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産廃水滸伝 ~産廃Gメン伝説~ 8 残党狩り  作者: 石渡正佳
ファイル8 残党狩り
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破産管財人

 「陶郷先生という女の弁護士さんから電話があったぞ。銀杏建材興業の山野社長が自己破産したそうだ」仙道が伊刈をデスクに呼びつけて言った。

 「ほんとですか」

 「木くずがまた燃えないか山野が気にしてるんで回収した債権をいくらか現場の措置費に回したいって言ってるぞ」

 「山野もいいとこありますね」

 「自己破産は立派な選択だよ。夜逃げしたり首を括ったりするよりずっといい。陶郷先生が現場に案内してほしいそうだ」

 「わかりました。それでいつですか」

 「できれば今日にもってことだ」

 「気の早い先生ですね」

 陶郷弁護士をピックアップするために伊刈は所長車のクラウンを借りて朝陽駅に向かった。ゴミの臭いがしみついたXトレールでは女性弁護士に失礼だと思ったのだ。陶郷は既に駅についていた。田舎の駅には場違いな上質のオーダーメードスーツと使い込んだエルメスのバーキンはすぐに見分けがついた。

 「お早いお着きでしたね」伊刈は珍しく社交辞令を言った。

 「予定の電車に乗り遅れたから特急に乗ったら追いこしちゃったのよ」

 「なるほど。山野社長はお元気ですか」言ってからもう山野は社長ではないんだと気付いた。

 「ええ大丈夫よ。債権者が来なくなってずいぶん落ち着いたわ」

 「山野さんの家を見てきました。更地になってしまいましたね」

 「ご自宅は競売にかけたの。古かったので建物は取り壊してしまったわ」

 「山野さんが連帯保証人になっていた宝企業の社長が借金苦で自殺したんでその借金を一千万円背負ったんだって言ってました。今度の自己破産と関係があるんですか」

 「破産人の個人的な事情については教えられないけれど、その社長さんも山野さんに迷惑をかけない方法があったでしょうに残念なことね」

 現場に着くと長嶋と喜多がXトレールで先乗りしていた。陶郷は革靴が汚れるのもかまわずすたすたとチップの山に登っていった。転ばないかとはらはらしながら伊刈は陶郷の後を追った。木くずの頂上から見下ろすと煤けたまま修理されずに放置されていた自走式大型破砕機が消えていた。ローンが滞り重機会社が現物回収したのだ。

 「ほんとうに温度が高いのね。湯気が出てるわ」陶郷は初めて見る木くずチップの山に目を見張った。

 「八十度くらいあります。中で燃えてるんです」

 「思ったよりも大きな現場なのね。どれくらいの措置費がかかるのかしら」

 「やり方によります。木くずを全部撤去して更地に戻すには何千万円もかかかります。燃え上がらないように覆土するだけなら残土を使えば二百万円くらいでできないこともないですね」

 「そんなに違うんですか。二百万円ならなんとか出せるわ。債権者への配当が減るけど公的債務が優先だから。何か文書が出るといいわね」

 「破産管財人あての文書でいいですか」

 「私あてでかまわないわ」

 「ありがとうございます。覆土をすれば温度が下がって落ち着きます。中でじわじわ燃え続けて最後には炭になってしまいます。消防が出動するようなことにはならないと思います」

 「できれば措置をしてくれる業者とか紹介していただけるとありがたいわ」

 「わかりました。できるだけ安くやってくれる業者を探します」

 「あなた話が早くていいわね」陶郷は山を降り始めた。

 「山野さんにお元気でとお伝えください」

 「きっとお伝えするわね」陶郷は最後まで事務的な態度を崩さなかった。

 翌週から伊刈が紹介した業者による覆土作業が開始された。空気が遮断されると木くずチップの温度が下がり火災の危険はなくなった。山野はとうとう一度も現場には現れなかった。地元にはもう合わせる顔がなかったのだろう。

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