ツバメは異世界へゆく
どれくらいの時間が経っただろう。
夜月カケルの姿を見失ってから、私の見る景色は一面の漆黒。漆黒。漆黒。
不安とか寂しさとかにも何かもう一周回って慣れてきた。
だけどどうやらそれも終わりを迎えたみたい。
「…?なんだろあれ…?」
視線の先に見えるのは一筋の光。
筋というより点と言い直した方が正しいかもしれない。
それは米粒くらいの大きさで、こんな真っ暗闇じゃなきゃ見つけられなかったと思うほど。
ただそれを見逃すほどの余裕は全く無かった。
脇目もふらずに文字どおり一筋の光明が差し込むその場所へ、
バスケ仕込みの運動力と重心移動と敏捷さを活かしてえいっ!と無我夢中で飛び込んだ。
「いったぁう!!」
瞬間、ズカンとかドカンとか強烈な激突音と共にかったい地面にこれでもかというほど身体を打ちつけた。
尻餅をついた。めっちゃヒリヒリする。
体の沈みを感じて下を見れば、木の床にお尻がめり込んでしまっていた。
…女の子としては何か嬉しくない事実…
ただ、あれだけ落ちた気がするのに、不思議と痛みはそこまで深刻でも無かった。
「あいたたた…」
けど痛いものは痛い。
右手で打ったお尻をさすり、左で捲れてる制服のスカートの裾を直し、ボサボサ髪を軽く手櫛てとかしながら体を起こして周りを見れば、どうやら私は古ぼけた木造家屋にいるみたいだ。
「いやどこよここ…」
全く見覚えのない室内だった。
割れた窓や足の無い机。床に落ちた金属製の食器は錆び錆びだ。
荒れ果て具合からして、もう随分と使われていないお家なのは明らかだ。
「?」
てか割れた窓の隙間からさんさんと太陽の光が射し込んでいるのが既におかしい。
私が図書室に行ったのは放課後でもう夕日が差してたはずだもん。
振り向いたり上を向いたりして、自分が今煤だらけの暖炉の上に座っている現状を把握する。
「とりあえず外に出てみよう…」
そう呟いてゆっくりと立ち上がり、肩についた煤に息をふうっと吹き掛け、パンパンと体全体を払う。
そして朽ちかかっている扉を開け、日の光を浴びながら外の世界へ私は踏み出す。
踏み出した先。
そこには、まるで私が知らない世界が広がっていた。
まじでどこなのよここ…。
見たことの無い空の下で、見たことの無い丘の上で、見たことの無い森と、見たことない草原と、見たことない道と、見たことの無い遠くの街を視界に捉える。
そのとき、ふいに1つの推測が脳内から浮かび上がってきた。
「待って、これって…」
これ、異世界に来ちゃったやつじゃね?
毎日9時投稿です。