ツバメは街へゆく①
異世界に私は来た――かも知れない
しばらく付近をクルクル歩き回って、ここが本当に自分の知らない場所であることが分かった。
いやもしかしたら日本国内とか地球上で自分の知らない場所に飛ばされただけなのかもしれない。
コラ!決めつけるのは早計だぞ私☆
スマホを開く。うん!圏外!
そして再起動しようとしたら電源落ちたままつかなくなった!
まじ卍!
おまけに空を見れば何故か分かんないけど馬が空飛んでる!
UMAかな!
「…」
もう開いた口が塞がらない。
うん、ここは紛れもなく日本ではないです。
あっ!でも待って待つのよ朝日奈ツバメ!
ポジティブに考えてみて!
そうだよ!
異世界なら普通何か私に特殊能力が備わってるのがセオリーじゃない?
友達に貸してもらった本には確かにそんな感じの物語があった!
「よーし」
そっから色々試そうと思ってした私の行動は、はっきり言って“奇怪”そのものだった。
一人で走ったり、
一人でお腹に力込めて気合いを入れたり、
一人で叫んだり、
一人でシャドーボクシングしたり、
一人で歌を歌ったり、
一人で何かを蹴ったり、
一人で石を投げてみたり、
一人で何かに祈ったり、
一人でどじょうすくい踊ったり、
何か色々してた。
――――けど、変わりない。
体をあちこち触診したりしたけども、残念ながら貧相でちんちくりん…じゃなくて発展途上の身体も私が17年の歳月を共に過ごしたものに違いない。
川があったので水面に映る私を見てみた。
茶色かかったセミロングの髪。それなりに大きい目。学校指定のセーラー服。少し裾の短いスカートから見える脚。
何も変わらない私がいる。
――――結局、私自身にホントに何も変化が無かった。
「何も無いじゃん…」
そう呟き、力が抜けたようにヘナヘナとその場に膝をつき座り込んでしまった。
夢かな?と思って左頬をつねるが、当然じわりと痛みが走る。
「ハァ…」
意図せずため息が落胆と共に口から漏れる。
――どうしてこうなったんだろ?
――なんで私がこんな目に合わなきゃいけないのか。
あの穴に落ちてから幾度となく頭によぎる疑問や苛立ちが、立ち止まった私の心を容赦なく貫いていく。
地につけた膝がボウリング玉のように重い感じがして、一生立ち上がれる気がしない。
そんな錯覚に今にも囚われそうになる。
「ふぅ…」
けどここで足を止めたらそれこそ本当に何も分からずじまいだ。
私が大好きなバスケ漫画でも言ってた。
「あきらめたらそこで試合終了…だよね」
へへっと気づけば笑っていた。
それはあまりに可愛いげなく弱々しい負け犬の遠吠えのようなものだけど、私の心を奮い立たせるには十分すぎる。
「よし!街行ってみよ!」
ここに居ても仕方がない。
自分一人で証明出来ることに限りがあることが分かった(つまり何も分かっていない)ので、私は人に会って直接聞こうと決心した。
前方に青々と広がる草原の先に、微かに見えるレンガ造りの建物が連なる場所。
おそらくあそこに人がいるでしょと見切りをつけて。
見知らぬ土地で、私は歩幅60㎝の小さな一歩をようやく踏み出した。