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産廃水滸伝 ~産廃Gメン伝説~ 8 残党狩り  作者: 石渡正佳
ファイル8 残党狩り
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初めての講演会

 オザワホームの西山課長は全国プレハブ住宅連盟の理事会に諮って約束どおり伊刈の講演を実現させた。参加者三十人の小さな勉強会はその後数百回も続くことになる伊刈の講演の魁だった。伊刈は独自に書き溜めていた原稿から講演用のレジュメを作成し、現場写真をパワーポイントスライドに加工した。

 「初めて不法投棄現場に立ったときの衝撃、初めて試みた夜間パトロールの醍醐味、会計書類の検査、ダンプ軍団の撃滅、それがすべてたった一年の間に起こりました」伊刈が話し始めると場内が静まり返った。本省の官僚の上目線の話とは全く違った現場目線の生々しい講演は衝撃的だった。

 講演後、伊刈はプレ連の理事を務めるセキネハウスの赤谷環境推進部長から環境省の課長を招いたときのエピソードを聞かされた。「ミスター産廃」を自称し廃棄物処理法の大改正をリードしたという嘉田課長は壇上に登るや「みなさん(ハウスメーカー)が一番悪いんです」と言って帰ってしまったというのである。環境省から頭ごなしに誹謗され、どうやって汚名返上していいか業界として手詰まりになっていたところに、不法投棄は構造問題だと説く伊刈が新星のごとく登場したのだ。上から目線の官僚と現場人間の伊刈は好対照だった。伊刈が不法投棄の構造的な背景をまとめたレジュメを見た人は一様に「無料で配布するのはもったいない。出版すべきですよ」と勧めた。

 プレ連の講演を契機に他の住宅団体も参加する日本住宅協会からの講演依頼が来た。さらにゼネコンが参加する建設団体連合会の講演依頼が続いた。伊刈の人気ぶりは環境省から悪玉扱いにされてきた建設・住宅業界の苦悩の裏返しだった。講演要請はさらに、食品、エネルギー、精密、家電、建設機械、製紙などあらゆる業界に広がり、目から鱗のプレゼンテーションはどの業界からも喝采された。経済産業省、農林水産省、国土交通省、さらにそれらの関連団体からの講演依頼も少なくなかった。環境省からは無視され、産業廃棄物関連団体からの講演依頼もなかった。元祖ミスター産廃の嘉田課長に気を使ったのだろう。

 自治体からの講演依頼も少なくなかった。最初は大和環境逮捕後、不法投棄問題への関心が高まっていた新潟県からだった。タレント知事として有名な畑中知事は伊刈の名前を忘れていなかった。行政はポストがすべてで個人に着眼することはまずない。ところが、畑中は自分のタレント性を意識しているだけではなく他人のタレント性にも敏感だった。

 伊刈は長嶋を伴って新潟市に出張しパンダルームと皮肉られていた一階ロビーのガラス張りの知事室で畑中に挨拶した。県議会で不信任案を決議され辞職するか議会を解散するかという決断を迫られている最中にもかかわらず畑中は余裕の表情だった。

 講演の翌日伊刈と長嶋は大和環境検挙の端緒となった不法投棄現場を視察した。別荘地の奥の廃業したテニスコートには料金所に使われた小さなコンテナが残っていた。林道にかぶさる木立が産廃ダンプの荷台の形に削られて四角いトンネルになっているのがなんだか滑稽だった。さらに足を伸ばして避暑地で有名な軽音沢警察署に案内してもらった。署長室の後ろに皇室関係者を保護するための特別室があって、そこが警察関係者の視察スポットになっていたのだ。

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