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包帯公爵の結婚事情  作者: 奏 舞音
結婚式編
202/204

第38話 時を超えて

「グリエラ」


 この時をどれだけ待っただろうか。

 ラリアーディスは愛しい人の名を呼ぶ。


「ラリアーディス様……」


 真っ赤な瞳でラリアーディスを見つめている。


「グリエラ、すまなかった……」


 数百年前、女神の加護を得てこの森に魔女を封じ込めた英雄。

 ラリアーディス本人が望んでいた結果とは違っていた。

 ただ、人間と魔女の争いを終わらせたかった。

 グリエラとの幸せな未来を描きたかった。

 二人の愛で、人間と魔女が共存できるのだと示したかった。

 しかし、そのためには一度お互いが冷静になる必要があると考えた。

 人間は魔女のように魔法が使えない。

 どうすれば冷静に話し合いができるのか。

 女神に知恵と力を借りた。

 森に結界を張ったのは、けっして閉じ込めるためではなかった。

 話し合い、和平を結ぶ。

 それが目的だった。

 けれど、人間たちは魔女を封じ込めたことでラリアーディスを英雄に仕立て、魔女は滅びたと人々に吹聴し始めた。

 人間側の完全勝利だ、と。

 いずれ魔女を森から解放するつもりだと言えば、目の敵にされた。

 それでも、ラリアーディスは諦めなかった。

 魔女が危険ではなく、人間への敵対心もないことが証明できれば、何の問題もないはずだ。

 そのためにも、まずはグリエラの誤解を解かなければならない。

 何度も会いに行ったが、会えなかった。

 グリエラはもう自分のことを愛していないのだと、彼女の友人に聞いた。

 ラリアーディスに裏切られたと思い、グリエラは絶望していたのだ。

 あの時は顔を見ることすらできなかった。

 だが今は、グリエラに直接想いを伝えることができる。


「生きていた時から、私の気持ちは変わらない。君を心から愛している」


 共に過ごした日々は長くはないかもしれないが、時間なんて関係なく、どうしようもなく心が彼女を求めていた。

 死ぬまで――いや、死してなおグリエラのことを忘れたことはない。


「こうして君に会える日をずっと待っていた。君に会うためなら、私は幽霊にでも悪魔にでもなれる」

「ラリアーディス様……私は……ごめんなさい。信じられなくて……こんな、こんなことになるなんて」

「君は悪くない。すべて私のせいだ」


 心優しいグリエラは、魔女たちが封じられたのも、この森が呪われたのも自分のせいだと思っている。

 涙を流し、一人で震える姿にラリアーディスは思わず彼女を抱きしめた。


「君はただ、仲間を守ろうとしただけだ。君だけに背負わせてしまった私の責任だ」

「それでも……私はあなたを憎みました」

「私を憎んでいてもいい。それだけ愛してくれていたということだろう?」


 グリエラの黒髪を撫でて、ラリアーディスは微笑む。

 数百年、幽霊になってまでこの世に執着してきたのだ。

 今更憎まれているからといって引くわけがない。


「信じられるまで、何度でも言う。君を愛している。今の私には、君への愛だけしか残っていないよ」

「本当に?」


 ラリアーディスの言葉を信じてもいいのか。

 一度裏切られた痛みを知っているグリエラの心は揺れていた。

 だから、ラリアーディスは迷うことなく頷いた。


「あぁ。君への愛が嘘だったら、とっくに諦めて成仏しているよ」


 そう言えば、初めてグリエラが笑ってくれた。

 ラリアーディスが一目惚れした、優しい微笑み。

 愛おしさで胸がいっぱいになる。


「最期の時を一緒にいられなかったが、せめて魂は共にありたい。私を受け入れてくれるか?」


 ラリアーディスの問いに、グリエラはこくりと頷いた。


「……愛しています。ラリアーディス様」

「永遠の愛を君に」


 二人の魂は、数百年の時を経てようやく結ばれた。

 その瞬間、“呪われし森”を覆っていた暗雲は晴れ、明るい光が差し込む。

 空を見上げると、見事な晴天が広がっていた。

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