表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ゴールテープ

作者: よーた

ある冬の夕方。僕は大学生の頃の友人と飲むために居酒屋に来ていた。連絡はよく取り合っているのだが、こうして二人きりでお酒を飲むのはかなり久しぶりな気がする。

店へと入ると彼はもう待っていた。こちらに気がつくと片手をあげて合図する。僕も手をあげ合図を返すと隣の椅子に腰をかけた。

「悪いなカウンターで」

「今更そんなことを気にする歳でも間柄でもないだろ」

店員を呼んでビールを注文する。友人は芋焼酎水割りのおかわりだという。

「いつから居たんだ?」

「30分は前かな。ところでお前さん、こないだ賞を貰っていただろう。凄いじゃないか」

「ああ、読んだのか」

「もちろん」

なぜか彼は得意げな顔をしている。

「実はあの賞がきっかけでな、出版社の人から声が掛かってな。丁度今日原稿を出してきたところだ」

「ほう。今度からは『先生』って呼ばなきゃだな」

「よせよ。それじゃあ僕は君のことを『係長』って呼ぶぞ」

「残念な話なんだがな……俺、係長じゃなくなったんだ……」

唐突に神妙な面持ちをしだす友人。つられて僕も真剣な声色になってしまった。

「まさか……」

「ああ。先月から課長になっちまったんだ……」

「心配して損したぞ」

「はっはっは、そいつは悪い事をした」

「とにかく、めでたい事だな。綺麗な奥さんに可愛い娘、仕事まで順調ときたら幸せの真っ盛りなんじゃないのか?」

少し皮肉めいた言い回しだっただろうか。いや、こいつは皮肉は通じないんだった。

「いやいや」

手をヒラヒラさせながら彼は笑った。ほらな。

「まだまだこれからさ。むしろ大変なのはこれからだからな」

「そんなものなのか」

「そうさ。むしろお前さんだって長年の夢が叶いそうなんだ。幸せじゃないのか?」

僕は今。

「幸せ……なんだろうな。まだ実感はないけど」

それから、娘の自慢や育成計画なるものを熱く語られたりし、日付が変わる頃お開きとなった。


数ヶ月後、いよいよ僕の本が販売される日がやってきた。意気揚々と最寄りの書店へと足を運ぶ。僕の本が大きく陳列されていた……はずだった。しかし目に入るのは人気のある小説家の本ばかり。僕の本など存在していないようだった。いや、存在はしていた。コーナーどころかPOPすら作られておらず、新刊たちの片隅に置かれていた。

そうか。そうだったんだな。彼の言葉をようやく理解することが出来た。

「まだまだこれからさ」

小さくつぶやいて僕は書店を後にした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 酒を酌み交わせる仲の友人がいるという幸せが描かれているところが良かったです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ