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100.おはよう。

重たい瞼を、ゆっくりと開けた。


一瞬、ここがどこなのか分からなかったのはいつも起きた時と見えるものが違ったからだ。

重たすぎる瞼にもう一度寝てしまおうかと考えが纏まらない頭で微睡を味わっていると横から驚いたような声が聞こえた。


「ロティ…?」


声がした方を見るとルークが呆けた顔で私を見ていた。


ルークの顔を見たら重たい瞼が瞬時に軽くなった気がして、ぱちくりと目を開けた。


まだ呆けたルークは私の手を握っていてくれて、私は嬉しくなり顔を綻ばせながらルークに言う。


「ルーク、おはよう。待たせてごめんね。」

「いや…え?」


「ルーク…?」

「いや、まさかこんなに…。」


驚いた様子のルークはワタシの手を握ったままその続きを話さない。

まさか、凄く時間が経ってしまったのだろうか。


「ルーク、大丈夫?もしかして私寝過ぎた…?待たせすぎた?」


ルークの頬を触ると僅かに顔の力が抜けたルークが頬に触れる私の手を上から触った。

ふと笑みが溢れると安心したような声でルークは言った。


「違うよ、ロティ。逆だ。早すぎてびっくりしたんだ。寝てからまだ1日半しか経ってない。こんなに早く目を覚ますとは思ってなかった。」

「え!?1日半!?」


あまりの早さに大きな声で復唱してしまった。約20年分の記憶がそんな時間で見れてしまったのはやはりスザンヌのおかげなのだろう。


私の声があまりにも大きかったからか、扉の向こうでバタバタと音がした。

勢いよく扉が開かれるとスザンヌが口をぱんぱんに膨らませて目を見開き立っていた。


「んんぃ!んんんんんん、んぐっ!」

「スザンヌ!物食べながら喋ると詰まっちゃうよ!」


「んっんんっん!」


私が慌てて言うと何かを言ったスザンヌは口をもぐもぐと動かしてごくりとそれを飲み込んだ。


「ロティ!あんた早すぎて驚いたよ!

こんなに早くなるとは思ってなかった!

本当に思い出したんかい!?」


疑うような口調でスザンヌは口の周りについている赤いソースも拭かずに私に聞いてきた。

ルークも若干不安そうな顔つきだ。


ルークの頬に当てている手をそっと離し、ルークを見つめながら穏やかに私は伝える。



「うん。前世は全部思い出したよ。」

「ロ」

「カーー!早いね!そりゃよかった!」


ルークの言葉を打ち消したスザンヌは満面の笑みで嬉しそうだ。

ルークは戸惑ったような表情を浮かべてはいるが口を噤いでしまった。


ご機嫌のスザンヌに私は真剣に話した。


「スザンヌ…申し訳ないんだけど、ルークと2人で話してもいい?」

「ん?ああいいよ。昼飯の一口目でロティの声が聞こえたもんだからね。

ワタシは慌てて口に入れたものの残りを食べてくるよ。

ゆっくり話な〜。」


手をひらひらさせながら私に振るとスザンヌは扉をパタリと閉めた。


部屋の中が静寂になる。

私は扉からルークに視線を移すと、ルークは眉を下げ気不味そうな顔をしていた。


「ルーク、どうしてそんな顔してるの?

起きるの早すぎた?」

「早すぎなんてことはない。早く起きてくれて嬉しい。…だが、前世を思い出したんだろう…?

思い出して欲しかったのだが…ロティにとっては辛い記憶じゃなかったか…。

あの時の俺は決していい態度とは言えない態度しかロティに向けていなかった。」


「あー…。」


確かにそこだけを考えるなら私はきっと傷付いていたかもしれない。

だけど、その後も今こうしていることも知っているからこそ余裕がある。


私は布団の中にあった足を出し、ルークに向き直る為にベッドに座るような体勢を取った。

ルークはまだ不安そうに私を見ている。


「ルーク、私…思い出してよかった。

ルークに呪いを掛けてしまった事は本当にごめんね…。

私…本当に馬鹿だね。


ルークがいい態度じゃなかったって言うのは私が悪かったんだから仕方ないよ。

ごめんね…、ルーク。」


私が謝るとルークは傷付いたような顔をして、握られている左手に力が篭った。

顔を歪ませ、悲しい様な怒った様な顔をしてルークは話し出す。


「何を謝っているんだ…!?最初から呪いに関しては俺は迷惑だと思っていないんだ…!


それに…これがなかったらまたロティに会えなかったんだ…!

前世を思い出して、これからロティと暮らす事ができると思った矢先にあの女にロティが殺されて…。

この呪いがなかったら俺はロティがいない人生を1人で…ロティの事を待ちながら死に恐怖しながら生きて…ロティに会えなかったことを絶望して死を迎えていただろう。

そんなの…悲しくて寂しいだけだ。

呪いを掛けたのは間違いみたいに言わないでくれ…。」


私の手を取るルークの手は僅かに震えていた。私が生まれ変わりをしている間色んな想像が出来ただろう。


私が死ぬ間際に待っていてと言った言葉を信じてルークは待ち続けた。

約束とは言っても人同士の口約束で契約でもなんでもない。

確約するものもない、ただの願いだ。


待つ間は不安や寂しさや恐怖があったと思う。

ルークには辛い思いをさせてしまった。

だけどルークはその事を責めたりはしない。 



私は一息吐くとルークに出来るだけ優しく伝える。


「じゃあさ…私はもう呪いを掛けた事を後悔しない。だけど、その前に償いはしたい。


とりあえず約束は守りに行かなきゃ…。

叱咤してくれるのはエイミだけだろうし。」

「誰だ…?エイミとは…。」


「内緒の友達、かな。きっと見たら吃驚するよ。果物たくさん用意しなきゃ。


でもその前に…。ルーク。」

「…うん?」


「抱きしめて欲しいな…。駄目?」

「…そんなの…いくらでもする…。おいで。」


優しく微笑んで両手を広げるルーク。

私がベッドから立つと、腰を引かれてルークの太腿に座るよう導かれた。


そこに座ると少しだけ私の方が高くなる。

だけど、ルークは私を包み込む様に抱きしめてくれた。ルークの首元に頭を当て、その安心できる腕の中で安らぎを感じた。


「ロティ…。」

「うんっん。」


名前を呼ばれたから顔を上げたのに、いきなり口を塞がれて少し驚いた。


前世を全て思い出したからかルークを想う気持ちが溢れてしょうがない。

軽いキスから深いキスに変わって、いつもなら跳ね上がる心臓も心地の良い心音と緊張で私の中で響く。


されるがままのキスではなく、応えれる様になったのは何故か自分が嬉しくなった。


ルークの頬に手を添えて、ルークの舌に合わせようと思ったら唇が離れてしまった。

いつもよりも断然短いキスに私は不思議を感じ、首を傾げてルークを見た。


顔を真っ赤にして困った様に眉を下げたルークとばっちり目が合うと頭を首元に押し付けられぎゅうぎゅうに抱きしめられてしまった。


「え、終わり?ルーク。」


欲を言えばもう少ししたかった。

出来ない気持ちがもやっと私の中で募り、軽く体を動かして脱走を図ろうとしたが全く動けない。


ルークは抱きしめたまま私に言った。


「ロティが前世を思い出すたびに可愛さが増してもたない…。少しこのままにして…。」

「んんー…。」


唸り声を出すと更に腕に力が篭る。

私の頭に顎をぐりぐりと押し付け、ルークも不機嫌そうな声が漏れた。


「このまま襲ってもいいならな…。いくらでもするのに…。

タイミングも場所もどちらも悪い…。


煽らないでくれ…。」

「煽ってないよ…。」


前世を思い出した私はルークを想う気持ちがさらに強くなったみたいだ。


それにルークが付いていけなくて困ってるようだ。


両思いなのに2人ともどこか片想いみたい。

私は抱きしめられたりキスをするだけでも満たされるが、ルークは違うみたいだ。


ルークと私のお互いを想う気持ちは一緒だが、互いにしたい事は別の様だ。


(私は擦り寄りたい。

でもそうしたらルークが止まらない可能性があって、ルークが自制してる。そのループになりそう。


早く前前世を思い出したい…。)


じゃないと私も耐えられない。


まだ顔が赤いルークに私は密かに頭を擦り寄せて今は我慢した。



ルークの上から降りて、私達はスザンヌがいる部屋へと向かった。


スザンヌは食事を終えたのか先程とは違う服装をしてウロウロと部屋を歩いていた。

もやもやとした顔をした私達を見ると呆れた様な溜息と共にスザンヌが口を開く。


「はぁ…なんだい、あんた達のその顔は…。欲求不満なら自分家でやんな。」

「な!スザンヌ!」


私は気恥ずかしくなりスザンヌを咎める様な口調で名前を呼んだが、スザンヌは呆れた様子のまま自分の結っていた長い髪をはらりと解いた。

髪留めをテーブルに置きながら肩をすくめて話す。


「本当の事だろう?何をそんなに躊躇するんだい。」

「前前世を思い出したら…全てを思い出して誓いをたてたいの…。それまでは…。」


「拘るねぇ…。まあ、自分達で決めるがいいさ。

でも前前世は今すぐには思い出せないよ。

せめて2.3日開かないと記憶が混濁するからね。

それに…私は今から用事があるのさ。」


にやりと笑うスザンヌは少し頬を赤らめて言う。

服装もいつもとは違いよそ行きの格好だ。

普段の黒い服も似合うけど今着ているワンピースもスザンヌに似合ってる。

太腿までスリットが入っているのは少し珍しくてまじまじと見ながらスザンヌに問いかけた。


「だからいつもとは違う格好なんだね?

可愛いけど、どこに行くの?」

「デートさ!この間言ってた人がいるだろう?その人と!」


「えーー!もうそんなっ!?恋人に!?」

「恋人になる前でもデートはするだろう?まだなってないよ。その為のデートとも言えるね。」


化粧道具を持ちながら顔を綻ばせるスザンヌ。

この顔じゃあスザンヌは相手に惚れているに違いだろうが、まだ告白とかの段階ではないのだろうか。

私まで顔がにやけてしまいながら話を続けた。


「それは…楽しみだね!」

「そうさ。だから悪いけど家を開けるが、ロティ達はどうする?ここにいても構わないけど。」

「いや、一度家に戻る。また時間を空けてこようかロティ。」


ルークの言ったことに頷きを見せながら、私はスザンヌにおずおずとお願いするように話す。


「そうだね、その時には結果も聞かせてね…?」

「ああ、ちゃんと教えるから安心しな?」

「スザンヌ、世話になった。ありがとう。…健闘を祈る。」


独特な励ましだが、真面目な顔でルークはスザンヌに伝えた。

私もその後に続いてガッツポーズを取りながらスザンヌを応援する。


「ありがとう、スザンヌ。頑張ってね!」

「いいってことよ。またおいで。私も頑張ってくるからね!」



とびきり可愛く笑うスザンヌに私は、どうかデータがうまくいきますようにと神様に心の中で願いを込めた。

100話目までご覧頂きありがとうございます!

少しでも面白かったよ〜と思えましたら

☆☆☆☆☆頂けると励みになります。

引き続き宜しくお願い致します!

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