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64.そんなに不足してる…?


「じゃあ今日はこれで。スザンヌ、ありがとうね。

またいつでも来ていいんでしょ?」

「ああ、いいよ!おいで、楽しみにしてるからね!」

「じゃあ今度はお菓子でも焼いて来るね。またね!スザンヌ!」

「では、またな。」




スザンヌに別れの挨拶を告げ、私達はスザンヌの家からルークの転移魔法で屋敷の玄関に移動した。


一瞬で移動出来てしまう転移魔法とは便利だ。

私も出来ることなら覚えたいが、どうなんだろう。

サイラスやルークに聞いてみようか。

そう思いルークを見ると、ルークも私をじっと見つめていた。


「どうしたの?ルーク。」

「帰ったら話を、と言っていたから。」


思わず笑いが込み上げて来る。

まだ一歩も動いていないのに、ルークは話を聞きたくてしょうがないみたいだ。


「ふふ、確かにそうだけどこのままここでより座ってゆっくり話したいな。それにこのドレスも脱ぎたい…。」


今日一日中これを着ていたが慣れなかった。

私は貴族でもお姫様でもないただの冒険者の端くれに過ぎない。

ぽーいと脱いでしまえれば楽なのだが、1人で脱ぐ事も出来るのか不安だ。

引っ掛けて壊したら絶叫してしまうだろう。


私がドレスに目線を落としているとルークから不満そうな声が聞こえる。


「ドレスはそのままがいい。」


てっきり了解をもらうつもり気でいたため、顔が引き攣ってしまう。

ルークは至って真面目ながらも不服そうな顔をしている。


「えー、でも結構立ったり座ったり繰り返してるから皺にもなるよ…。」

「魔法で直せばいい。気にしないでくれ。ロティ。」


抵抗虚しく、魔法は便利だと思うしかないようだ。

それに、ルークが両手を私に向けている。

このポーズは横抱きをする前に私にしていた仕草だ。

私は混乱しながら拒否を見せた。


「ん?え、さっきも歩いていたから歩くよ…。」

「嫌だ。」


ルークもまたきっぱりと拒否する。

この様子じゃここまた私が嫌がれば風魔法で浮かされるのは目に見えている。

私はすんなりと諦め、恥ずかしさを誤魔化す様に言う。


「…まあ、誰もいないから。」


ルークは私が拒否するとでも思っていたのか一瞬驚くも、直ぐに笑顔を見せた。 

わたしの背中と脚に手を掛けると重たそうな顔もせずに持ち上げる。

首に手を回すとルークが嬉しそうに顔を綻ばせるのが見えて、その表情が可愛くて見入ってしまう。


いつも寛ぐ部屋のソファに来ると、私を横抱きのままルークはソファに座ってしまった。


「降ろしてくれないの…?」

「今日一日俺はロティに触るのを我慢していたからこのままがいいのだが、嫌か?」 

「嫌じゃない…。」

「ならこのままで…、ロティ。」

「…ん。」


ルークの顔が近づいてきたと思ったら優しいキスをされた。


すぐに離れて終わったかと思えばまたすぐに口を塞がれてしまう。

それが何度も繰り返しされる。


心地が良いが中々離れてくれず、優しいキスの雨を降らしてくる。

火照るのを感じた時に漸く離してくれたルークは私をまだ欲している目をしていた。



少しだけルークの胸を押し距離を取る。上がった息を整え伝えなければならない事を伝えるために。


「…ルーク。

私が今から言う事で、ルークがもし私を嫌ならきちんと今後を考えようね…。」


ルークは眉を顰めた。


だが言っておかなければならないだろう。

ルークが私を嫌いになる可能性が0じゃない限り。


ルークが私から離れる事に傷つかないように。この前提は言葉にしないと私が耐えられない。



「俺がロティを嫌になる話なんてどんなものか…。

聞いてもいいのか…?ロティ。」


「……うん。

嫌われてしまいそうで、怖いけど…。



私ね…。前前前世は【魅了の魔女】だったの。」



私の言葉を聞いた途端、ルークは今までにない驚いた顔を私に向けた。




「その記憶も…前世では覚えていたんだろうか…?今は…前世の記憶もないのだから勿論わからないよな…。」


「というより前世もその前も、魅了の魔女のことについては覚えていないの…。

魅了の魔女だった時の記憶はスザンヌに消してもらったらしくて、私は何も覚えてない。


スザンヌから聞いた話では人を繋ぎ合わせたり、人の魅力を高めたり、良いところを探し当てたりする魔法を使えていたんだって。


だけど、次第にその魔力が抑える事が出来なくなっていったんだって。

魅了の魔力が止められなくて、そんな私の奪い合いになってしまって。

それで怪我人や死者まで出した事に当時の私は耐えられなくて、記憶をスザンヌに消してもらったんだって。


どうやって魔女をやめたのかはわからないけど。死んでしまった事は確からしい。」


ルークは真面目な顔をして聞いていた。

私は更に話を続ける。


「…まだ私、魔力は魔女だった時のものがあるみたいだし…。

もしかしたら魅了だって無意識にかけてるのかもしれない…。


ルークも、私に魅了されたから好きなんじゃないのかなって、不安で…。嫌われるかもって…。」

「はぁーーーーー。」

「うぅ?ルーク…?」


ルークの体が溜息と共に私を抱きしめた。

体をぎゅうぎゅうに密着させて隙間など無い。


ルークは私に埋めていた頭をかばっと上げて綻んだ顔で言う。


「そんな事だったのか…。」

「そんな事!?

結構重要な話じゃない!?んんっ!?」


また口を塞がれる。

不安な気持ちがどこかに消えていくようだ。

リップ音とお互いの息だけが聞こえるとまた恥ずかしさが込み上げてくる。


ルークに離された私はきっと顔は真っ赤だっただろう。ルークは優しく笑って言う。


「確かに魔女だったと言われたら色々意味がわかるかもしれないな、魔力の事も容姿のことも。

まぁ、まだ判らないことも多いけど、1つ言えるのはロティが魅了の魔女だろうが、普通の女の子だろうが、俺はロティを愛してることには変わらない。」

「無意識で魅了の魔力で魅了状態にあるかもしれないのに?」


言葉の合間合間にルークは私の耳や首筋、頬や頸など色々な場所へキスをしてくる。

くすぐったいし、なんとも恥ずかしい。

ルークは短いキスをすると妖艶な笑みを垣間見せた。


「それならそれでいい。魔女だろうが何だろうが俺はロティしか興味ない。ロティが俺だけ見てくれるならそれでいい。他の奴を魅了しなければ…。」


また顔に近づいて来るルークの頬を掴み止める。


「ル、ルーク…。キスしすぎ…。」


ルークの頬を掴んだ私の手をルークは器用にするりと剥がすと、ルークの右手一本で私の両手首が掴まれてしまう。

ルークの左手は頭の方に回り私を捕らえた。


「まだ、足りない。」

「なんっ。」


狙いを定めた捕食者は味わい足りない私をまだ食べにかかる。

脳みそまで蕩けてしまいそうなその甘さに体が震えてしまった。


まだ話の続きがしたいのに、ルークは離さない。

緩んだ隙に手をルークから奪還するが、頭の手は絶妙な力加減で私とルークの距離を調整してる。

深いキスは私の息を簡単に上がらせる。


本気で酸欠になるまえに、とルークをぐいっと押して酸素を肺に入れた。

息が上がる私を待ち遠しい顔でルークは待っているが、私は顔を顰めつつ息を整え再び話し始めた。


「はぁ…。ルークはやっぱり私の事おかしいと思っていたの…?」

「おかしいというよりは謎だったが正解だな。

なぜ容姿は前前世から同じままなのか、なぜ記憶を保持したまま転生できているのか。

人とは違う魔力の量も気にはなっていた。」

「だよね…。」


「最悪…神とか女神とかそのかと思っていたんだ。

突然消えていなくなってしまう存在なのではないかと不安だった事もあった。

サイラスとゼラに魔力の事がバレてしまって色々考えていたらロティを置き去りにしてしまうし…。」

「そう言うことだったんだね…って、ちょっと待ってストップ。なにをして…。」


ワンショルダードレスの肩の部分をルークにずらされたのが気になってしょうがない。

隠していた呪いの跡が見えた事こそがずらされた証拠といえよう。


ルークの手の上から私が掴み押さえているが、離したらまずいだろう。



ルークの眼は怖いくらい、真剣だ。

顔が少し紅潮し、軽く息を乱している姿は色気が充満して眩暈が起きそうになる。


私は腕の分ルークと距離を取ろうとした。

といってもルークの上に乗ったまま横抱きで座っている状態から距離をとってもそこまで離れる事は出来ないが、ルークに落ち着きを取り戻してもらわないと困る。

訴える様にルークに抗議した。


「ルーク…約束したよね?私が思い出して神様に誓ったらって…。」

「…。

誓った…が、ロティの前世の関係を超えるまでのことはしないとも言った。

要は越えなければ良いわけで…。」


「だっ!だけど今日は疲れたよっ!?ご飯も食べたいし、休みたいなっ!」

「これは休みに入らないのか?」


この時間が休んでいる時間に入ると思っているのだろうか、ルークは。

私は心臓がバクバクと鳴りっぱなしで休んでいる感覚は0だ。


「心臓が凄く働いてるから入らないっちょっと!これ以上もう駄目!一回終わり!着替えるー!」



危うくドレスのスカートに手を掛けられ慌てて止めたはいいものの、ルークは物足りないのが全面に出ていて抑えるのが大変だった。


ルークの上から逃げ出す様に飛び出すと私は一直線に衣装部屋に急いだ。

この格好じゃルークにされるがままだ。

とっとと着替えてしまおう。



廊下を歩く最中、私は少し泣きそうになってしまった。



(ルークは変わらず…愛してくれた。)



私の心配事は綺麗に杞憂に終わったみたいで目に溜まった水を拭い、心を撫で下ろした。

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