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包帯公爵の結婚事情  作者: 奏 舞音
新婚旅行編
43/204

第3話 夫の隠しごと


「そういえば、どうして新婚旅行の行先をロナティア王国にしたのですか?」

「……陛下に聞いたんだ。シエラが、ロナティア王国に行きたいと話していた、と」

「まあ!」


 嬉しくて、シエラは思わずアルフレッドの手を握った。

 包帯越しのその手はシエラの手をすっぽりと包みこんでしまう。


「シエラは、音楽旅行で外国によく行っていたんだろう?」

「えぇ。実は、ロナティア王国にも一度行ったことがあるのですが」


 そこで区切ると、アルフレッドの身体が一瞬強張った。


「初めてではないのか!? ……くそ、陛下に騙された」


 何やら頭を抱えてブツブツと呟いている。


「わたしは、アルフレッド様と初めて旅行に行けるのがとても楽しみなのです。それに、ロナティア王国に行きたいと言ったのは、好きな人と一緒に行きたい場所があったからで……わたしも忘れていたのに、ザイラック陛下がまさか覚えていたなんて驚きですわ」


 三年ほど前、シエラはロナティア王国を音楽旅行で訪れた。

 滞在中は毎日夜会や音楽会で歌っていたので観光はまったくといっていいほどしていない。

 しかし、夜会で恋人たちの聖地があると聞いたのだ。


 ――〈愛の石〉に愛を誓えば、二人は永遠に結ばれる。


 絶景が多いロナティア王国だが、なかでも海辺は本当に美しい。

 〈愛の石〉というのは砂浜にうまっているハート型の小石のことだ。

 しかし、永遠の愛を約束してくれる石がそう簡単に転がっているはずもない。

 シエラはまだ再会できていないアルフレッドとの愛を願って、空き時間を使って〈愛の石〉を探したが、結局見つからなかった。

 その話をザイラックにしたことがあったのだが、こういう形で自分に返ってくるとは思わなかった。


「だったら、私とそこへ行って〈愛の石〉を探そう」

「はいっ!」


 アルフレッドの優しい声に、シエラは満面の笑みで頷いた。

 幸せだ。アルフレッドと一緒なら、どこにいても幸せだろうとシエラは本気で思う。

 だから、この際思い切って聞いてみよう。


「アルフレッド様、わたしに何か隠していることがありますよね?」

「な、な、何故そう思うっ?」


 口元に笑みを浮かべたままシエラが問うと、明らかにアルフレッドが動揺した。

 声は裏返り、包帯で見えないその目線もどこか逸らされている。


(あぁ、なんてかわいいのっ!)


 他の人には絶対に見せない、アルフレッドの隙だらけの姿。

 シエラに心を許してくれているからこそ、これだけ分かりやすい反応をくれるのだ。

 そう思うと、愛しくてたまらない。

 とは言え、妻に隠し事は良くない。それも、新婚旅行の際中だ。


「出発前から物思いにふけっているようですし、そもそも何故、わたしたちの滞在先がロナティア王国の王宮なのですか? 宮廷舞踏会に招待いただけたのは嬉しいですが、素直に喜んではいけない何かがあるのですよね?」


 約一週間の新婚旅行の間、シエラたちが滞在するのはなんと王宮の一室。

 ヴァンゼール王国でも地位が高いとはいえ、ベスキュレー公爵家は王族ではない。

 それなのに、王宮の一室を貸してくれて、宮廷舞踏会にも招待されるという手厚い待遇。

 いずれアルフレッドから説明があるのだろうと思っていたが、何もないまま当日を迎えてしまったのだ。

 その上、アルフレッドの様子を見れば、嫌でも察しが付く。


「…………」

「もう、またザイラック陛下はアルフレッド様に何か無茶なことを言っているのですね? せっかくの新婚旅行ですのに、ひどいですわ!」


 アルフレッドのためにまとまった休みを取ってくれたのもザイラックだが、彼を悩ませているのもまたザイラックである。


(せっかくザイラック陛下の仕事から戻ってきてくれたのに……!)


 アルフレッドを奪っていくのはいつもザイラックだ。

 相手は国王だが、嫉妬すら覚える。


「怒った顔もかわいいな、私の妻は」


 ふいにアルフレッドがシエラの頬に手を添えて、額にキスを落としてきた。

 それだけで、シエラの顔はみるみるうちに赤くなる。


「あぁ、せっかくのシエラとの新婚旅行だ。陛下のお願いなんか無視してシエラを抱きしめていたい……」

「わたしも同感ですが、そんなことをすればきっと国に帰った時にアルフレッド様が大変なことになってしまいますわ。わたしはアルフレッド様の妻です。お力になれることがあれば、全力でサポートさせていただきますわ!」


 そして、アルフレッドとラブラブな新婚旅行にしてみせる。

 シエラはぐっと拳を握り、胸を張った。


「それは心強いな。どうやら私は妻には隠し事ができないようだし、正直厄介なことに巻き込まれて途方に暮れていた。シエラの力を貸してもらえるとありがたい」


 アルフレッドもシエラのことをよく分かってくれている。

 ここでアルフレッドが隠し通したとしても、シエラは自力で調べようとしただろう。

 素直に力を貸してほしいと言われて、シエラは前のめりに頷いた。

 そんなシエラの肩を優しく抱き寄せて、アルフレッドはザイラックから聞いた厄介な問題について話してくれた。

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