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なろんぐあす!

『なろんぐあす!』とは、負け犬が作ったゲームである。


 夢に負け。恋に負け。性欲に負け。敗者は死の淵で後悔した――小説を書き続ければ良かった‼ と。


 そう――この男。人気小説投稿サイト『小説家になろうぜ!』で月間総合ランキング一位を獲り、見事書籍化&コミカライズの栄光を掴んだものの……書籍は爆死。コミカライズも泣かず飛ばず。次作に賭けるも完結フィーバーで辛うじて日刊ジャンル別ランキングの73位に入れた程度。その現実から逃げるようにオンライン対人ゲーム『宇宙de人狼』にハマり、そこで仲良くなった女の子をオフ会に誘うも待ち合わせに来てもらえず、腹いせに如何わしい店で語るに語れない失態を犯し……合掌。


 そんな男の呪いで、このゲームは生まれた。

 きみたちが『小説家になろうぜ!』で人気作の主人公になるには、この『宇宙de人狼』を模したゲーム『なろんぐあす!』で勝ち残らなければならない!

「つまり、このゲームに勝てば『小説家になろうぜ!』超人気小説の主人公。負ければ底辺作家小説のモブ――ということですか。おおよそこの場に集められた理由はわかりましたけど、そもそも『宇宙de人狼』とはなんですの?」


 そんな無駄に派手な解説映像を見せられて、わたくし悪役令嬢は小さく手を挙げた。 

 その質問に変わった形のスーツを着た少年が答えてくださる。真っ黒の詰め襟スーツなんて、初めて見たわ。それ以外は黒髪ってこと以外特徴がなさすぎて怖いくらい、何の特徴もない少年なのだけど。


「特定のマップでキャラを操作しながら行う人狼ゲーム……て言っても、悪役令嬢さんじゃ『人狼ゲーム』に馴染みが……ない?」


 その質問に、わたくしは不服ながらに頷くわ。

 決して『悪役令嬢』と呼ばれたことが不満なのではない。……だって、わたくしだって自身が『悪役令嬢』ということ以外、名前も出身も何もわからないんですもの。赤いたおやかな髪、綺羅びやかなドレス。紛うことなき悪役令嬢のわたくしが……そのゲームを知らないことが当然と、馬鹿にされたように思えただけ。


 だけど、その少年――映像を見る前に自己紹介した時はラキスケ男子と名乗っていましたわ。彼は丁寧に応えてくださる。


「宇宙船内で乗務員クルーと……化け物に身体を乗っ取られた悪者インポスターに分かれて行う、グループ対戦ゲームです」

「化け物とは具体的にどんな魔物なんだ?」

「そこは気にしちゃいけません」


 彼の説明の間で、綺羅びやかな青年が口を挟んだ。

 褐色の髪を逆立て、大きな剣を背負っている彼は追放勇者。比較的馴染みある格好をしているわね。勇者というだけあって、立派な軽鎧を着ているわ。

 

 そんな追放勇者からの質問をいなして、ラキスケ男子は説明を続ける。

 ……ラキスケってなんなのかしらね? 追放勇者は追放されてしまったんだなーとわかりやすいのだけど。


「九人で行うゲームだと……クルーが七人。インポスターが二人。クルーが船内でタスクという簡単な作業をこなしている間に、インポスターがクルーを全員殺害できればインポスターの勝ち。インポスターに殺害される前にクルー全員がタスクを完了、または会議でインポスターを全員追放できればクルーの勝ち。会議は死体を発見した時、またはこのカフェテリアの緊急招集ボタンを押した時に強制的に開かれる……通常はそんなゲームです」

 

 なるほど。生きるか死ぬかの命を賭けた遊技――というやつですの。

 当然、わたくしは化け物なんかに乗っ取られておりませんので。クルーですわ。素早くタスクとやらをこなしつつ、すみやかにインポスターを暴き出して追放すればいいのね。

 今わたくしたちが円卓を囲んでいるこの場所がカフェテリアらしいわ。カフェというわりには、どこも灰色で殺風景ですけど。紅茶すら出てきませんし。でもいざという時はここに戻ってきて真ん中の赤いボタンを押せばいいってことよね?


 なんとなくゲームの概要を把握できた時、ひとり年の離れた殿方が口を開く。


「なあ、お前がその化け物ってやつなんじゃねーの?」


 おっさん。だった。彼はおっさん。ボロの貫頭衣に身を包んだ髪もひげも一切整えられていないおっさんである。……おっさんなんて呼称、本来なら端ないのでやめたいところですが。でも本当に“おっさん。”という『。』までが名前なのだから仕方がないわね。

 そのおっさん。が、乱暴な口調でラキスケ男子を責める。


「やたらこのゲームに詳しいじゃねーか。てめぇがこんなふざけたことを仕込んだんじゃねーの?」

「違うっ‼ 僕の世界でちょうど流行ってたから、それで……」

「うたがうのはよくないでち! みんな仲良くするでち!」


 ラキスケ男子を庇ったのは幼い少女だった。名前は転生幼女。身体はふわふわの金髪が愛らしい幼女だが、中身はアラサーとやらのりっぱな成人女性らしい。でも口調は幼女の身体に引っ張られるとかなんとか……ちょっとよくわからないわ。


 でも、そんな転生幼女に賛同する人が三名。


「そうですよ。ここはみんなで協力して苦難を乗り越えねば」

「そうだよ! 思い込みでいじめるなんて良くないよ!」

「どんなゲームでも正々堂々と、だな」

 

 順番に偽聖女。もふもふテイマー。ベータ。

 偽聖女はわたくしと同じくらいの十代後半の少女で、聖女らしき白い巫女服を着ている。髪も銀髪で物腰も穏やかだけど……偽物なのよね? 偽聖女というくらいなんだし。

 もふもふテイマーは肩に二匹の小動物を乗せていた。彼もわたくしと同じくらいの少年である。あの丸いもふもふしているのは何なのでしょう? 今の所、彼の肩にひっついているだけで動く様子はないのですが……。

 ベータは少し硬質な黒いスーツを着ている。彼も同年代でラキスケ男子と同じ黒髪。でもラキスケ男子より目つきが鋭く、腰に二本の剣を差しているわ。風変わりな冒険者、といった風貌ね。ベータの名前の由来はβ(ベータ)テスターという、これとは違うゲームのテストプレイヤーから来ているとのことよ。


 さて、人数に押されておっさん。も黙りましたし、そろそろ本題を続けましょうか。


「それで大本のゲームは理解しましたけど……その『なろんぐあす!』は普通の宇宙人狼と何が違いますの?」


 わたくしの問いに、今まで黙っていた後宮女官が円卓の中央に置かれた紙を取る。表紙に『説明書』と書いてあるわ。

 女官というわりに無愛想な少女だ。年はまた同年代ですけど……そばかすを隠す気もない女官なんて、たかが知れているわね。そんな彼女が淡々と読み上げる。


「インポスターに『胸キュン』させられたら、その場でアヘ顔ダブルピースの死亡扱いとなります。『胸キュン』判定は各人の心拍数で判断されますので、クルーはときめかないようにご注意ください――とあるわ」

「しんぱくすう?」


 アヘなんちゃらもわからないのだけど、とりあえず発音しやすいのはそちらだったから。わたくしが疑問符をこぼせば、後宮女官は冷たい視線を向けてくる。


「……一般的な医学用語です。一定時間内の心臓の鼓動回数のことをいいます」


 なっ、女官のくせにその目つきは何よ⁉ わたくしが馬鹿とでもおっしゃいたいの⁉ 医学用語なんか知らないわよ、わたくしは公爵令嬢ですもの! あなたこそただの女官のくせになんでそんな偉そうなの⁉


 わたくしが憤っている間にも、女官は顎に手を当てて思案するのみ。


「これは少々厄介ね……」


 その時、大きなブザーが鳴った。誰とも知れない声とともに、しまっていた三方の扉が開かれる。


《ゲーム開始時刻となりました――それでは『なろんぐあす!~汝は恋なんてしないんぞ?~』のスタートですっ‼》


 そんな副題、今始めて聞きましたが――⁉

 わたくしたち――悪役令嬢、偽聖女、転生幼女、後宮女官、追放勇者、もふもふテイマー、ベータ、おっさん。、ラキスケ男子――は、席を立つ。


 ときめいたら死亡。上等ですわ!

 このわたくしを口説き落とすなんて、百万年早くってよ!



 ――と、意気込んでゲームを始めたのに。


 ゲーム開始直後、一目散にわたくしは初期位置の『カフェテリア』から南方の小部屋に向かいましたの。とりあえずタスクさえ終わらせれば勝ちなのだから、スピード勝負ですわ!


 魔法のように空中で出し入れ自由の地図を見る限り、ここは『アドミン』という管理室のような部屋ですわ。カードを認証機械に通すタスクをこなして、そのまま下の『ストレージ』に行こうと部屋を出た直後、誰かにぶつかりまして。気が付いたら……。


 ど、どうしていきなり胸を揉まれているんですの~~⁉


「ご、ごめんなさいっ! ほんと、マップを見てたから部屋から出てくるきみに気づかなくって!」


 わたくしの上にはラキスケ男子。上手いこと避けてくださって重かったり痛かったりはないのですが……手が、手が、胸に! あぁ、話しながらもみもみ動かさないでくださいまし⁉


「インポスター! やっぱりあなたがインポスターでしたのねっ‼」

「違う! これはただのラッキースケベで……!」


 ラッキースケベ⁉ もしかしてラキスケとは、幸運(ラッキー)助平(スケベ)のことですの⁉

 そんな問答を繰り返している時、再びブザーが鳴る。アナウンスが流れた。


《追放勇者の死体が発見されました――会議を開始します》


 わたくしは胸を揉まれながら、ラキスケ男子と目を見合わせる。

 さっそく犯行が起きた。わたくしが人気作品の主人公になるために――インポスターを追放せねば。

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