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包帯公爵の結婚事情  作者: 奏 舞音
新婚旅行編
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第15話 王女の提案

「そういえば、イザベラ王女様は、いつからアルフレッド様のことをご存知だったのですか?」

「いつだったかしら。でも、一年くらい前に【包帯公爵】の噂を知ったわ。会ったことはなかったのだけれど、包帯の謎に包まれた紳士って、なんだかすごくミステリアスで素敵だなって思っていたの。あ、でもシエラさん、誤解はしないでね。恋とかではないのよ。う~ん、どちらかといえば憧れかしら? わたくしも、本当の自分の姿を隠して、別のものになれたらいいな、と思うこともあるから……」


 にこやかに話していたが、最後の言葉には王女の苦悩が垣間見えた。

 嫌がらせのようなことが身の回りで起き、不吉だ、呪いだ、と言われ、国同士の問題にも発展しようとしている。

 自分が望もうと望むまいと、王女である限りイザベラは中心に立たされてしまう。

 王女である自分から逃げたい時もあるだろう。

 夜会などの不特定多数の人間がいる時に、冷ややかな態度をとっていたのは彼女なりの自己防衛なのかもしれない。


「イザベラ王女様は、薔薇がお好きなのですね」


 室内を見回して、シエラが微笑む。

 イザベラの私室には、薔薇模様の壁紙や調度品だけでなく、花瓶にも立派な薔薇が活けられている。

 薔薇は、ロナティア王国の国花。そして、特産品でもある。

 王女の部屋にあっても不思議ではないが、ここまで揃えているとなると趣味嗜好に関係するだろう。


「えぇ、大好きよ。でも……わたくしが育てた薔薇だけ、すべて枯れてしまったわ」


 そう言って、イザベラは目を伏せた。

 最初は悪天候が続いたり、植物が枯れたり、という日常起こり得るものだったとエドワードも言っていた。


「それは、お辛いですね」

「でも、わたくしに薔薇を育てる技量がなかっただけかもしれないわ……」


 イザベラは無理に笑みを作ってみせた。

 天候は偶然だろうが、イザベラが大切に育てていた薔薇が枯れたのは人為的なものだろう。

 そこから、呪いの演出が始まったのかもしれない。


「イザベラ王女様、わたしで力になれることがあればおっしゃってください」

「シエラさん、ありがとう。それなら、今日からずっと、わたくしの友達でいてくれるかしら?」

「もちろんですわ」


 シエラは不安そうなイザベラを安心させるように微笑んだ。


「イザベラ王女様、妻だけでなく、私もいます。何かあれば頼りにしてください」


 シエラに続いて、アルフレッドも大きく頷いた。


「お二人とも、本当にありがとうございます。嬉しいですわ」


 目にうっすら涙を浮かべて、イザベラがにっこりと笑う。


(王女と友達になれ、というのはシエラに負担しかないと思っていたが……)


 イザベラがシエラに好意的だったこともあり、アルフレッドは内心でほっと息を吐く。

 エドワードからの頼みではあったが、シエラが本気で嫌だと言えば断るつもりだった。

 しかし、心優しい愛しい妻はイザベラの事情も心配して、笑って協力してくれる。

 元々アルフレッドは話すのが得意ではないため、会話はシエラとイザベラの二人で盛り上がっていた。


「シエラさんの歌も、是非お聴きしたいわ。女神の加護を得た歌姫なんて、さぞ素晴らしいのでしょうね」

「はい。シエラの歌声は言葉では言い表せないぐらい美しく、心を癒してくれますよ」


 イザベラの言葉に、アルフレッドは大きく頷いてみせた。

 そんなアルフレッドの言葉に、褒めすぎです、とシエラは照れたように首を振る。


「でも、そんなに素敵な歌声なら、やっぱりそれなりの舞台が必要よね」

「それなら是非、イザベラ王女様のご結婚祝いの席で披露させてください!」


 問題が解決して、イザベラが無事にヴァンゼール王国に嫁ぐことができたなら。

 二人の幸せを祝う歌を贈らせてほしい――と。


「ありがとう! とっても嬉しいわ」


 シエラの思いが伝わったのか、イザベラは目頭を押さえて感謝の言葉を口にした。

 

「ロナティア王国の料理はお口に合いましたか?」


 テーブルから料理が下げられ、イザベラが問う。


「はい! とっても美味しかったですわ。イザベラ王女様、ありがとうございます」

「ヴァンゼール王国にも海鮮料理はありますが、やはり鮮度が違いました。とても美味しかったです。昼食をご一緒させていただき、ありがとうございました」


 二人で料理の感想と礼を言う。

 イザベラの私室にいつまでもいる訳にはいかない。

 そろそろ失礼しようという空気になった時、イザベラが目を輝かせて口を開いた。


「そういえば、お二人は新婚旅行でロナティア王国にいらしたのでしょう? どこか行きましたの?」


 新婚旅行だけに集中できる状況ではない、とはイザベラの手前言えず、アルフレッドは曖昧に首を振った。


「いいえ、まだ……」

「あら。それはいけませんわね」


 イザベラはそう言うと、部屋に控えていた彼女の侍女に何やら耳打ちした。

 そして、きれいな笑みを浮かべてアルフレッドとシエラを見た。


「では、これから植物園へ行きましょう!」


 イザベラの一言に、アルフレッドとシエラは二人してポカンと固まった。


「実は、最近わたくしの周囲で色々ありまして、ほとんど外に出ていなかったのです。でも、お二人と一緒にお食事をしている時に何も問題ありませんでしたし、もしかしたら【包帯公爵】様の効果があったのかもしれませんわ。そうすれば、ヴァンゼール王国の呪いなどない、と、皆さんに分かってもらえるのではないか、と思ったのですけれど、お二人にご迷惑をおかけすることになりますし、やはり駄目でしょうか?」


 なるほど、とアルフレッドは思考する。

 アルフレッドが危惧していたのは、一緒にいることで何かあった時にすべてをヴァンゼール王国の呪いとされることだった。

 しかし、逆をいえば、【包帯公爵】と一緒にいて何事もなければヴァンゼール王国の呪いなどなかったのだ、と言い張れる。

 そして、実際に嫌がらせの犯人を捕らえてしまえば本当の問題解決だ。

 狙われているイザベラの近くにいれば、その機会は巡ってくるだろう。

 イザベラは、周囲で起きているのが本物の呪いなどではなく、ヴァンゼール王国との関係をよく思わない者からの嫌がらせだということを分かっている。


「そうですね。イザベラ王女には何の憂いもなくヴァンゼール王国へ来ていただきたいですから……シエラ、私はこの申し出を受けたいと思っているが、どうする?」

「わたしも賛成ですわ。呪いなんて、誰のことも幸せにしませんもの」


 シエラはアルフレッドの問いに頷いた。

 呪いは誰のことも幸せにしない。

 一度、〈呪われし森〉で、自らを呪った二人は、同じ気持ちで微笑んだ。


「よかったですわ! あそこのローズガーデンは本当に素敵なのよ」


 そう言って、イザベラは満面の笑みを浮かべた。

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