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包帯公爵の結婚事情  作者: 奏 舞音
新婚旅行編
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第9話 王子との密談


 舞踏会が終わり、客間に戻ると、早速王子の使いの者が現れた。

 心配そうなシエラに大丈夫だ、と頷いて、アルフレッドは王子の私室へと向かう。

 廊下の天井には見事な金の装飾と壁画が施されていた。

 これだけの芸術だ。ヴァンゼール王国の画家が関わっているのは間違いない。

 もちろん、設計に携わったベスキュレー家の先祖たちも。


(壁や天井の細部にまで、かなりこだわっているな……私もいつか、宮殿を手掛けてみたいものだ)


 先祖の素晴らしい技術と芸術を前に、物づくりの血がうずく。

 いくら学び、最先端の道具を手にしようとも、先祖が残した建造物にどうしたって勝てる気がしない。

 追いつけるだろうか。

 ミュゼリアの加護を得た、かつてのベスキュレー家の者たちに。

 物思いにふけっているうちに、王子の部屋へ着いたらしい。


「失礼いたします」


 使いの者の後に続いて、アルフレッドも室内へと入る。

 壁紙や絨毯が深い青で統一されており、深い海の底にいるような落ち着いた雰囲気の部屋だった。


「新婚旅行の初日から呼び出して悪かったね」

「いえ」

「さあ、どうぞ座って」


 エドワードに笑顔で迎えられ、アルフレッドは向かい側の椅子に座る。

 夜会も終わり、私室で休んでいたのだろう。

 エドワードはジャケットを脱いで、胸元を少しくつろげていた。

 アルフレッドの方はというと、王子の手前、夜会の時と同じように正装で乱れたところはひとつもない。

 だが、リラックスした様子のエドワードに対して、少し身構え過ぎたかもしれない。


「舞踏会では随分と仲睦まじい様子を見せてもらった。幸せそうで何よりだよ」


 そう言いながら、エドワードはアルフレッドに赤ワインをすすめてくる。

 ロナティア王国産の高級ワインだ。


「……恐れ入ります」


 二人で軽く乾杯し、濃厚な香りのワインを口に含む。

 非常に飲みやすいが、アルコール度数は高いだろう。

 アルフレッドは酒に弱い訳ではないが、他国の王子に酔わされる訳にはいかない。


「早速だが、君を呼んだのは他でもない。僕の妹の周囲で起きている異変についてだ」


 それまでの穏やかな空気が一変、緊張が走った。


「具体的にどのような状況かはまだ私にも分かりませんが、ヴァンゼール王国は一切かかわっていないと断言します」


 エドワードの狙いはまだ分からないが、ヴァンゼール王国がロナティア王国に害をなそうとしていないことは先に伝えておく。

 この現状でアルフレッドたちに疑いの目が向けられてしまえば、シエラにも危険が及ぶ。


「それは分かっているよ。ザイラック陛下に、ロナティア王国内でヴァンゼール王国の良からぬ噂が流れていることを教えたのは僕だから」

「……そう、でしたか」


 ザイラックの情報源はエドワードだった。

 ただの噂話ならば放置するかもしれないが、王子直々の情報とあっては、ザイラックも動かざるを得なかっただろう。


「それで、信頼できる者を寄越して欲しい、と頼んで現れたのが君だった。あ、イザベラが【包帯公爵】に興味を持っていたのも本当だけれど」

「どうして、そのようなことを……?」

「国内の噂話で、ましてや妹のことなんだから、わざわざヴァンゼール王国を巻き込まなくてもって?」

「いえ、そういう訳では。我々の力を借りなければならないほど、事態が深刻ということでしょう。それに、イザベラ王女様はクリストフ様の婚約者。ヴァンゼール王国も気にかけるべきことです。私が引っかかったのは、エドワード王子殿下が何故ヴァンゼール王国のためにそこまで動いてくださるのか、ということで……」


 ロナティア王国で流れている噂や、イザベラの身に何が起こったのかはまだ具体的には分からない。

 しかし、エドワードがロナティア王国内で流れている噂の真偽を確かめるために、ヴァンゼール王国へ国内情勢について話すなどリスクが高い。

 それだけ友好国であるヴァンゼール王国を信頼してくれているといえば聞こえは良いが、何か裏があるのではないか、と勘繰ってしまう。


「ザイラック陛下の人選は間違っていないようで安心した」


 ふっとエドワードの纏う空気が緩くなって、アルフレッドの方が戸惑う。


「僕はヴァンゼール王国とは友好関係でいたいだけだ。根も葉もない噂話に踊らされる馬鹿にはなりたくない。ロナティア王国とヴァンゼール王国の関係を崩そうとしている何者かが、でたらめな噂を流していると僕はみている。実際にヴァンゼール王国の者がいた方が、その真偽が分かるだろう? それに、イザベラにはちゃんとヴァンゼール王国に嫁いでもらわないと困る」


 ヴァンゼール王国は、生活資源のほとんどをロナティア王国から輸入している。

 しかしその分、様々な技術を輸出しているため、二国の関係は対等で、友好関係が続いていた。

 とはいえ、国同士でいざこざが全くなかった訳ではない。

 輸出入の課税について、技術者の派遣について、細かい部分でもめたことは過去に何度もある。

 しかしその関係に亀裂が入らなかったのは、互いに友好国でいる利益の方が大きかったからだ。


(イザベラ王女は、二国の関係をうまく保つための調整役か……)


 しかし、その調整役となるはずのイザベラの存在が、ヴァンゼール王国との亀裂を生みかけている。

 ヴァンゼール王国としても、ロナティア王国と友好関係が崩れることは望んでいない。

 ここはエドワードと協力すべきだろう。

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