WWW 〜この物語の作者は俺です〜
あらすじ
少し不思議なことが起こる町、実丸町。そこに住む主人公の町田 力也は、ヒロインである杵島 彩子とともに、とある事件に巻き込まれてしまう。この町にはある秘密があったのだ……。
登場人物
町田 力也
実丸町のごく普通の高校二年生。平凡な彼は、いつも通りの日常を過ごしていた。冴えない父、穏やかで若く美人な母、年々ますます生意気になる妹、部屋に引きこもるパソコン中毒の弟。そんなある日クラスメートの杵島 彩子に、告白されてしまう。
杵島 彩子
町田 力也のクラスメイトであり、実は彼と家が近い。整った容姿以外は平凡な彼女だったが、実はある秘密があった……。
1-1
ピピピピピ、という目覚ましの音がまぶたの裏から聞こえる。薄っすらと目を開けると、カーテンの隙間から眩しい朝日がこぼれ落ちていた。
階段を下り、母の作ってくれた朝食に手を付け、俺はいつもの通り言葉をかける。
「おいしいよ。毎朝ありがとう」
母は優しく微笑んで頷いた。
歯を磨き、口をゆすいで顔を洗い、寝癖で散らかった髪を整える。
今日の授業に使う教科書を鞄に詰め、高校指定の制服を身にまとい、玄関扉のドアノブに手をかけた。
「いってきます」
手を振るエプロン姿の母を後に、俺は家を出た。
青空の下、アスファルト舗装の道路を歩く。五月の心地よい風が頬をなでる。どこかから鳥のさえずりが聞こえた。
平和だ。平和という一言に尽きる。
いつもと変わらない日常だ。
私はそんな彼に声をかける。
「はじめまして。正直言っちゃうけどその書き出し、使い古された陳腐な描写じゃない?」
私は彼を注意深く観察した。特に怪しい点はない。
「……誰だ君は」
「何その反応……ああ、そういうこと? ワールドの構成は手慣れてるのに、オープンにしてたりセキュリティもガバガバだと思ってたけど。……いいわ、ノってあげる」
「あぁ……何を言っているのかわからん。質問に答えろ」
「主人公として物語を楽しんでたみたいだけど、世界の主人公は……『作者』は、あなただけじゃない。簡単な話よ。私も『作者』なの。別の世界のね」
俺は目の前の女を注意深く観察する。彼女は黒と赤のドレスを着ており、大きな鎌を持っている。他にも武器をいくつも持っていそうだ。
「実はさっきからあなたの地の文を読ませてもらってたけど、ずいぶんと平和な日常を送っているようじゃない。あなたの欲望かしら?」
「…………」
「そうやって自分の世界にこもってるから、他の世界に別の作者がいるって事に気づかないのよ。残念ながらこの物語はここでおしまい。さあ、『小説バトル』を始めましょう」
私は彼の首に鎌を振った。
俺は間一髪でそれを避ける。
額を少し切るだけだった。
俺は額の血を拭う。
鎌には毒が塗ってある。
「うそやん」
「残念。ちゃんとそういう設定よ」
毒は遅効性である。
毒が彼の全身に回る。
「三人称視点での差し込み? 中々テクいわね」
俺は大きく距離をとった。
「冗談じゃねぇ……俺を殺すつもりか?」
「この世界の作者であるあなたを殺せば、この世界は私のものになる。どうする? 私はまだまだ色々設定持ってるけど、あなたは『あらすじ』と『登場人物』を見る限り普通の高校生。この状況を打開できるのかしら」
私は鎌を構えて彼にゆっくり近づいた。
「……普通の高校生なめんなよ」
俺はどこかにテレポートした。
1-2
「テレポート……?」
私は周囲を注意深く観察した。特に怪しい点はない。
「『特に怪しい点はない』? ……となると、仕掛けはあらすじか登場人物にあったのかしら?」
1-3
「保険のつもりだったんだが……スマホで見ると縦読みになってるんだよ」
(あの女……文章の瞬発力が高いし、巧みだ。接近戦だと分が悪い。とりあえず別シーンにして遠距離戦にしてみたが)
俺は注射器と解毒剤をアポートし、それを注射する。杵島 彩子にあるメールを送った。俺は返信を待つ。
「さあ、どう出てくる」
1-4
「どこか、だと場所がわからないわね」
私は第三位階の権能を使用した。実丸町に巨大隕石が落ちてくる。自身にバリアを張る。
「喰らいなさい。設定の暴力」
1-5
「初手隕石はバカの所業では?」
(いやいやいや、確かにワールドの侵入者制限切ってたが、それにしたって無茶な設定すぎるだろ)
俺は全力の念動力でその隕石の落下を止めることに成功した。他のエスパーが異変に気づき、隕石を幻覚で隠蔽する。
(俺が死んでもこの町が消えてもGAMEOVER……止めるしかない!)
「この世界の……この物語の作者は俺だ! 誰にも譲らねぇ!」
1-6
「他のエスパー? 実丸町の裏設定かしら」
私は町を注意深く観察する。町の人々は隕石の存在に気づいてない。私はナイフを投げた。
「自動追尾機能付きよ。全力で超能力を使っているはずのあなたは、これを止められないでしょう?」
1-7
「その通りですねぇ! あの隕石片手間で止められるようなやつはただのエスパーじゃねぇよ!」
メールの返信が来た。俺は「家の外にいる怪しい女が投げたものをお前の超能力で止めてくれ」と送っていた。
(ただ脳内タイピングスピードはこっちの方に分がありそうだ。あっちが四十文字前後入力する間に、俺は五十文字前後入力できる)
「頼むぞヒロイン!」
1-8
「ナイフが空中で止まった? ……なるほど、シーン1-3のメールは伏線だったのね? ヒロインを後付けで操作できるように、内容は伏せて描写してたってわけ」
私は第二位階の権限を行使した。町田 力也の座標を特定。その方向にレーザーを撃つ。
「キネシマ サイコ……サイコキネシス? 名前が伏線ってことね。でも、ヒロインの超能力はレーザーも止められるのかしら?」
1-9
『わ、わかったけど、なんで町田君が超能力のこと知ってるの? この女の人は誰?』
「返信なげぇ!」
(ちょっと無理のある流れだったか! システムの追記修正で四十文字弱ロスっちまった! 間に合うか……?)
俺はメールを閉じる。
(いやだめだこれ間に合わ──)
1-10
「物語の序盤でやる行動にしては不自然すぎたようね」
レーザービームが町田 力也に命中する。彼の体を貫通し、全身を焼け焦がした。
「新鮮なバトルをありがとう。よければ友達になりましょう? 生きてたらね」
1-11
(いや死ぬが?)
落ちた衝撃で通話がつながった。
『大丈夫!? ごめん止められなかった! 今から行くから! 町田君? 力也く……』
(辞世の句ならぬ、辞世のバッドエンド。それがマナー……)
俺は死んだ。
GAMEOVER
◇
VRゲームは飽和の時代を迎えていた。どこもかしこも陳腐なVRMMOばかり。そんな中、ある独特なシステムを持ったゲームが人気を博した。
『Words Wars Worlds』……通称『WWW』
現在のVRゲームは各プレイヤーの無意識にある認知を緩やかに重ね合わせて、共通した仮想世界を生成している。要はプレイヤー全員が同じ夢を見ている状態だ。
しかし、斬新で理解し難い世界観だと各々の認知でブレが生じてしまう。これが、似たようなVRMMOが量産された背景である。
それを逆手に取ったのがWWWだった。
システムによる仮想世界への干渉を極力抑え、プレイヤー側の認知世界に任せたのだ。
プレイヤーは世界の設定を自らが行うことで、自由な世界を作り出すことができる。さらにあらすじや登場人物などを設定し、世界に物語性を与えることができる。小説における「地の文」を脳内で入力していくと、物語を進めることも可能だ。
ソロプレイでは、自分好みの世界を作るもよし、創作物の世界を再現するもよし、TRPGの舞台に使用した例もある。
マルチプレイでは他人の世界に侵入し、その世界か世界の作者であるプレイヤーをキルすることで世界を乗っ取ることができる。
その時におこるプレイヤー間のバトルは特殊だった。認知と認知の鍔迫り合い。互いに地の文を書き合う、作戦と伏線の応酬。
『小説バトル』と俗に呼ばれるものである。
◇
「ぐあーっ、負けたー! やっぱ縛りプレイは無理だ!」
実丸町ワールドをロストし、俺は現実に戻ってきた。
「ワールドに侵入できるプレイヤーの設定上限無し、相手の設定は読まない、ソロプレイ用の世界で戦う……流石に縛りすぎたか」
何も知らない主人公が、他の世界から侵入してきた敵によって争いに巻き込まれる……的なロールプレイをしたかっただけだが。
他のマルチプレイヤーから見ればただのいい餌だが、今回のプレイヤーはノリが良くて、ロールプレイを合わせてくれた。お陰で負けたが楽しかった。
「む、フレンド申請。さっきのプレイヤーか」
そういや友達になりましょうとか言ってたわ。こういう意味か。
承諾すると、すぐにメッセージが飛んできた。
『お疲れ様〜! いやー、設定上限無しとか久々に見たから、設定モリモリで飛び込んじゃいました! ゴメンネ』
『いえいえ。まあ面くらいましたが、ロールプレイ合わせてくれて感謝です』
『それほどでも〜!』
『あの1-1の鎌の攻撃良かったです。血の目潰しと毒の二択を迫るやつ。いつも使ってるテンプレ?』
『いや? このキャラ初めて使ったし。あの場で思いついたアドリブ』
『マジすか』
『君の伏線の使い方も上手だったよ!』
『策に溺れましたけどね』
『あの修正は私も予想してなかったし……』
文章や展開は自然なものでなければならない。不自然だった場合、システムによって修正を受けるのだ。
システムは基本的に干渉しないが、コマンドと言われる文章を入力すると対応した文章が追記されたりもする。注意深く観察とか。
それからしばらくやり取りしたあと、彼女にこう言われた。
『折角の縁だしさ、ちょっとクランとか組んでみない?』
……クランとは?





