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権利ポイント5000兆円

「自らの権利を全てポイントに変えてしまうなんて自殺行為だ」

 権利ポイント制度とは、親に恵まれない子供が、親の権利を売って生活できる制度である。本来は、お金を持たない親や育児放棄などから子供の将来を守るためにつかわれる法律である。ほとんどの場合、親の死後に残った権利を使うのが一般的であり、生きている人に対して使われることは例外中の例外だった。

 ところが、そんな制度によって生活をしてきたどこにでもいる普通のサラリーマンの水谷翔(みずたにしょう)は、ある日、何者かの手によって自身の持つ全ての権利をポイントに変換されてしまう。スマホも使えず、ATMも使えない、行う事全てが法律違反になり捕まれば即刻死刑だという。残されたのは、使いようのない5000兆円分のポイントだけ。いったい誰が、何の目的で水谷の権利をポイントに変えたのか? 水谷はこの謎を解き明かし、元の生活を取り戻すために奔走する。

 ”誰もかれもが当たり前の人生を歩める世界を”

 権利ポイント制度が施行されてから既に15年の月日が流れた。どんなに貧困な少年少女だって当たり前のように教育を受け、当たり前のように生活できるという文字どおり夢のような法律だ。


 例えば、俺みたいなやつがそうだ。

 俺こと、水谷(みずたに) (しょう)というやつは、不幸なやつだ。生まれてからおやじの姿を見たのは写真の中だけだったし、女手一つで俺たちを育ててくれたおかあちゃんは二つ下の妹の恵を残して、中学1年の時に亡くなった。


 おかあちゃんは俺たちを育てるためにずーっと仕事をしていた記憶しかない、それなのに家にお金はなかった。残されたものが成長盛りの”金食い虫”しかなかったので、そんな俺たちを貰い受けてくれるような親切な人は当然のように現れなかった。


 しかし、俺たちには権利ポイント制度があった。この制度は、親の都合で生きることが難しい子供達が、親のもつ権利を売却し、その権利の大きさに応じたポイントを得る事が出来るというものである。ポイントはお金として換金できるから、俺たちのおかあちゃんみたいに若くして亡くなった女性だとざっと6000万円分位のポイントが得られた。


 そのお陰で、俺たち兄妹は子供二人それなりの苦労がありながらも、高校に進学し、無事大学を出ることが出来たわけである。


 今こうして株式会社アクセスベータに務めることが出来ているのも権利ポイント制度があったお陰だと思うと少し感慨深いというものである。


「未来予測演算装置アルタイルの実用化が完了し、権利ポイント制度の適用範囲が……」


 会社に置かれた大きなディスプレイが最新のニュースを知らせる。


「水谷さん、あんまりニュースぼーっと見てると昼休み終わっちゃいますよ!」


 後輩の中井(なかい) (かおる)の指摘が聞こえたことで、俺はふっと我に帰ることが出来た。


「あぁっ! しまった、急がなきゃ! コンビニ行ってきまーす!」

「まったくもう、そそっかしいんですから」


 事務所を出てエレベーターに駆け込む俺を見送って中井はやれやれとため息をついた。


 会社から出てすぐのコンビニへ向かうまでの間に思考を巡らす。なんといっても今回のプロジェクトは会社にとっても大事な超大型案件。入社して5年目の俺にもついにビックチャンスが与えられたというものだ!


 鼻歌気分でコンビニに入る。ちょっと強めの冷房が気持ちいい。今日の昼ごはんは何にしようか? 醤油のカップラーメンとツナのおにぎりがいいかな、おっと、ツナのおにぎりは売り切れか、なら唐揚げ入りのちょっと高めのやつでいいや。


 カップ麺とおにぎりを抱えた俺はコンビニレジの行列へと並らびながら考えた。なんだかんだいってプロジェクトは順調だ。何をしているのかというと、最新鋭のAIの開発である。そう聞くとなんだそんなことかと思うかもしれない、だが、我が社をなめてもらっては困る。このプロジェクトで開発されるAIが行う事、それはプログラミングだ。人が行う大雑把な指示をAIが解析し、自動でプログラムを生成することが出来る。更には既存のプログラミングの自動修正まで可能という革新的な代物だ。


「あのー……」


 ……まぁ、まだ実験段階で、実用化にはそうとう年月がかかる代物だけどな。だが、このプロジェクトが上手くいった暁には、夢に見たあんなゲームやこんなアプリ、今まで出来なかったあれとこれを接続するなんていった事が次々と実現するに違いない!うへへ……


「あの! 次のお客様! こちらのレジにお越しください!!」


「あっ! はいぃ! す、すみません!」


 しまった、つい考え込んでしまった。うう、後ろの人の目線がちょっと冷たい……。


「二点とレジ袋で312円になります」

「あ、車両ICカードでお願いします」


 ピピッ!


「あざましたー」


 コンビニを後にした俺を夏の日差しが照りつけた。はやくオフィスに戻らなきゃ。

 駆け足になる俺の視線の先に白と黒の目立つ車が止まっていた。パトカーだ。


 会社ビルの下にパトカー? なんで? 何かあったか? まさかな。


 入口に人影は無い、やっぱり休憩がてら停車してその辺で電話でもしてるんだろう。うちの会社にかぎって変なことしているはずないし、ホワイトな体制だから咎められるいわれはないはずだ。

 そんなことを考えながら、エレベーターのボタンを押す。8階かぁ、誰か先に事務所に帰られちゃったかな。待ち時間長いんだよなぁ。ははは……


 エレベーターが下りてきて扉が開く。俺は乗り込んで8階のボタンを押した。エレベーターは扉を閉めて、ゆっくりと上昇していく。エレベーターの階数表示用に取り付けられた液晶画面に今日の天気が表示されているのを何気なく眺めてしまう。今日は晴れ。明日も晴れだな。


 エレベーターの扉が開くと、オフィスの前で、後輩の中井が二人の男に対して言い争いをしているのが見えた。


「ですから、先ほどから話している通りです! お引き取り下さ あっ……」


 中井が俺の姿を見つけるなり、動揺したように口をつぐむ。


「どうしたんだ、中井? なにがあった?」

「あなたが、水谷翔さんですね?」


 中井が答えるよりも先に、先ほど彼女と言い争いをしていた中年の男が割って入ってきた。


「はい、私が水谷翔です。あなた方は?」

「申し遅れました、我々はこういうものです」


 そう言って見せられたのは警察手帳だった。ドラマで見たことあるやつだ。


後藤(ごとう)(まさる)警部さん……何のご用件でしょう?」

「水谷さん、あなたに逮捕状が出ています」





「…………は?」

「おや? ご自覚がありませんか? 罪状は不当権利行使罪。 まぁその名の通り不当に権利を行使してしまった罪ですな」

「いやいやいやいや、まってまって、まってくれ、状況が読み込めない! どういうことだ?」

「お分かりになりませんか」

「不当に権利を行使って……そんな事はしていない! 俺は真っ当に働いているだけだ! 何かの間違いだろう? 帰ってくれ!」


 そう言い捨てた俺に後藤警部は首を横に振って答えた。


「いいえ、あなたは法を犯しています」

「なぜ?!」

「あなたの持ち得る権利は昨日付でそのほとんどを権利ポイントに変換され、あなた自身に付与されています」

「なっ!?」

「ざっと、5000兆円分くらいでしょうかね。あなたに残された権利はもはや生きる事のみ、あなたは今この場に居ること自体が既に法律違反なのですよ水谷さん……いやはや何を血迷ったのか、こんなこと前代未聞ですよ。生きているうちに自らの権利を全てポイントに変換してしまう人なんて」


 後藤警部が淡々と告げる。

 俺にはあいつの言葉が理解できなかった。いいや、後藤警部の言葉の意味は理解できる。だが、そんなことはあり得ない。俺はそんなことはやっていない。第一それが本当ならわざわざ居る権利のない職場に来るはずもないだろう。

 そもそも、5000兆円分の権利ってなんだよ、そんなに大量の権利をポイントにしてしまっていたら何が出来るっていうんだ。そんなの、ほとんど自殺と同じじゃないか!


「お、俺は、そんなことやってない! 何かの間違いだ!」

「白々しいことをおっしゃいますな、役所のログにも残っているというのに」

「んなばかな! そんなの証拠にならない! 偽造してるかもしれないだろう!」

「政府のセキュリティを疑うのですかな?」

「そ、それは……!……っ! 俺を捕まえてどうするっていうんだ」

「捕まえませんよ?」

「え?」

 

 捕まって牢屋に入れられるって訳じゃないのか……?


「あなたには逮捕され、懲役を受けられる権利すらありませんからね、とはいえ我々としても居るだけで犯罪し続ける自動犯罪生産機を野放しにはしておけませんから、とりあえず人目のつかない所まで移動させた後、殺処分してしまうようにと言われています」

「さ、殺処分って……」


 それって……捕まったら即死刑ってことか!?


「本来は移送ですらする必要は無いのですが、あまり一般人に見せて良い物でもありませんからね、特別措置です」


 後藤警部が手錠を取り出した。嘘だろ? 本気で俺を殺すつもりで捕まえるっていうのかよ! 意味わかんねぇよ!


「ふ、ふざけるな! それ以上近づくんじゃない!」


 その時、自分がエレベーターの前に立っていたことを思い出した。そっと気付かれないようボタンを背後に隠して押す。


「そういう訳ですから、ご同行願いますよ……あっ」


 開いた扉に駆け込む、後藤警部と隣にいた男性が駆け出したがもう遅い。俺は素早く1階行きのボタンを押して閉じるボタンを連打した。俺一人をのせたエレベーターが下りていく。どっどっどっどと心臓の音が鳴りやまない。警部の言っていたことは本当なんだろうか? 本当だとして、これからどうする? どうすればいい? 逃げる? どこへ?


 その場に残された後藤警部は少し安心したようにエレベーターを眺めていた。


「追わなくて良いのですか? 後藤警部?」

「草薙君は人殺しをしたいのですか?」

「えっ……あっ、いいえ」

「でしたら、追わない方がいいでしょう。我々は頑張って捜索したが犯人を見つけられなかった。そう上に報告しておきましょう」

「いや、それは」

「では少し喫煙室で休憩でもしていきましょうかね」

「えぇぇ……」


「あの!」


 水谷の後輩、中井のふるえる声が二人の男の背に届く。


「少し詳しい話を、私に聞かせてください!!!」

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