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ツバメは街へゆく②

街へ向かってたときに気づいたことが1つある。


ほんの僅かだと思うけど、心なしか足が速くなっているのと体力がかなりついてる気がする。

森を抜けて原っぱを越えて丘を越えて、街に到着するまで一度も立ち止まらずに走ってこれたのがその証拠だ。


速さはほら、ポケモンで序盤ランニングシューズをもらった後に感じるあの感覚。走ってる最中我が身をもってそれを体験してた。



ともあれようやく街に着いた。


まずは第一目標「人と話す」


…いや分かってる。皆まで言うな。

私はセーラー服のままこの世界に来た。

その格好がおそらくここではおかしいということは想像ついたし、宿に泊まるなり食べ物を買うなり必要になる金すら手元にない。



持っていたのは完全圏外で最早ただの箱と化したスマホちゃんと黒い猫耳カバー。

あとはポッケに入ってたハンカチと130円。



まさかスマホが異世界で使えるとは思わないし、この世界で布きれや日本円が役に立つとも思わない。

そこまで私はアホじゃない。


そこでわたくし考えました。

その名も『郷に入りては郷に従え作戦』!!


その①!

せめてと思い廃屋にあった灰色のカーテンをひきちぎりそれをマントみたいに身に纏う。


その②!

割れた高そうな花瓶の破片や金属製の食器など金になりそうなものを片っ端から集めカーテンの残りで風呂敷代わりに一纏めで括って持ってくる。


以上!


肩に背負ってやって来たから、ぱっと見薄汚いサンタクロースみたいな格好だけど、そこはまあ贅沢は言ってらんないよね。



そんな格好のまま、いざ街に入った。

正直大きな街…とは言えなかったけど、それなりに賑やかでどこか穏やかな空気が流れてた。


レンガ造りの建物が所々連なる姿は実に見ごたえあったし、煙突からもれる煙すらどことなく趣深い。


なんとなく絵本とかでよく見るヨーロッパの田舎街?そんな感じがしてなんか好きだわここ。

インスタに映えそうと思ってクセでスマホを取り出すけど残念、電源が切れてました!


ホント使えねえなこの箱はよお…



人の行き来が結構ある。

私の偽サンタ装備なんて屁でも無いくらい大きい袋を担いだおじさんや、荷馬車を引いた人もしばしば。

商人さんなのかな?


「お嬢ちゃん旅人かい?ゆっくりしてきな!」

そんな街道を道なりに歩き続け、いかにも優しげなおじさんおばさんとすれ違うたびに温かい言葉を投げかけられる。


「あ、ありがとうございます!」

ドギマギしながら返す感謝の言葉にニッコリ笑顔で応じてくれてることを見ると、日本語は通じてるみたいで安心。


知らない土地に来てからずっと緊張してたけど、街の雰囲気と彼らの優しさに触れたおかげでそれが解けた…そんな気がする。



すれ違う人と一言二言交わしたり、他の人の会話に聞き耳たてたりしながら街を一通り歩き進んだことで、

ここが『アルファン』という名前であること。

麦作が有名で街の先の私が来た反対側には一面の麦畑が広がってること。

アルファンはこの国の外れにあること。


大体そんな事が分かった。 





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




広場みたいな広い場所に出ると、今までの穏やかな雰囲気と打って変わり、賑やかで活発な雰囲気が広がった。

どうやら市場が開かれてるみたいだ。

色とりどりの果物や見たこともない魚が箱いっぱいに詰められており、おっきなお肉の燻製が吊るされ、屋台のあちこちから元気な声で満ち溢れていた。


一方私は…というとさっきから謎に後ろをついてきたニコニコした幼い女の子と子犬と向かい合い、広場の入口でにらめっこしてた。


「ちょっと…あんたたち何してんの…」

ちょっと前から後ろをドラクエみたいについてきてたのは知ってた。

今まで気づかないフリを続けてきたけど、ここまでついて来られたらいい加減気にもなる。


そういうわけで私は結局折れ、呆れたような声でついつい訊ねてしまった。


「お姉ちゃんどこから来たのー?」

おい私の質問ガン無視やんけ。

だが相手は幼女。そんな上目遣いでキラキラしながら訊かれたら無下に追い返せないし、「お母さんの所にお帰り!知らない人に付いてきたらいけません!」なんて怒れるはずもない。


「えーとぉ、ナイショ♪」

人差し指を下唇にあてウィンクをしながら思いきりのぶりッこアピで女の子の無垢な笑顔に対抗する。

いや何対抗意識燃やしてるんだって話だけど。


「お姉ちゃん何か顔変ー!」

オイオイオイ指差してゲラゲラ笑いおったぞこの幼子。

隣にいた犬っころも煽るように鳴きおる。


ツバメの心につうこんのいちげき!


とはいえ私はこの街の新参者かつ相手は幼女。

大人げなく怒るのは違う気がする。 



それにここで闇雲にさ迷うより、この女の子をりよ…頼って街を回れば、ご飯や寝床をいち早く探し出せるかも。

だけでなく元の世界に帰れる手がかりを掴めるかもしれない。


ニコッと私は笑顔を女の子と子犬に向け、

「おーお姉ちゃんの顔は変かーあっはっは!じゃあちょっとこの街を案内してくれなーい!?」


と何の脈絡も無く彼女を頼る。


「いいよー変なお姉ちゃん!」

と二つ返事でOKしてくれた女の子は紛れもなく天使だ。

だからひきつった笑みを浮かべるのは止めなさい私よ。

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