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59.こっち見て…。

【ーーーーーー!!】


耳を劈く様な笑いが響く。

自由の身となった山羊の悪魔は高笑いして身の軽さを喜んでいるようだ。嬉しさのあまりか先程落とした血色の鋏を魔法で自身の所へ引っ張り、浮かれて回して遊んでいるのが何よりの証拠。


人間側は大体の人がこの状況を危惧し、血の気が引いているだろう。悪魔を召喚した本人のゼラはその状況を青白い顔をして泣きそうになりながら黙って見ていた。


「……これは…まずくないっすか…。」


チェドがそう呟くと上機嫌な悪魔はルークからスッと離れゼラの所へ向かう。ふよふよと楽しそうにゼラの周りを戯けて回っている。その姿は猛獣が小動物の周りを弄ぶみたいにも見えてゾッとしてしまう。


「ど、どうしてなの…。服従していたでしょう…?前に呼んだ時だって…、従っていたのに…。」


息を上げ、ゼラが乞うように言うが山羊の悪魔は話そうとはしなかった。笑い声を聞いたが、きっと人の言葉は話せないのだろう。シャキシャキと大きな鋏を動かしながらゼラをチラ見して周りを飛ぶ。


悪魔の目はまるで怯えた獲物を今から捕まえる目に見えた。



「悪魔は狡猾で、よく人を騙すだろう。大方、まんまと服従したフリでもしていたんだろうが。


……はぁ、処罰対象だからな。」



ルークが溜息を吐くと、山羊の悪魔はぴたりと動きを止めてしまった。ルークからいつの間にか放たれていた魔法の光が悪魔の周りを囲み身動きを封じている様だ。


【ーー!?ーーーー!!?】


チカチカと悪魔の周りを光る魔法の光に山羊の悪魔は驚きながら厄介そうに顔を歪めている。そこにルークは悪魔に向けて魔法を放った。魔法の光の球は悪魔目掛け真っ直ぐ飛んでいく。まるで先程悪魔が放った黒い球の逆バージョンみたいだ。


悪魔は身動きが取れない事に焦った表情をしながら魔法で自分を黒く光らせている。展開した魔法が発動し、悪魔の頭の上に黒い剣のような魔法として現れると剣はその球を切り裂く様に振りかざし光の球を真っ二つにした。


けれどその割れた球の中は消える事なく、光の球の中から無数の羽の生えた小さな光る魚が出てきて山羊の悪魔に向かって突撃していく。


【ーーー!!!】


山羊の悪魔の体に光る魚が当たると当たった場所だけ体が光っていた。次々と魚が悪魔に突撃していくと徐々に体が光に包まれてしまう。


痛みがあるのか山羊の悪魔は焦りと苦痛の表情を浮かばせていたが表情以外は全く動く事が出来ないようだ。


ルークを見ると先程の山羊の悪魔と同じ様に手を胸の前に持ってきている。重い物でも潰すかの様に、空気を圧縮させるように手を動かしていく。


悪魔の仕草と同様に手の中には何も見えず、ただ空気だけを押しつぶしている様にしか見えないのに、今度はまるで違うようだ。


ルークが手を小さくするたびに山羊の悪魔が窮屈そうに体が縮み変形していく。その顔はどんどん恐怖の色が混ざり、ルークを懇願するような瞳で涙を溜めながら見つめていた。


しかしルークは手を止める事なく徐々にその手の隙間を小さく小さくしていく。それにつれ少しづつ拉げて行く体はもう原型はなく、涙が溢れた山羊の悪魔の目が零れ落ちそうになっていた。



「さっさと帰れ。悪魔などいらん。」


ルークがそう言った瞬間にルークは自身の手を重ねた。



パチンッ

  

音と共ににさっきまであと少しだけ残った悪魔は一欠片もなく消え去っていた。


ルークと口を開けたまま呆け息が上がったゼラだけが宙に浮んでいる。息を飲む客席の視線を集めたルークはゼラに手を向けると顔を顰めて言った。


「さあ、終わりにしよう。少し反省しろ。《悪夢》」


ルークの手から小さな黒い魔法が一直線にゼラに飛び込んでいくと、避ける事もないゼラに当たった。


直後、ゼラの体から力が抜けたように真下に一直線に落ちていったのだ。




◇◇◇



「………もうほんと申し訳ないっす。」



地面に頭を擦り付け土下座しながらチェドが言う。

そんなに頭をゴリゴリに地面に付けていたら痛いだろうにやめる気配はなく、時間が経つにつれどんどんのめり込んでいっている様な気もする。


ゼラは地面に落ちる前にチェドが魔法で受け止めたため地面と衝突せずには済んだが、横になったまま動かないゼラは汗だくで顔面蒼白になりながらずっと目を閉じて唸り続けている。



対人戦の結果は一目瞭然、ルークの勝ちで終わったのだ。


それはいい結果であったのだが対人戦の中身は問題があり、ゼラが悪魔を召喚した事は最悪だったらしい。


悪魔を召喚している所を今までは一度も見た事はなかった、とチェドは言いながら誠心誠意謝ってはいるが、ルークは一向に土下座のチェドと魘されているゼラを睨んだまま説教を垂れていた。


「どう始末を着けるか。とりあえずゼラは副団長からも降格で1からやり直しだ。自分が制御出来ない召喚獣を出すやつが副団長では務まらないだろう。


それに悪魔を出すとは何事なのか。

ドラゴンまでなら制御出来なくとも団員でどうにか出来るが、悪魔は処理できるのか?

召喚士の暗黙の了解で禁じられてはいなかったか?

ゼラも今後一切呼ぶ事を禁じるからな。」


苛立ちの治らないルークはまだぶつぶつと小言を話している。もしかしなくても私の事を忘れているのではないのだろうか。


こちらを一瞬でも見て欲しいのに背中を向けたままずっと地面にのめり込むチェドに静かに怒り続けている。音声拡張魔法があるためその声もまたこの空間に響き渡って団員達の顔色は青ざめているし。


怪我をしていないだろうかきちんと見たいのにどうしたものか、と私が溜息を吐くとアレックスは察したのか顔を覗き込んできた。


「ロティ、ルークのとこ行きたいよね?」

「う。…はい、行きたいですね…。でもあの様子じゃ…。」


まだ淡々と怒っているルークの声の様子からじゃルークが私の事を思い出すのは当分先の未来だろう。たまにゼラの唸り声と細々と返事をするチェドの声が聞こえる程度だ。まだまだ終わる気配がない。


アレックスは自身の頭を掻きながら、杖を握りしめていたサイラスに向け話し掛けた。


「終わらなさそうだから仕方ない。サイラス、この結界壊せる?」

「ルークさんの結界硬いですからねぇ…魔法攻撃とは相性が悪いですし、全力出さないと厳しいですよ…。」


「それは困るな。ロティだけでもあっちまで運んでもらわないといけないし。うむ…なら俺が壊すか。

ロティ少し下がってもらえる?エド、ロティを少し護ってて。団員さん達も少し離れていてね。」

「はい!」


アレックスの言葉にその場にいた人達は素直に従いアレックスから距離をとった。結界の前にはアレックスただ1人が腰に手を当てて結界を見つめている様だ。


私はエドガーの後ろに居させてもらう事になったが、エドガーがソワソワと落ち着かない様子が伝染してしまいこちらもなんだか狼狽気味になってしまった。


そんな私達の様子はアレックスには見えておらず、アレックスは鞘から剣を抜いて結界の前に構えている。県の刃が徐々に黄金に染まり眩い光が溢れるのが見えて美しいその光景に息を呑んでしまった。



「じゃあいくよ!っっっうりゃあああ!」



アレックスの気合いの声と共に結界に向け剣を振りかざした。ガギンッと鋭い音と共に剣が結界に当たるとそこから結界にヒビが入っていく。



ピキッ…ビシッ…パキンッッ!



ヒビが全体に行き渡ると剣が当たった所から結界が

大きく崩れ落ちていった。ボロボロと結界は崩れ、魔法でできた結界は地面に落ちる前にスッと消えいってしまう。それが結界の全てに広がると徐々に全体の結界がなくなっていく。


くるりと振り返ったアレックスは笑顔でこちらに歩きながら口を開いた。


「はははっやっぱ固いね。ガラスみたいに砕け落ちる結界かと思ったらそうじゃなくて良かった。」


笑って余裕そうに言い剣をしまうアレックス。

固いと言いながらも余りそう思えないのは勇者の実力なのだろう。エドガーの後ろにいた私にウインクをしながら闘技場を親指で指を差している為、私はすかさず手摺の前に戻ってルーク達を見た。

けれどルークは結界が消えても気付かず怒り続けているようだ。


「これでも気付かないだなんて…。」


少し落ち込み気味に呟くとサイラスがスッと私の隣に来て困った様に笑って手を差し伸べてきた。


「ふふ、ルークは怒ったら長いですから。早くロティさんが行ってあげた方がチェドさんの為ですね。私が送りますので、行きましょう?」

「え!いいんですかっ!?あ、ありがとうございます!」


早くルークの元へと行きたい私はサイラスの手をパッと取ると、瞬時にサイラスにぎゅっと握り返された。すぐに体が浮くのかと思いきや眉間に僅かに皺を寄せて私を見ているサイラスはぴたりと動かない。


「…?どうしました、サイラス。」

「…ロティさん、貴女…。


……いえ、今はルークさんの元に急ぎましょう。」



何か言いかけたサイラスが気にはなったがそれよりも早くルークの元へいきたい。


その思いからサイラスの魔法に身を任せてふわりと体を宙に浮かせて戦いを終えた闘技場へと急いで向かったのだった。

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