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産廃水滸伝 ~産廃Gメン伝説~ 8 残党狩り  作者: 石渡正佳
ファイル8 残党狩り
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昔のよしみ

 「班長、照稲町役場の厚生課長からお電話です。なんでも不法投棄が多発していて班長にご相談したいそうっす」長嶋が伊刈に電話を取り継いだ。

 「照稲? そこは県の管轄だろう」

 「ええそうなんすが班長を個人的にご存知だそうっす」

 「えっ誰?」

 「向後課長さんて方っす」

 「照稲町には向後って苗字が多いんだよ。ま、いっか」伊刈は受話器を取った。

 「はい伊刈ですが」

 「伊刈さん俺だよ覚えてる」

 「ああわかった。向後賢一さんですね。ケースワーカー時代はお世話になりました。課長とは出世されましたね」伊刈は県に入庁間もないころ社会福祉ケースワーカーとして照稲町の生活保護世帯を担当したことがあった。その時の役場の相棒が向後だった。

 「役場ってのは課長までは早いんだけど、その上がもうないからね。そんなことよりおたくらの活躍で犬咬の不法投棄が減ったのはいいけどさ、うちの町が増えちゃって困ってんだよ。今月だけで三件だよ。いままで不法投棄なんて一件もなかった町だからさ」

 犬咬から遠く離れ広々とした水田が広がる照稲町には産廃の処分に適した谷津がなく、これまで不法投棄とは無縁の土地柄だった。

 「そうですか。ご迷惑をおかけしてるんですか」

 「いやあんたらが悪いってんじゃないけどね、知恵を貸してほしいんだよ」

 「県がパトロールしてるんじゃないですか」

 「そりゃそうなんだけどさ、犬咬からダンプを追い出した伊刈さんの活躍はうちの町にも届いてるからさ、ちょっとやり方を教えてほしいんだよ。県がだめってんじゃないんだよ。うちの町は農業が中心だろう。ゴミは困るんだよ。風評被害とかあるだろう。県に任せて手をこまねいているわけにはいかないからさ」

 「わかりました。それじゃアドバイスだけってことで」

 「うん悪いね。よそには内緒にしとくから頼むよ」

 伊刈は長嶋だけを連れて照稲役場に向かった。空港関連の騒音地域振興事業で田んぼの真ん中に建てた役場庁舎は別棟の議会等、公民館兼体育館、さらに図書館まで併設した人口一万人未満の町には分不相応なほど立派なものだった。もっともその程度のことなら国際空港、原子力施設、米軍基地などを受け入れている地域では珍しくない光景だ。地元対策のために使われる予算が本体事業を上回ってしまうこともある。日本の空港使用料や電気料金が世界一高いのは、そのせいでもあるのだ。

 向後課長じきじきの案内で不法投棄現場に急行してみると民家が連たんした交差点の空き地にダンプ一台分の廃材が棄て逃げされていた。何万台もの大規模現場を見慣れた目にはたった一台の現場はまるで米粒ほどにしか見えなかった。それでもとても目立つ場所で大胆不敵な犯行には違いなかった。

 「これはダンプ単独の建廃の捨て逃げ現場ですね」伊刈が廃材を手に取りながら言った。

 「実はね、こういう捨て逃げはうちの町だけじゃなく隣の野宮町や八鹿市にも広がってんだよ。県はパニックになってるらしいよ」

 「ほんとですか」向後課長の言葉に伊刈が長嶋を振り返った。

 「それは自分も聞いてます」長嶋が言った。

 「たぶんこれまで犬咬に集まっていたダンプがあちこちに広がって捨て逃げしていくんだろうねえ」向後が腕組みした。「それにしてもなんでよりによってここらへんに捨てるのかね」

 「無線と関係あるかもしれないですね」伊刈が直感的に答えた。「ちょうどここらへんは犬咬から十キロだからトラック無線が届く限界ですよね。無線のスイッチを入れたら犬咬の穴がやってないと聞いてUターンしたついでに棄てていくんじゃないかな」

 「なるほどそれは理屈だねえ」

 「Uターンダンプ連続ゲリラ事件ですね」

 「弱ったなあ。どうすりゃいいんだい」

 「捨て逃げは証拠が露出していますから調査は簡単ですよ。社名とか個人名とか出所がわかる証拠を拾っておいてもらえますか」

 「わかったやっとくよ」

 管轄外の現場の調査をするわけにはいかなかったので伊刈たちは現場を確認しただけで引き上げることにした。

 「班長、なかなか不法投棄は難しいすね。大物が片付いたと思ったら今度はゲリラすか。これじゃきりがないっすね」長嶋がからの帰り道に言った。

 「パニックになる必要はないよ。これは末期症状だと思う。大規模現場が一つ閉鎖されればゲリラが十件派生するのはしょうがない。事件数が十倍になっても投棄量は千分の一だからトータルでは百分の一に減ってるんだ。慌てず冷静に対応すれば今こそ不法投棄ゼロを実現できるチャンスだと思う」

 「でもゲリラが広域に広がってるみたいすからね。管内が広い県は大変すね」

 「県庁だってうちと同じ指導をすればいいんだよ」

 「そう簡単には真似られませんよ」

 「とにかくここが踏ん張りどころだよ」伊刈には勝算がありそうだった。

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