第一話『解離性同一性障害』と『癌』
私に告げられた病名は、『解離性同一性障害』というものだった。
所謂『二重人格』というものだ。
自分の異変に両親が気づいたのは半年くらい前。
ある日、超アウトドアで本など読んだことも無い私が、辞書のように分厚い哲学書を読み始めたのだから「これは異常だ」と思ったらしい。
しばらく様子を見て、自分達ではどうにもできないと悟ったのだろう。
休日に病院へと連行された。
主人格でも別人格でも、同じ『赤城莉乃』には変わりない。
そんな両親の考えは、医師の一言によって揺らいでしまった。
「娘さんの解離性同一性障害ですが、こちらの治療を進めると癌の治療に影響を及ぼす可能性があります」
癌。
私は、『解離性同一性障害』と同時に『癌』が進行していることも知らされた。
症状が分かりにくく、発見が遅れた為にすでに末期直前の状態だったのだ。
治る確率は低い。
ほぼゼロといってもいいほどである。
「娘さんは······もってあと二年でしょう」
突然の余命宣告。
生きられるという希望を持たせないための配慮なのか、ただ淡々と事実を告げているだけなのか。
その真意は分からないが、私はこれをチャンスと取った。
「お母さん、学校に行かせて。どうせ二年しか生きられないんだから、ね?お願いっ!」
余命宣告直後だというのに、いつもと変わらぬ様子で懇願する。
ショックかと言われれば迷わず肯定するのだが、それよりも学校に行きたかった。
五時間も六時間も付き纏って"お願い"したのが功を奏したのか、翌日から学校へ行くことが認められた。
「うふふっ。学校に行ける〜♪ あ、来亜にも知らせなきゃ」
『赤城来亜』私が、彼女にその名を与えた。
『赤城莉乃の人生を奪った忌まわしき人格』である彼女を好く理由など、両親には存在しなかった。
だから、私が彼女を肯定した。私から生まれた人格とはいえ、私とは別の自我がある。肯定する他ないだろう。
私と来亜は、一日交代で表に出ている。
これは示し合わせたことではなく、来亜という存在が生まれたその時から守られた周期であった。
二人の記憶は共有されることなく、それぞれがそれを所持していた。
故に、二人はその日あったことをこと細かく記し、相手に日記として伝えるという手段を取った。
もはや習慣となった日記を書きながら思いを馳せる。
月が顔を覗かせる刻に、ただ筆を走らせる音のみが響いたという。