第三話 夏休みの二人旅
あの日から、大した問題もなく楽しい学校生活を送っていた。
来亜が莉乃を演じることによって、これまで通り友達も出来た。
高校二年生の今、周りは徐々に受験モードへと切り替わっていくが、莉乃と来亜には関係のないこと。
卒業すれば、生命の灯火は消え去るのだから。
今日、終業式が終わった。
来亜は、莉乃の両親と癌の治療の話を進めていた。
フランスのパリに腕のいい医者がいるらしく、莉乃の癌が治るかもしれないということだった。
来亜は迷うことなくフランス行きを決定した。
そのことについて日記に書く時、来亜の目には影がかかっているように見えた。
《莉乃、フランスに腕のいい医者がいるらしい。癌が治るかもしれないんだって!と、いうことでフランス行くことにしたから!》
「はあああ!?ちょ、来亜何勝手に決めてんのよ!」
日記を見た時、私は思わず叫んでいた。
夏休みが明けたら出発するらしい。
私に相談もせずに即決した来亜にぶつぶつと文句を言いながらも、癌が治るかもしれないということに胸を踊らせてもいた。
莉乃は、来亜の提案により旅行をすることにした。
初めての一人旅――正確には二人旅だが――だ。
待ちきれないというように鼻歌を歌いながら、旅行の準備を進めていた。
「お母さん、お父さん、行ってきまーす!!」
「「行ってらっしゃい」」
意気揚々と出掛けていった。
向かう先は自然を体感できる場所。
透き通るような透明さを帯びた海、満点の星空に新鮮な空気。
それらが全て揃っている天国のような場所を見つけたのだ。
そこに行くことを決定するのに、二秒とかからなかった。
「わぁー!きれーい!」
船の甲板から身を乗り出す。
海面が日光に照らされ、キラキラと輝いている。
雲一つない晴天の下、海の宝石は最上級の輝きを放つ。
これ以上ない天然の宝物庫である。
さて、船を降りたはいい。
そこである考えに至る。
それは、こんな田舎まで来て何をするか、である。
実はノープランなのだ。
「開放感あるとこに行きたい!」という莉乃の一声で場所は決まったものの、何をしたいかと言われれば答えられないのが現状で。
「······どうしよう」
と、こうなるのである。
しかも不幸なことに、楽観的思考の莉乃が表に出ているのだ。
何かしら問題が起こるは必然。
結局その日は、日が暮れた後も道に迷って困っていた莉乃を親切な地元の人が宿まで案内して終わった。
翌日、来亜は目を覚まして日記を読んで呆れ返っていた。
(僕の主人格って馬鹿なの······?)
思わず失礼なことを考える程には酷い内容だったのだ。
さすがの来亜も、一日が迷子で終わるとは思っていなかったのだろう。
様々な考えを振り切り、外へ出る。
広大な自然の中は、考え事をするには最適の場所。
自分を落ち着かせ、莉乃と楽しむ為にその一歩を踏み出した。
「······!」
低めの山に登り、目下に広がる景色を眺めていた。
澄み渡る青い空に、ふわふわの雲が浮いている。
碧に蒼にと透き通り、陽光に照らされて輝く海。
どこまでも広がる水平線があり、動物達が楽しく騒いでいる。
都会では見ることの叶わない景色に、来亜は声を奪われていた。
その後も、旅の間中莉乃は森で迷子になったり町で迷子になったり海の沖合で迷子になったりし、来亜は登山を繰り返して初日の景色を一日中眺めていたのだった。
各々がマイペースすぎる旅に満足し、笑顔で帰って行った。莉乃に至っては、フランス行きのことを忘れるくらいに。
本日は第三話と第四話の二つを投稿します。