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98.見て見ぬ振りが出来なかっただけ。◆

◆◆◆

先程寝ていたベッドに座る様促され大人しく座った。目から溢れる涙を押さえていると、

ルークは向かい側のベッドに腰を下ろした。


涙ぐみながらルークを見た。

前世とはまるで違うその姿。


銀色の髪に青い瞳、凛々しい顔つきでかなり整っている容姿だ。

前世の″———”がこの姿を見たらきっと喜ぶのにと思ってしまった。


ルークを見ていると真面目な顔で私に話し掛けてきた。


「ロティさんが俺に言った言葉の意味を教えて貰えますか?会いたかった、約束してた、探していたと言ってましたよね?

それを聞きたいです。

呪いの…解術の事はその後に考えます。」

「…わかった…だけど、

私が今から言う事はただ聞いてもとても普通じゃ信じられないと思う…。

けど…本当の事だから…疑わずに聞いて欲しい…。」


そう言って私は前世に私達2人は恋人であった事。

共に生きたかったが生きれずに一緒に死を選んだ事。

その時に来世では共に生きようと約束した事。

それで私は歩ける様になってから今日までずっとルークを探していた事を話した。


黙ってルークは私の話を真剣に聞いてくれた。

話し終えた後、ルークは顎に手を当てて何かを考えている様だ。

暫くの沈黙の後、ルークはゆっくりと口を開いた。


「記憶…は正直全く覚えていません。

なので、思い出す、というのも難しいと思います。」


また心臓が痛い。

ナイフをザクザクと何回も刺された様な痛みに指先も冷える。

何も言わないままでいるとルークは話を続けた。


「だけど、ロティさんが呪いまで掛けて涙を流しながら言っている事も嘘臭くなくて、興味があるのも事実です。


魔力が溜まるのにはまだ時間がかかるのですよね?自分の魔力の量はわかりますか?」

「ごめんなさい。わからない…。」


「そうですか。

普通の魔導士ならかかっても3.4日程で魔力が戻るのが多いのですが、先程の呪いの魔法陣を見たら3.4日じゃ溜まりそうになさそうな感じがします。


なので魔力を溜めながら【記憶の魔女】の所に行きませんか?」

「【記憶の魔女】?」


「このメルニア王国のラロランという町の近くに【記憶の魔女】住んでいるという噂があるんです。対価を払えば記憶を思い出させてくれるらしいんです。



正直、この呪いは冒険者にとって手放したくないほど魅力的なものです。


なので、魔力を貯めるついでに魔女のところまで行って記憶を戻してもらって、前世の記憶が戻ってから呪いをいつ解くか考えても良いですか?」


「【記憶の魔女】の所はどれくらいで着くの…?」


「【記憶の魔女】の所までは正直わからないのですが、王都からラロランの町までは4日ほど着きます。ラロランに行ったら魔女の情報があると思うので町で聞いてから散策する事になると思います。長くて10日前後と言った所でしょうか。もっとかかるかも知れませんが。」


「どのみち魔力を貯めるのに待たせることにはなるから、それはいいんだけど…。

″———”はそれでいいの?」


前世の名前を呼んだ瞬間、ルークは顔を若干歪ませた。

眉間に皺を寄せたまま私に怒った口調で話した。


「俺の名前はルークです。″———”ではありませんので、出来ればルークと呼んでください。」

「……ごめんなさい…わかった。なら私も名前にさんはいらない…。」


しょぼくれたまま返事をするとルークは溜息を吐いた。

眉間の皺が取れたが、少しばかり呆れた表情だ。



「わかりました、ロティ。

俺としては此処までしてしまう程前世に囚われるロティと、そこまで縛り上げた前世の自分が知りたくなったので、行きたいと思ったんです。


一緒に行くということで決まりならパーティを少しの間抜ける事を伝えますから、またゼゴの所に行きましょう。

手を貸しますか?」


棘のある言葉と共にルークは手を差し出した。私は首を横に振りながら丁寧に断った。


「ううん…大丈夫。気を遣ってくれてありがとう。」

「いえ、どういたしまして。」


ルークはそのままベッドから立ちあがり扉の方へ向かった。


蔑まれたような態度に私の心はギスギスと痛みを抱えながら私もベッドから重い腰を上げて扉へと向かった。



◇◆◇



部屋に戻ると先程はなかったカップがテーブルの上に置かれ、ゼゴは自分の分を飲んでいた。


「お待たせ、ゼゴ。」

「いいや、大丈夫だ。もういいのかな?」


先程と同じく私の前にルークその右横にゼゴが座る形で椅子に座った。

ルークはカップに入ったお茶を一口飲むと、私を見つめながら話す。


「ロティ、記憶の事はパーティメンバーには言ってもいいですか?信じる、信じないは別として。」


大事な″———”との思い出なのだ、本当なら口外して欲しくはない。


だが話しが進まないだろうからこの前提は必須だろう。渋りを見せない様に少し顔を強張らせて私は頷き応えた。


「…うん、いいよ。」


答えた後、ルークはゼゴに話した。

私が前世の記憶を持ち、前世でルークと共に生きると約束をし、この世に産まれてからルークを探していた事。


だがその前世の記憶はルークにはない事。

魔力が溜まるのを待つついでに記憶を取り戻すために【記憶の魔女】の元へ行こうと思っているため、一時的にパーティを抜ける事。


ゼゴは笑いもせず、真剣に黙ってそれを聞いた。


「あと呪いは記憶が戻り次第、俺がいつ解術するか決めようと思ってる。」


最後にルークがそう言うとゼゴは私を見た。

馬鹿げた話だと嘲笑うのだろうかと思ったらゼゴは私の頭に手を伸ばし大きくゴツゴツした手で撫でた。


「君は…辛かったね。想像は容易ではないが、1人で…ずっと探していたんだろう。

私は…少なくともロティさんの事を信じている。

話は逸れるが…貴女は解術も使えると言っていたね。

もしかすると数年前に東の方のレゾンの町にも行ったかな…?」

「えっと…どこに行ったか地図を見ないと…。私の荷物って…。」


「ここにあるよ、どうぞ。」

「ありがとうございます。えっと…。」


ゼゴから鞄を受け取り、私はその中から地図を取り出してテーブルに広げた。

×印を書いた町や村に名前がないものもあるためゼゴにどこか教えて貰おうとゼゴを見た。


ゼゴとルークは血の気が引いたような、驚いた表情をしていた。


「ゼゴさん、レゾンの町ってどこですか?」

「……あ…ああ…ここだ…。×がある。

ロティさん…まさかここの×印は全て行った所か…?」


「はい、そうです。一つ一つ尋ねてそこにいる人全て見てきました。」

「俺…を探すために…?」


その為に引いたような顔をしていたのだと気付いた。

知らない人から何年も知らない内に探され、しまいには見つけられてしまって。

こんな使い古したボロボロの地図まで見せられたら気味が悪い事だろう。


私は気不味くなりながらも謝った。


「……記憶がないのに…気持ち悪いよね。

ごめんなさい。この地図もボロボロで見えにくくて変えようか何度も迷ったんだけど、これが使いやすくてずっと使っていたの…。

しまうから手を退けて?」

「あ、ああ…。」


ルークが手で押さえていた地図の端から退いてくれた。

クルクルっと地図を巻き、鞄にしまうと気の抜けたような声でゼゴは話した。


「想像以上だった…。

もしかしなくともロティさんは回復魔法を使えるね?」

「はい、そうですけど…なんで…。」


「貴女の事を密かに聖女と呼んでいるのは噂で聞いた事はないかな…?


貴女はレゾンの町で人には口外しないようにと言って呪いを解いただろう?

その者は私の姉だ。聖職者の姉に振られた男からの嫌がらせから始まった体を蝕む呪いであったが、理由も聞かずに呪いだけを取り除いてさっさと居なくなってしまったと聞いていたんだ。

それにその町でも回復魔法を使って傷や病気まで治してくれたのだろう?


本当にありがとう。心からの感謝を。」


ゼゴが深々と頭を下げた。

感謝ならその時に貰っているのであまり気にしなくても良いと思うのだが、そうもいかないのだろう。



「口外しないでと言っても家族にはバレますよね…。


でも呪いならほかでも解いたからはっきりとは覚えてないんです。ごめんなさい。

それに私…聖女じゃないですから、人違いかもしれませんよ。」

「人違いなわけがあるものか…。解術者は高額取りだ。

無償や少額でなんて解術をしない。


それに貴女はあれだけ沢山の町や村を行き、更には1人1人会ったのだろう…?それで回復や解術をしたら噂になるさ。」


「実際には…ここ数年は人の顔が判る範囲で見れば、違うかどうかわかりましたから、1人1人会ったとは違います…。」


どうにかして私じゃないとゼゴに示したくて足掻いた。私にとって回復や解術は″———”探しのついでてしかない。

善意での行動ではあるが、その為に各地を巡って歩いているわけではなかったのだから。

だがゼゴは引かずに私を見つめて続けて話す。



「なのに噂は絶えなかった。

放っておけなかったのかな。病気や怪我人を。」


図星を突かれた。

もうゼゴにとっては私がやってきたことだと完全にバレているみたいだ。

私は溜息をついてゼゴから視線を外して答えた。



「人は…いつか絶対亡くなるから…。

私が出来る事の範囲なら手を貸していただけです…。

それに生きる為に食料やお金を頂く事もありましたし、探すついでに助けただけ…。

褒められたものじゃないんです…。」

「無償で助ける事や、多くは望まない対価に褒められたものじゃないとは…、貴女は徳が高すぎる。

怖いくらいだ。

なのに何故ルークにあんな呪いを掛けたのだろうか?」


ゼゴの質問に息が詰まった。あまりにも我儘な理由を言いづらい。苦い顔をして私は尋ね返す。



「…言わなきゃ駄目ですか?」

「俺が知りたいと言ったら?教えてくれますか?」


すかさずルークが私に言った。

真剣な目で私を見つめ、理由がどうしても知りたいと言った感じだ。


ルーク本人に問われては答えない訳にはいかないだろう。私は手をぎゅっと握りしめておずおずと答えた。



「…沢山探して、やっと会えたのに。

前世の事も覚えてなくて、あまつさえ綺麗な人と腕組んで、その上キスまで…見せられて…。


醜くて、ごめんなさい…。

私の嫉妬が大いなる原因なの…。記憶がなくても嫉妬さえしなければ呪いを掛けずに済んだのに…。」


(記憶がないのは悲しかった。

死を許せないほど。あの時の私は死を恨んでしまったんだ。

だけど、その恨む原因になったのはルークの隣にいたあの女性に嫉妬したからだ。

″———”を他の人に盗られて焦って感情がぐちゃぐちゃになってしまった、それがいけなかった…。)




本当に馬鹿な事をした。

落ち込む私を2人は目を大きくして驚いた様な顔で私を見てる。


罪悪感から消えてしまいそうだ。

なのにルークはふと顔を緩めて笑った。


「呪いは気にしなくていいです。

俺にとっては最強の武器になりますから。

呪いを掛けられた原因も…まあ…知れて良かったです。」

「ふむ、まあ使い方次第の呪いで良かった、と言うべきか。


それにしてもルークは愛されていたんだね。

こんなに綺麗な人に無償の愛を貰うのは羨ましい限りだ。嫉妬は良いが呪いは駄目だけどね。」


ゼゴも柔らかな表情で私を見ながら言う。

呪いを掛けた事にどちらともから怒られるわけでもなく、寧ろルークは喜んでしまっているのが心苦しい。

また涙を感じたがぐっと堪えて返事をした。


「本当…そうですよね。ごめんなさい…。」


ルークに頭を下げると一瞬しんと静まる部屋。

耳鳴りでも起きそうなくらい静かな部屋に

ゼゴの咳払いが響き空気を変えた。



「ごほん、話しを逸らして悪かったね。

話を戻そう。


ルーク、ロティさんと急ぎで王都をでるといい。

パーティメンバーには言っておくよ。

グニーに見つかると面倒だろう?」

「ああ…ありがとうゼゴ。」 


頭を上げるとゼゴは軽く笑ってルークに言っていた。


パーティを即一時的に抜ける許可が貰えるとは思わなかった。

ただ、ひとつ気になってつい横槍を入れてしまう。


「…恋人なのに黙っていて大丈夫なの?」



私が不機嫌そうに言うとゼゴが笑うのをやめ呆れた顔で首を横に振った。


「グニーの虚言だよ。勝手にグニーがルークの方が好きで付き合っていると思っているだけだ。

まあ拒まないルークも悪いところはある。」

「俺の顔が良いとか言って揉め事になるより、グニーが1人いた方が静かだったんだ。

俺からは何もしていない。」


ルークもまた不機嫌そうな顔でゼゴに唇を突き出して言う。

ゼゴが肩をすくめやれやれといった顔をするとさらにルークは顔を顰めさせた。


ごほん、とゼゴが咳払いをするとまた穏やかな表情に戻りルークに向けて口を開いた。


「ルーク、パーティは動かずに王都にいる。本来予定していた依頼は取りやめにするよ。」

「……それはごめん、ゼゴ。

結構良い報酬だったのに。」


そう返したルークの顔は落ち込んだ様な表情だった。


その様子を見て私は鞄の中から袋を出してその中身を摘み、テーブルに置いた。

エイミに貰った宝石の一部だ。

好きに使っていいと言っていた事だし、使わせてもらおう。


目を丸くさせたゼゴに私は中身を指差しして言う。


「あの…これ…依頼を受けれなかった分の少し足しにして頂けますか?

私には必要ないので…。」

「た、足しも何も…今回の報酬額の何倍の物だと思っているんだ…!?し、しまいなさい!」


テーブルの上にある数個の宝石はそんなに価値があるのだろうか。

エイミも私も価値がわからない。

報酬額の何倍かになるのなら尚のこといい。


「いえ、まだありますし…私は持っていても使わないので。

お金は別にありますし、これは貰い物で私は使わないから誰かにあげるようとして持っていたような物ですし、換金でもして使って下さい。」

「……目玉が飛び出しそうだよ。

貴女は規格外な事が多いね…。」



目をパチクリとさせたゼゴはふと笑って私の頭をまた撫でた。

父さんからも撫でられた記憶がないのに何故か酷く懐かしくなってしまった。

◆◆◆

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