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57.強者vs強者。

次々と闘技場から団員達は魔法で観客席へと移動してきた。


アレックス達もサイラスの魔法で観客席に来るとぞろぞろと私の方に向かって来る。


「ロティ、さっきぶり!

俺と対人して貰うつもりがなんだか大変な事になったね。ルークがいなくて不安だと思うけど、俺達がいるから大丈夫だからね。一緒に観戦しようか。」

「お気遣いありがとうございます…、アレックス様…。」


魔導師団の人がいるからかまた口調が真面目で違和感を感じたが、ルークがいない不安な気持ちを汲み取ってくれたのはありがたいし、1人にならなくて済んだのも心強い。

アレックスは少し困った様に眉を下げ笑って言う。


「アレックスでいいよ。ルークもそう呼んでいるし、

それにロティの事はルークに何回も聞いているから正直初対面な感じはしないんだ。なあ?皆?」

「そうです!なので私の事はエドと呼んで下さい!」


ここぞとばかりにエドガーが身を乗り出して頬を赤くして言うとそれに続き女性陣も頷きを見せた。


「そうね!私の事もノニアでいいわよ!私もロティって呼ぶから!」

「私の事もサイラスと呼んでください。ロティさん。」

「自分もリニでいい。ロティ。」

「ありがとうございます、皆さん。ではそう呼ばせて頂きますね。」



ルークがこのパーティメンバーの中で過ごせたのは私にとって嬉しい事だ。きっとルークの事もよく考えてくれた人達なのだろう。

5人の心遣いに感極まってしまう。



そんな中、サイラスがぴくりと動くと闘技場の方を見た。


サイラスの動きに他のメンバーも私も同じように見るといつの間にか闘技場の中心付近にルークとゼラが立っている。

チェドは少し離れた所で自分とルークとゼラに何かの魔法を掛けているようだ。


「音声拡張魔法ですね。ルークさんの声が聞こえるようになりますよ。」


サイラスがアレックスの陰から私に伝えてくれると、間もなく観客席側にチェドの声が聞こえてきた。


「あ、あー。これで聞こえるっすね。

じゃあ約束とルール確認するっすよ、負けは文句なし、ゼラが負けたらルーク団長の言う事を聞く。ルーク団長が負けたら正式に団長になる事。


公式対人戦じゃないっすけど、魔導師団員内での対人なんで、いつものようにルーク団長には一発入れたら終了、ゼラは立てなくなったら終了でいいっすか?勿論殺しはなしっす。」


「俺はそれで構わない。」


チェドがルールと約束を丁寧に説明してくれたおかげで私でもどんな仕様かわかったのでありがたい。

だがゼラは眉を顰めてチェドとルークに言う。


「手加減なしで構いません。ルーク団長がいないこの5年間、私は私で修行を積んできましたので。」


ゼラの言葉に観客席が一気に騒つく。


この様子だといつもはルークは手加減ありなのだろう。

チェドは困ったような顔でゼラに苦言を呈した。


「ゼラ…それは辞めた方がいいっすよ…。俺も団長の本気なんて見たことないっすから…。」


チェドがこちらに視線を向けた。

私が見られているのかと思いきや見ていたのはアレックス達ののようだ。それに気づいたアレックスは柔かに手摺りにもたれ掛かりあちらに向けてひらひらと手を振っている。


チェドはきっとアレックスや他のパーティメンバーはルークの本気がどんなものか知っていると踏んでいるのだろう。だがアレックスもその他のメンバーもどこか意味ありげな笑みを浮かべたまま声を上げる事はなかった。


ゼラも一度はこちらに視線を向け勇者パーティを見たが、すぐにルークに視線を戻し再び繰り返す。


「手加減はなしでいいです。私も全力を出します。」

「そうか、わかった。」


強い決意に一歩も引かない様子からルークはあっさり折れた様でゼラを見つめて返事をした。ルークが了承するとチェドが諦めたように苦い顔をしながらも項垂れる。



「わかったっす、じゃあ、始めるっすよ。」


そう言って左手をあげるとその左手から魔法の弾が頭上に上がりパンッと音を立てて弾けた。



瞬時にゼラは黒い魔法陣を5つ、自分のすぐ後方に出した。その魔法陣が出来上がると同時に勢い良くびゅんと走ってが飛び出してきたのは、人間の2倍くらいある黒い狼だ。大きな口を開けて物凄いスピードでルークに突っ込んでいく。


「ルーク!!」


私は見ていられず、咄嗟に掴んでいた手すりに頭ごと伏せてしまった。

ルークが死なないとはいえ、目の前でズタズタにされるのを見て耐えられるわけではない。辺りの悲鳴や歓喜の声が聞こえてただただ怖くなる。




恐怖で固まっていると、ふと隣から優しい声が響いた。


「ロティ、大丈夫だよ。ルークはこれくらいじゃやられないよ。信じて、ルークを見て。」


アレックスが伏せた私に諭すようにそう伝えてくれたのだ。今まで一緒のパーティで冒険者をしてきたらアレックスがそう言うのだ、信じるしかない。


(そうだよっ…ルークはこれくらいじゃやられないでしょっ…!)


自分に言い聞かせ恐る恐る、私は顔を上げた。

ルークを見ると闘技場の地面には姿がなく立っていた場所から真上に飛んだようで1人で宙に浮かんでいた。


代わりに地面にいたのはルークから伸びている鎖にぐるぐる撒きにされた5匹の狼達だ。完全に動きを封じられて身動きが取れないみたい。


余裕そうな表情のルークにゼラは顔を僅かに歪めたのが見えた。だが次の瞬間にはルークに向けて手を翳し、ルークの頭上に新しい黒い魔法陣を作ってしまう。その黒い魔法陣が一瞬光るとルークに向けて黒い稲妻が次々と降り注ぐ。


動かないルークはその雷が降ろうとも避けようともしていない。当たっているように見えるが痛がる素振りも見せないルークに幾つもの雷が落ちている最中、ゼラは何かを呟くと一際大きな魔法陣を作り上げた。



その魔法陣からぬっと大きな手と鋭い爪が出てくる。


「おいで。殺さないように、あの人を跪かせて。」


ゼラがそう言うと勢いよく魔法陣からその大きな体が魔法陣と風を切るように素早く出てきた。



「うわ、あの子ドラゴンまで出せるんだ?竜騎士でも無いのにドラゴン従えるなんて凄いな、召喚師は。」

「ゼラさんは優秀ですからね…。魔導師と召喚師をどちらもこなせる程の高い魔力を持ってますし…。何より負けず嫌いですから。」


アレックスとサイラスの会話は耳には入っていたが、私はゼラが出した召喚獣に目を奪われていた。


ルークの4〜5倍はあるであろうその巨大な体躯に黒い硬そうな鎧のような鱗、鋭いナイフの様な爪に、歯は尖り、長い尻尾の先には紫色の棘が付いている。

あんな凶暴そうなのと戦わなければならないのかと肝が冷えてしまう。



「あの子相当強いわね!色も黒だもの。あの尻尾には触れない方がいいわね、猛毒だわ。私も今度ドラゴンテイムしようかしら。ああでも他の子が怒るかしら…。」

「確かに強そうですね。特にあの歯と爪は厄介でしょうね。どうガードすればいいやら…。尻尾にも気をつけてとなると、うーん。」

「鱗も硬そうだから。自分ならとりあえず乗って攻撃する。背中に乗ればとりあえずは一瞬攻撃するチャンスあるだろうし。」


ノニアが興味を持って話し出したが独り言の様だ。

輝いた目をして、まだぶつぶつと独り言を話している中、エドガーは防御目線、リニは攻撃目線からの会話が聞こえてしまいやはり冒険者なのだと実感が湧く。



見方は違えど興味津々に黒いドラゴンを見つめているようだ。


「ガァアアアッッ!!!」



黒いドラゴンは雄叫びをあげながら赤い目を光らせると、大きな体を俊敏に動かしルークの元に突進して行った。ルークにもう少しで打つかろうという距離でドラゴンは鋭い爪を携えた右腕をルーク目掛けて振り下ろす。


未だに雷に当たり続けているルークの姿は雷に遮られ見えなかったのに、黒いドラゴンの攻撃と同時に雷が止んでしまったためドラゴンにとっては絶好のチャンスとなってしまった。


雷に打たれ続けたルークの体から煙が出ていて場所が丸わかりであったためか、攻撃のチャンスを黒いドラゴンは逃しはしなかった。



ーゴギンッ



「ガッッッ!?」


雷に打たれていたはずのルークなのに表情を一切変えることなく薄れた煙の中から顰めっ面のまま現れた。

怪我も見えなければ服も焦げていなそうだ。


しかも黒いドラゴンにまで攻撃したようでドラゴンの右腕は曲がらない方向に曲がってしまっている。


痛さからか黒いドラゴンは顔を思い切り歪め、長い尻尾で素早くルークに攻撃を仕掛けた。


ッドオォン!!



ルークの攻撃は何をしたのか早すぎて目で追えなかった。

言えるのは黒いドラゴンの尻尾を切り裂き、その尻尾は遥か下の地面に落ちて行ったのだ。


「ガァア…アアアア…アア……!!」


痛みに耐えきれない黒いドラゴンが体を縮こませて痛みを堪えている。しかし、血がボタボタと滴り落ちるのは止められないようだ。あっという間に落ちた尻尾の周りは血に染まっていく。


「やられっぱなしね。仕方ない…。」


ゼラが呆れた様に呟きながら自身の体を魔法で光らせている。どうやらドラゴンに魔力を与えたみたいで、徐々に苦痛表情が消えていく。


ドラゴンは縮こませた体を伸ばしルークを睨むと、瞬時に口を精一杯開けてルークに向かって竜の吐息(ドラゴンブレス)を吐き出した。炎混じりの息がルークを包むとあっという間にルークは炎に閉じ込められてしまった。

吐息(ブレス)の炎は数十秒に渡りルークを焼き続け、炎の塊が宙に浮かぶまでになっている。


暫く吐息(ブレス)と炎を吐いた黒いドラゴンは鼻息を荒くしていて呼吸が苦しそうだ。だがゼラはドラゴンを見ようとはせず炎の塊に向けて落ち着いた口調で悔しそうに話す。



「…これでも傷の一つもつきませんか。」

「まあな。」


ぶわっとルークの周りに風が吹くと先程と何一つ変わらないルークがそこに浮いて如何にもつまらなそうな顔をしている。

そんなルークとは裏腹にゼラは嬉しそうに笑っていた。



「貴方は還っておいで。もう休んで頂戴。

仕方がないですね……私の誰にも見せたことのないとっておきを出しましょう。」

3.5.17 大幅加筆、修正しました。


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