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産廃水滸伝 ~産廃Gメン伝説~ 8 残党狩り  作者: 石渡正佳
ファイル8 残党狩り
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タレコミ

 「伊刈さんよう、久しぶりだねえ」珍しい人物が環境事務所を訪れた。東洋エナジアの元社長の水沢だった。一年間の刑期の途中で仮釈放されたのだ。アメラグ選手のように堅太りだった体はすっかり痩せ細り、収監中だったと知らなければ病み上がりにしか見えなかった。

 「どうしたんですか突然」伊刈は驚いて立ち上がった。

 「やっと出てきたんでな、いろいろあいさつ回りだわ」

 「役所にもですか」

 「へん役所がなんぼだよ。俺が挨拶してえのは伊刈さんだけだよ。世話んなったからなあ」

 「それ皮肉ですか」

 「違あよ。産廃はもうやらねえって断っとこうと思ってよ」

 「東洋エナジアはどうなるんですか」

 「どうなるもあるかよ。さっき見てきたばっかだけどよ、あのまんまだよ。炉はもう錆びて穴が空いてたな。一年もほったらかしじゃあなあ。ところがね伊刈さん物好きもいたもんでよ、あんな施設でも売れたんだ」

 「売れた?」

 「ああ買ったのは大阪の金貸しだとよ」

 「おかしいですね。西の人がそんなムダな買い物をしますか」伊刈は東洋エナジアを買ったのが大阪のサンチョーだと知っていたが、あえてしらばっくれた。水沢は伊刈の演技に気付かなかった。

 「そうなんだよ。俺もムショ暮らしが終わるまでにはきれいになりたかったからよ、二束三文で売っちまったんだ」

 「いくらですか」

 「一本だ」

 「一億ですか」

 「一千万だよ。前の社長がよ、二十億でこさえたって聞いたけどよ、借金が十五億あったんだ。借金もゴミもそのまんまだしそれで一千万なら罰金払えるからまあいいかと思ってよ。そしたらやっぱ騙されたよ」

 「どういうことですか」

 「つまりよ、あそこには高速が通る計画があったんだよ。道路が通れば動かねえ釜だって補償金ががっぽりだ。ゴミだって片してくれんだ。あいつらそれを知ってやがったんだな。やっぱ向こうの連中にはかなわんな。だけどよ、俺もやられてばっかじゃ腹の虫がおさまらねえからよ」水沢の話はおおむね逢坂小百合から聞いていた話と符合した。

 「愚痴を言いに来たんですか」

 「そんなんじゃねえよ」伊刈がちっとも感心しないので水沢は持ち前の胴間声を張り上げた。やつれても耳障りな地声の大きさは変っていなかった。「ところでよう、ゆんべ不法投棄があったの知ってっか」水沢は真顔になった。

 「どこですか」

 「なんだ、やっぱ知らねえのか。さすがの伊刈さんもだめだねえ」水沢は得意げな顔をした。

 「犬咬市内ですか」

 「手土産に教えてやらあ。椿海市と境のよ埴輪町って知ってっか」

 「そこならこの事務所から近いですね」

 「ああすぐ目と鼻の先くれえだよ。だけどちょっとわかりにくい場所でよ、昔な残土で埋めた谷津があんだよ。そこにゆんべ穴をあけたらしいな。こっからだと旧道を上がってすぐに左に行く農道があんだよ」

 「鉄塔のとこですか」

 「ああそうだ。そこを曲がってすぐまたに左にな谷津に降りる坂道があっから、そこを入ってみな」

 「どうして知ってるんですか」

 「暇なもんでずっと無線ばっか聞いてっからな。坂の途中でなダンプがおっこったんだとよ。かええそうになあ、もう車はだめだろう。ゆんべはそれで大騒ぎでよ。ユンボでダンプ起こしてこぼれたゴミひろって、犬咬じゃゆんべのこと知らねえもんはいねえよ。それで伊刈さんに教えてやろうと思ってきたんだよ」

 「ダンプはまた戻ってきますか」

 「さあねえ、それはあんたら次第じゃねえのか。俺は関係ねえけどな」水沢は言いたいことだけ言うと揚々と引き上げていった。

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