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包帯公爵の結婚事情  作者: 奏 舞音
番外編②
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仮装パーティーの夜に―前編

もうすぐハロウィンですね! ということで、ハロウィンイベントネタで番外編を書きました。

ハロウィンの10/31に完結予定の前中後編となっております。


お楽しみいただけますように。

 屋敷に帰ると、可愛らしい足音が近づいて、アルフレッドを出迎える。

「アルフレッド様、お帰りなさいませ」

 愛しい妻の天使のごとき笑顔をみるだけで、その日の疲れが吹き飛ぶ。

 しかし何やら、いつもよりもソワソワしている気がする。

「シエラ、何かいいことでもあったのか?」

「ふふ、分かりますか?」

 嬉しそうに弾む声で、シエラが上目遣いで問う。

 分かるに決まっている。

 どれだけアルフレッドがシエラを愛しく思っているか。

 こうして見つめられるだけでも、脳内には花畑が広がっていく。

 シエラが側にいてくれるだけで、年中冬のように冷たかった心が、あたたかな春の陽気に包まれる。

 しかし、シエラを喜ばせるのは夫である自分がいい。

 一体、どんないいことがあったというのか。

「それで、どんなことがあったんだ?」

「アルフレッド様もお疲れでしょうから、お話は後にしましょう」

 そう言って、シエラはアルフレッドが着ていたコートを脱がせ、にこにこと先を歩く。

 たしかに玄関ホールで立ち話もなんだ。

 アルフレッドはスキップでもしそうなシエラの足取りを後ろから見守りながら、私室へと向かう。


「ご夕食はどうなさいますか?」

「頂こう」

 アルフレッドの返事を聞いて、シエラはゴードンに伝えてくると部屋を出た。

 着替えも済ませ、ひと息ついたところで、シエラが夕食を運んできてくれた。

 夕食は二人分あった。

 今日は帰りが遅くなると伝えていたはずだが、もしや。

「シエラもまだ食べていなかったのか?」

 予想通り、シエラはこくりと頷いた。

「先に食べておくように伝えていただろう」

「それでも、お話したいこともありましたし、アルフレッド様と一緒に食べたかったのです」

 いけませんか? と可愛く問われ、駄目だなんて言える男はいないだろう。

 アルフレッドはだらしなくにやける口元を押さえ、首を振った。

「いや、とても嬉しい」

「さあ、アルフレッド様、食べましょう」

 シエラと向かい合い、食卓を囲む。

 テーブルには、かぼちゃのスープ、きのこたっぷりのパスタなど秋の味覚をたっぷり使ったメニューが並んでいる。


「今日、メリーナと街へ出かけた時に、旅芸人の方の話を聞いたのです」

 嬉しそうに、早速シエラが話し始める。

「アルフレッド様は、ハロウィンというお祭りを聞いたことがありますか?」

「あぁ。たしか、異国の祭りで死者の魂を慰める祭りだったか……」

「さすがアルフレッド様! なんでもご存知なんですね!」

「いや、そんなことはない。それで、そのハロウィンがどうかしたのか?」

「ハロウィンの時期には悪霊もこの世に現れることもあるため、祭りの期間中、人々は悪霊を追い払うために仮装をするそうなんです! ちょうど旅芸人の方が色々な仮装をしているのを見て、わたしもやってみたくなって……というか、アルフレッド様の仮装が見たくて……」

 後半、シエラがぼそぼそと何を言っているのか聞き取りにくかったが、初めて目にしたハロウィンの仮装に興味を持ったということは伝わってきた。


「たしかに、面白そうだな」


 アルフレッドがふっと笑うと、シエラはばっと顔を上げて口を開く。


「でしたら、あの、アルフレッド様! 一緒に仮装パーティーをしませんか!?」


 勢いよくシエラが言うものだから、アルフレッドも反射的に頷いていた。

 すると、シエラはその虹色の瞳をきらきらと輝かせて口を開く。


「よかったですわ! 実は、その旅芸人の方からいくつか仮装用の衣装をもう買っているのです!」


 仮装パーティーに意気込むシエラが可愛くて、アルフレッドは笑みをこぼす。


(本当に、シエラがいてくれるだけで私の周囲は明るくて賑やかになるな)


 他人を寄せ付けず、自己嫌悪ばかりで暗く沈んでいた自分が、こんな風に笑えるようになるとは。

 まして、包帯公爵として恐れられていた自分が、仮装パーティーに参加するなんて。

 すべてはシエラに出会ったから。

 シエラとなら、どんなことでも楽しめるし、幸せだと自信をもって言える。


「仮装パーティー、楽しみだな」

「はいっ!」

 眩しいくらいの笑顔が、アルフレッドに向けられる。

 幸せだ。


 たとえ、シエラが用意した衣装がアルフレッドにとって羞恥に耐えられないモノだったとしても……。

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