
昨日飲み食べたものがまだ胃の中にあるような気がして朝食は軽めにした。
ルークもいつもよりかは少ない程度だ。
サラダをフォークに刺しながら私はルークに言う。
「ねぇ、ルーク。私お酒強いみたいだね。なんともならなかったもん。」
「強い、で済ましていいものだろうか…。
元魔女だったことが関係していたりするのではないのだろうか。あれだけ飲んでも一切変わらないのは…。」
「んー。どっちにしろお酒飲んでも酔わないって事は分かった訳だね。」
サラダを口に入れて咀嚼する。
酔わないからといってどうすることもない。
ルークだってあそこまで酔わなければたまに2人で飲むのは良いと思う。
ルークは昨日の残りのサンドウィッチの最後の一口を口に放り飲み込んだ後、水に手を掛けながら険しめの表情で言った。
「ロティ、昨日の今日で悪いのだが、スザンヌの所に行かないか…?正直昨日言われた事が気になってしょうがない。」
「スザンヌのとこ?うん、いいよ。その前に何か持っていくお菓子作りたいな。午後からでもいいかな?」
「ああ、大丈夫だ。」
「昨日言われたのって下手に結ばれなくてよかった、だっけ?」
「そうだな。」
「考えても答えは出なさそうだし、私も気になるから行こうね。」
そうと決まればスザンヌにあげるお菓子をサクッと作って、今度こそ昼食は2人前の量で作ろう。
私はスザンヌの所に持っていくお菓子を頭の中で考えてながら後少しの朝食を急ぎながら食べた。
◇◇◇
「よし、完成!」
持参するお菓子は林檎のパウンドケーキとチョコチップのスコーンにした。
昼食も作る量に気をつけたため、丁度良く作る事が出来てご満悦だ。
久々のパスタだったがうまくいったようでルークは嬉しそうに頬張っていた。
冷めたお菓子の軽いラッピングも済み、私はソファに座っているルークに声を掛ける。
「ルーク、終わったから準備がいいならすぐいけるよ!」
「早いな、じゃあ行こうか。転移する。」
「うん、宜しくね。」
私はお菓子を抱えてルークの側に近づいた。
私の肩をルークが抱く。
ふとその顔を見ると眉間に皺を軽く寄せて物思いに耽っているようだった。
「ルーク、スザンヌから聞くのは今の私達とは違う未来の話だよ。今はこうして一緒にいるでしょ?聞く前に不安にならないでね。」
そう言うと眉間の皺がふと消え、優しく微笑むルーク。
肩を引かれて正面から抱きしめられた。
「ああ、そうだな。ありがとう、ロティ。」
「お礼を言われる事言ったかな?」
首を傾げるとルークのくすりと笑う声が頭上で漏れた。ルークの顔を見るように頭を上げると目を細め嬉しそうな顔をしていた。
「ロティの言葉に救われる事が多いんだ。感謝もしたくなる。」
ルークの言葉と共に足元が光る。
足がふわりと浮くような感覚に、周りが一瞬にして光に包まれる。
屋敷の部屋から一変、天気の良い屋外に出た。
昨日も見た庭とその畑にしゃがみ込む1人の女性。
顰めた顔で口をへの字に曲げている。
「ちょいと、いちゃつきながらくるんじゃないよ。」
「いちゃついてな……ついてるよね、これ。」
スザンヌは私達をじっと見つめていった。
確かに友人が、恋人に抱きしめられたまま現れたら、
どうしていいのかわからないかもしれない。
私は顔を赤くしたが、ルークは何のことなのかばりに真面目な顔をしていた。
「これでいちゃついている部類に入るのか?」
「あんたのいちゃつきの区別が知りたいもんだよ。ワタシの前でキスなんてするんじゃないよ、あんた引っ叩くからね。」
行儀悪くスザンヌはルークを指差した。
ルークは目線をずらし、しれっとした顔をしている。
私は本来の目的を話そうとスザンヌに話を切り出した。
「スザンヌごめんね、いちゃつく意図は無かったんだよ…。昨日の今日なのにまた来ちゃったの、今大丈夫だった?」
「ああ、大丈夫さ。基本は自分の好きなように生きてるだけだからね。
あの話を聞きに来たんだろう?おいで、紅茶でも飲みながら話そうかね。
あんたには渋い紅茶でやろうかね。」
「…文句は言わない。」
「けっ、殊勝だね。」
「スザンヌ、林檎のパウンドケーキとスコーン焼いたの。一緒に食べよう?」
「ん、それは嬉しいね。あんたのお菓子も料理もワタシは好きだからね。」
ルークと私に対する態度に温度差を感じながらも私達はスザンヌの家の中に入る。
昨日と同じように椅子に座り、持ってきたケーキとスコーンをスザンヌが用意してくれた皿に出す。
その間にスザンヌは紅茶を用意してくれて、ルークと私の前に置いてくれた。
ルークの紅茶が気になったが、色は私と同じようで少し安心した。
スザンヌも席に座ると早速私が作った林檎のパウンドケーキを一口頬張る。
「ん!?…前よりもうまくなったね。こりゃ美味だ。んまい。」
「ふふ…それは良かった!」
スザンヌに褒められて顔が綻んでしまう。
ほのぼのとしたやりとりの最中、ルークは真剣な顔をしていた。
「スザンヌ…昨日の事だが…。」
「ズズッ、急かすね。まあ無理もないか。勿体ぶった言い方をしたからね。」
「昨日の下手に結ばれていたらもう会えなかったって、どういう意味?」
紅茶のカップをソーサーに戻すスザンヌ。
頬杖をつきながら少し考えたように話し出した。