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気味の悪い魔女として追放されたアタシは覚醒した

村を追放されたミレッチは、魔女である母の魔法書を手に入れた途端に覚醒した。


ヤケになって目覚めた力を全開放して発動させる。

膨大な魔力が拡がり近隣の街を複数巻き込んで、全ての住人を洗脳した。

だが、その洗脳はミレッチ自身にも効いてしまう。


「わたくしは、大貴族バメリッツ家のアトリシヤ?」

いや違う。アタシはミレッチ、魔女の娘?

ウカツにも自分にも掛かった洗脳のせいで、現実と洗脳との区別がつかない。


混乱するうちに迎えの馬車が来て、ミレッチはアトリシヤとして城へ連れて行かれた。

貴族の跡取り娘として婿選びが急務らしい。


優しい父母、厳しい教育係、毎日のように求婚者が訪れる、一見、優雅な日々。

しかしミレッチは、毒を盛られ、階段から突き落とされ、乗った馬車が崖から転落したりと、何者かに命を狙われている。


陰謀渦巻く貴族の城で、ミレッチは正体の分からない敵との対決を決意することに。

 泣きながら眠ってしまっていた。

 怒りをあらわにしたような足音を耳にして目を覚ますと、見知らぬ部屋に居る。

 

 ここは村長の屋敷の客間だ。

 家が荒らされ、母が行方不明になり、アタシは村長の家へと駆け込んだ。村長は捜索隊を出してくれたし、荒らされた家では眠れないだろうと一晩泊めてくれたのだ。

 

 バン、と、けたたましい音を立てて扉が開く。

 

「ミレッチ・マイレー! なんて図々しい女! 即刻、出て行きなさい!」

 

 ずかずかと入り込んできたのは、村の有力者ブラス家の娘マルミントだ。

 毛布を引きはぎ、アタシを寝台から引きずり下ろす。ゆるく編んでいた長い金の髪が揺れた。

 扉の影から村長とその息子が、恐る恐る部屋の中を覗き込んでいる。村長といえど、有力者の娘の言葉には逆らえない。

 

「何をぐずぐずしているの! この屋敷からだけでなく、今すぐ村から出て行くのよ」

 

 マルミントの怒りは増すばかりで、アタシは突き飛ばされた。

 

「まぁまぁ、マルミント様、ミレッチは母親が行方不明じゃ。探さねばなるまい」

 

 村長は穏便な口調でマルミントの怒りを鎮めようとしている。

 

「何を悠長なことを言っているの? 魔女が行方不明ですって? とても好都合だわ。今すぐ、この気味の悪い魔女も追い出しなさい」

 

 我慢も限界という態度だが、マルミントの怒りの原因には全く思い当たる所がなかった。

 

「こんなに小さな子を追い出すなんて」

 

 村長の息子がおろおろと、それでも助け船を出そうとする。

 

「この女も気味の悪い魔女よ。よくないことが起こるわ。魔女の悪影響は甚大よ」

 

 マルミントが騒いでいるうちに、ブラス家の使用人たちが入ってきた。

 

「よそ者をずっと村に置いてあげてたんだから、感謝してほしいわね」

 

 アタシは何の弁明もできないうちに、村長の屋敷から引きずり出される。村の端まで連れて行かれ、そのまま村の外へと放り出された。

 

 

 村に戻ることは許されない。

 といって、まだ十三になったばかりの小娘が一人で生きて行く方法があるだろうか?

 

 母は村人たちのために良く効く薬を調合して感謝されていた。気味悪がられてなどいなかった。

 着替えすら取りに戻ることが許されず、着の身着のままだ。わずかの金銭すら持っていない。

 たった一つ、左手首に身分不相応で豪華な金の腕輪がはめられている。しかし売ろうにも外すことのできない代物だった。

 

 アタシは呆然としたまま、とぼとぼと歩き始めた。

 日暮れる前に、隣町までたどりつけるだろうか? たどりつけたとして、どうにかなるとは思えない。

 

 歩き続けるうち、涙があふれ出してきた。気味の悪い魔女と罵られ、悲しいのか、悔しいのか、怒りなのか。わからない。

 

 その時、どこからか巻物が飛んできた。

 母の魔法書だ。

 

「あ!」

 

 手を伸ばして取ろうとしたが、その前に巻物は腕輪に溶けこむように入って取り出せなくなった。

 それでも、母の魔法書があるのは一筋の希望だ。

 どこかで腕輪から母の巻物を取り出し、魔法を使えばいい。街で仕事が探せるかもしれない。

 

 と、突然、何か閃光めいたものが心の中を突き抜けた。

 

 

 その瞬間、ミレッチは覚醒した――。

 

 

「すごい、すごい! 魔法があふれてきてる。今だったらアタシ、何でもできる!」

 

 なぜ覚醒したのか考えている暇はなかった。感情の昂ぶりのせいかもしれないし、母の魔法書の力かもしれない。

 

 解放されそうなのは、洗脳の力だ。

 膨大な魔力。あふれるような物凄い量の魔力を、いつのまにか持っていた。

 

 アタシは、どうにでもなれ、という気持ちで、そのまま力を解放する。

 

 キラキラとあふれ出した魔力が、周辺の村や街へと拡散して行った。

 村を包み、近隣の街を幾つも飲みこむ勢いで拡がっている。アタシも飲み込まれようとしていた。

 

 ああ、だめ。アタシにも効くの?

 

 そう思った時には、既に遅かった。

 洗脳の力は止まらない。アタシはアトリシヤ・バメリッツ、ラシオースの街、大貴族の跡取り娘。

 だめよ。しっかりして。ああ、アタシにも、魔法が効いてしまってる……アタシは……、わたくしは、アトリシヤ……?

 

 

 洗脳は確定した。

 

 

 力を使い果たし、地面にへたり込む。自分が誰なのか、あやふやだ。

 

 わたくしはアトリシヤ・バメリッツ……。

 

 しばらくぼうぜんとしていると、複数の馬車の音と、駆け寄ってくる人達の気配がした。

 

「探しましたぞ、姫!」

 

 姫? 誰のこと? どうやら、わたくしのことを姫と呼んでいる?

 

「アトリシヤ様!」

 

「お探ししました、アトリシヤ様。よくぞご無事で」

 

 たくさんの従者らしきが口々に歓喜したように声をあげて近づいてきた。

 

「ようやく、見つけました! バメリッツ家のあるじ様に、お知らせせねば!」

 

 アトリシヤ……誰それ? という思いと、わたくしはアトリシヤ、という確信とでせめぎあっている。

 

「わたくしが、アトリシヤ?」

 

 口調も変わっているし、気取った調子だ。わたくし、だなんて、言ったことがないとアタシの中で思いが揺れた。

 

「はい。悪い魔女にさらわれてしまったアトリシヤ様を、あらゆる手段をこうじて探しておりました」

 

 悪い魔女? 酷いことを言わないで、と、喉まで出かかった言葉は掻き消えた。

 

「人違いではないの?」

 

 かわりに聞いている。

 

「この家紋入りの腕輪は、紛れもなくアトリシヤ様のおしるしです。バメリッツ家の家紋が刻まれております」

 

 外すことのできない豪華な金の腕輪を従者たちは指し示す。

 

 そうだっけ? 心の奥深くで、何か、ちょっと奇妙な声がするが、確かに腕輪にはバメリッツ家の家紋が入っていた。

 こんな家紋、前からあった? アタシは心の中で首を傾げた。

 

「さあさあ、こんな所に長居は無用にございます。お城へとお連れいたします」

 

 バメリッツ家は、近隣の街の中で最も富豪な大貴族だ。

 アタシはあっという間に馬車に乗せられ、城へと連れられて行く。とりあえず今夜の眠る場所の心配はなくなったようだった。

 

 

 

「ああ、アトリシヤ! どんなに探したことか」

 

「本当に、良く無事で戻ってきてくれた」

 

 バメリッツ家の当主とその妻が駆け寄ってくる。

 優しい笑みを向けながらも涙を隠せず、父と母がアタシの手を取る。

 なんとなく、懐かしい気持ちになるのは何故だろう?

 

「戻って早々に、申し訳ないのだけど、あなたには婚約者を選んで頂かねばならないのよ」

 

「私たちには、もう子供を作ることができないのでね。少しでも早く、家を継いでほしいのだ」

 

 唐突な話だが、決して無理強いする風ではない。幸せを願ってくれていると感じられる。

 

「ふふっ。その前に、湯を使って身支度を調えさせましょう。アトリシヤには、だいぶ苦労をさせてしまったようね」

 

 母は、粗末な身形(みなり)を苦労のあかしと捉えたようだ。

 

「ありがとうございます。おかあさま、おとうさま

 

 アタシはしみじみと呟く。

 

ははうえちちうえですよ?」

 

 父母の背後に控えていた厳格な気配の男が、不意に叱咤する口調で告げた。

 

「あら、いいのよ。アトリシヤは、ずっと、お母様と呼んでくれていたわ」 

 

 母の言葉に、男は密かに舌打ちするように眉をしかめている。

 

「どなたですの?」

 

 アタシは、むっとしながら、母へとコッソリ聞いた。

 

「覚えていないのも無理はないわね。あなたの教育係ですよ」

 

「デュエム・ガルスト殿は、王宮にも仕えていたことのある由緒正しき御方だ。厳しい所もあるが、学ばせてもらいなさい」

 

 母と父は、優しく諭してくれている。

 

「承知いたしました」

 

 アタシは、着の身着のままの姿で、今までしたこともなかった優雅な礼をとっていた。

 

 

 

 翌日、侍女たちの手によって金色の髪は綺麗に結われ宝石の煌めく髪飾りでまとめられた。

 金糸銀糸の刺繍が施された豪華な衣装を着せられている。腰のくびれを際立たせる美しい帯、長く拡がる袖、身動きの取りにくいような衣装なのに、不思議と馴染む。

 

「まぁ、とても美しいですわ」

 

 侍女は感嘆する声を立てながら、全身を映せる大きな鏡で姿を見せてくれた。

 

 鏡の中、貴族らしい衣装を着こなしている様子に、アタシはまた分からなくなる。緑の瞳は、母と同じ色だ。

 

「さあさあ、急いで、アトリシヤ。ギガイス家のロフィーグ殿が、いらしてますよ」

 

 微笑まし気に母が急かす。まだアタシが城に入って一日も経たないというのに、どこで聞きつけたのか近隣の街から貴族の息子たちが次々に訪れているらしい。

 城には、客が長期滞在できるように独立した別棟が複数ある。

 近日中に、全ての別棟が婚約者候補の貴族たちで埋まるとのことだった。

 

 貴族の息子たちは、多数のお付きの者を従えて来ている。城の中は物凄い人の数になる。

 城の使用人を覚えるだけでも大変なのに、貴族の息子たちを接待する身になってしまった。

 

 中でも、ギガイス家は名門だ。先にお目通りを、と取り計らったようだ。

 洗脳の力でバメリッツ家の姫に成り済ましている身としては、なんとかボロをださずやり過ごさねばならない。

 冷や汗ものの成り行きだった。

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