ツバメは麦畑へゆく①
「ツバメちゃん起きて!」
ニナ母さんに体をゆすられ私は目を覚ます。
「んー…まだ夜ですよぉ…」
目を擦りながら私はぼんやり答える。
「早く起きなさい、急いで!」
普段穏和で優しい彼女から似つかわしくない声色と雰囲気に気圧され、私はハッと意識を起こした。
聴けばカーンカーンカーンと遠くで鐘が鳴る。そして家の外から聞こえる怒号と叫び。沢山の足音。窓の外で不気味に光る橙の明かり。
―――何かが起きている。
―――何が起きているの?
「急いで身支度をするんだ」
どかっと寝室に入ってきたニナ父さんの表情は真剣そのもの。
その逞しい腕にだっこされているニナは不安げにキョロキョロと父母の顔を窺う。
「身支度って…これから何を?」
「しばらくマール村の親戚の家へ行こう。ツバメも一緒に。」
「どうして…そんな、急に…」
いや…見当はついている。
だけど現実味がない話で、私には一生無関係だと思ってた話で、だって空想の物語や歴史だけでしかそれを知らないから。
ニナ父さんの神妙な表情から放たれた言葉は、それが実体を伴ってこれから私に降りかかることを明示していた。
「―――魔の国が宣戦布告しここに近い国境で戦が始まったみたいだ。アルファンもすぐ進軍されるかもしれない。戦争が始まるんだ」
そのままドアを開き外へ向かう。
私は遠くで聞こえる喧騒を聞きながら、ただただ彼らに付き従うしかなかった。