表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
包帯公爵の結婚事情  作者: 奏 舞音
新婚旅行編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/204

第22話 失いたくない幸せ


 幸せは、いつも突然奪われる。

 〈ベスキュレー家の悲劇〉――あの日から、アルフレッドの幸福はきっと長続きしないものになってしまったのだろう。

 シエラに出会って、少しは変わったと思っていたが、そうではなかった。


 ――やはり、私には幸せを手にする資格などない、ということだろう。


 瞼を閉じる度、シエラの笑顔が浮かぶ。

 しかし同時に、拒絶の涙を浮かべた、彼女の傷ついた顔も。

 胸が痛い。苦しい。

 十年前から一度も流れることのなかった涙が頬を伝う。

 アルフレッドは一人、シエラを思って泣いていた。

 新婚旅行で、二人の愛を深めるはずだった。

 それがどうしてこうなってしまったのか。

 頭では理解していても、感情が追い付かない。

 だって、つい昨日までは二人で愛を紡いでいた。

 それが突然、こんな風に変わってしまうなんて。

 

 ――魔女殺しめ。


 ふいに思い出す。

 イザベラを目の前にして聞こえた、美しくも恐ろしい声。

 その言葉には、恨みが込められていた。

 あの声は、一体何だったのか。

 何故、アルフレッドだけに聞こえたのだろうか。


 “魔女殺しの国”から来た、【包帯公爵】。

 “魔女殺しの国”に呪われた、王女イザベラ。

 【包帯公爵】を忘れた、【盲目の歌姫】。


 何かが、引っかかる。

 共通点は、“魔女”と“呪い”。

 魔女と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、グリエラの顔だ。

 黒髪に、赤い瞳。優しく、穏やかな魔女だった。


(イザベラ王女も、同じ特徴だ)


 魔女とロナティア王国に、何らかの繋がりがあるのだろうか。

 しかし、イザベラの周囲で起きる不吉な出来事は“呪い”ではない。

 いや、“呪い”であってはならない。

 〈呪われし森〉の外に、魔女の痕跡を見つけるなど、あってはならないのだ。

 だがもし、その前提が、間違っていたのなら。

 あり得ないはずのことが、起きているのだとすれば。


「イザベラ王女の呪いは、()()なのか……?」


 取り戻せるかもしれない。

 シエラとの日々を。シエラの愛情を。

 そう願いたいだけだということは分かっている。

 それでも、アルフレッドは知っている。

 魔女が実在したことも、その呪いは本物だということも。

 愛する人の幸せのためなら、自分はどうなってもかまわない。

 だから、アルフレッドが側を離れることが本当にシエラの幸せになるのなら、黙って身を引く。

 しかし、何もせずに諦められるほど、シエラへの愛情は薄くない。


 ――せっかくあなたを手に入れたのですもの。わたしが手放すはずないじゃありませんか。


 あの時のシエラの笑顔と言葉が、アルフレッドにとっての真実だ。

 十年間、アルフレッドのことを想い続けてくれた彼女のために、今度はアルフレッドが想いを貫こう。


「私も、シエラを手放したくないからな」


 唇に薄く笑みを浮かべ、アルフレッドは呟いた。


 ――コンコン。


 頃合いを見計らったように、ノックの音が響く。


「【包帯公爵】様、あなたに謝らなければなりません」


 アルフレッドの客間を訪れたのは、黒髪に赤い瞳を持つ、呪われた王女イザベラだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 謝って済む段階はとっくに終わってるしもう二度と許されないことしたんだけどね、この馬鹿王女┐(; ̄д ̄)┌ シエラの前で、アルフレッドの手で、この王女を殺せば少なくともアルフレッドが王女になん…
[一言] マジで呪いなん? それはそれでなんか切ないな(-_-)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ