最終話前編 僕の大切な貴女へ〜最期のメッセージ〜
大変長らくお待たせ致しました……!ちょっと言い訳タイム入ります。中々時間が無くてですね?僕も大分忙しかったんです。先程書き上げましたので投稿します。
本日中に最終話後編も投稿します。
フランスから帰り、少し遅くなったが高校を卒業した。
治療はスムーズに進み、末期だった癌は完治した。
············そして解離性同一性障害も、完治してしまった。
そう、"完治してしまった"のだ。
ふと机の上を見ると、一通の手紙が置いてあった。
全く見覚えのないそれを、私はいつの間にか手に取っていた。
真っ白な封筒には何も書いていない。
僅かな好奇心に揺られ、封を開けてみる。
最初の文字を見た途端、それが誰からのものなのかを理解してしまった。
『僕の大切な貴女へ
まずは、卒業おめでとう。
莉乃の卒業と共に渡してほしいって頼んだから、これを読んでるってことはそういうことだよね?
莉乃、元気にしてますか?
これを読んでいる時、僕はもう存在していないと思います。
でも、莉乃には笑顔でいてほしいから、僕のことは気にしないでください。
莉乃の両親は、急に現れた僕のことが邪魔だったみたい。
当たり前だよね。
別人格とはいえ、大切な娘の人生を数十年短くする可能性を極限まで高めた上に残りの時間を半分も奪ったんだから。
実際は10年経っているのに体感的には5年。
これは大きいと思う。
知らないうちに時が過ぎていくってある意味恐怖体験だと思うんだよね。
だから、治療の話をされた時は迷わず頷いた。
莉乃が聞いたら止めるだろうから、僕は治療の話を莉乃の意識が出ていない時に勝手に進めていたんだ。
騙すような真似をしてごめんなさい。
許してくれとは言わない。
好きなだけ恨んでくれていいよ。
ただ、ご両親には優しくしてあげてね。
莉乃のことをあんなにも想ってくれているから。
癌、治って良かったね。
莉乃には、これからの人生を心ゆくまで楽しんでほしい。
今まで本当にありがとう。
短い時間だったけど、本当に楽しかった。
夏休みに、最期の思い出作りに付き合ってくれてありがとう。
さようなら、莉乃。
幸せになって。
赤城来亜より』
涙が溢れて止まらなかった。
来亜が私に真実を隠して治療を受け、消滅したこと。
私が自分だけの時間を取り戻せたのを両親が心から喜んだこと。
それによって二重人格の方の治療を気にする必要がなくなり、癌が治ったこと。
嬉しさや喜びの中に、悲しみが混濁する。
来亜は、『さようなら』と言った。
もう、自分が現れることはないのだと。
彼女はそう示した。
そしてようやく、最後の日記に書いてあったことも理解したのだった。
「らい、あぁ······」
――――来亜がいなきゃ、楽しめないよ······。
私は来亜との交換日記を楽しみにしていた。
あれが私の一番の楽しみだった。
姿形は同じでも、全く別の人格。
来亜は私の半分だった。
彼女が何を見て、どう感じたのか。
それが文面からよく伝わってきたあの日記。
それを見ることは、もうできない。
全ては過去の思い出にすぎないのだから。
月光が照らす漆黒の夜。
静まりかえった夜に、一人の少女の泣き声が木霊したのだった。