第一話 星
「香月!!」
私 日向 乃碧。
「ヒナ!!」
あだ名は「ヒナ」。ひなた、だからヒナ。
「なんだァ。香月にヒナじゃん。」
彼女は妃 椿。
冷静沈着な油断できない女の子だ。
「なんだァって…何? 椿、香月じゃ不満?」
言い返しているのは、春名 香月。
「別に?」
ニヤリと笑う椿。
「もぉ!! 椿ムカつく」
「何やってんだか…。」
クククと笑う彼女は、原谷 痲儒。
とても優しいが、芯がちゃんとある女の子。
「痲儒!! 聞いてよ! 椿が!」
「なんもしてねェよ。黙れよ香月」
その二人のやりとりがとても面白く、私と痲儒は目を合わせてクスクスと笑ってしまった。
「っはよォざいまァす」
意味不明な挨拶を誰もいない教室に叫び、席にドスンと座る。
「意味わかんねェよヒナ」
クククと笑う椿の椅子をガタンと蹴り、提出物を教卓に置く。
「それ、今日提出だっけ?」
香月が筆箱を開けながら聞く。
「だよね、痲儒?」
コクリとうなづく痲儒。
とある席を見つめる。
「…ヒナ、やめろよ」
椿が悲しそうな目をする。
…忘れちゃ駄目なんだよ。
星の事を。
「…ヒナ、もういいよ…」
香月も真剣な表情で私を見つめる。
違う…
まだ、よくない。
星の事は…全く良くないんだよ…。
「乃碧…やめたげて…」
痲儒が下を向きながら私に頼む。
「やめろって!!」
ドンッ
押される私。
「…っ」
椿がやってしまった、という表情を見せる。
「…ゴメンヒナ」
「星の事は…」
星の事は…
「忘れちゃダメなんだよ」
星……。
『チッ…なんなんだよ日向』
『…星の事まだ言ってるんだ?』
『お前も聞いてただろ!』
『…まァ』
誰もいない食堂に"その人"は腰かける。
『…星を覚えてるのは、日向と妃と春名と原谷だけだよ』
『…うん、そうだね。』
チッと舌打ちする。
『ねぇ…星』
『何? 月』
『まだ…星の存在を消そうとしてるの?』
『当たり前。私は、私を覚えてる人物が憎いの!』
『…わかった。星がそういうなら、月も手伝うよ』
『ありがとう、月』
授業はたんたんと終わり、乃碧と痲儒は電車に乗り帰っていた。
「ねぇ、痲儒」
急に私は切り出した。
「何?乃碧」
ニコリと優しい笑顔を振りまく痲儒。
「星が死んでから何年だった?」
痲儒の笑顔が急に固まる。
「…一年と2ヶ月」
星は約一年前
殺されたんだ
アイツに。
その事を私達は知らなかった。
星、あなたは今 天国で
私達の事を笑っていることでしょう。
僕らのキズナは
頑丈なようで
とてももろかったんだ。